後日談
ここは、国内有数の大学病院のある病室。
そこには、金髪の少女ーー今野花音が、酸素マスクを激しく呼吸しながら苦しそうに眠っている。
そのベッドの片隅で、白い髪の少女がうつぶせになってスヤスヤと寝ていた。
「……まったく、絶対安静で一歩たりとも動くなって言われた奴が、普通こんなところで寝るか?」
後ろにいた、爆発したようなボサボサ頭で黒ブチ眼鏡をかけた男ーー九条晶が呆れて部屋のドアを閉める。
白い髪の少女ーー今野鈴花が身体をゆっくり起き上がらせる。
「何の用?」
彼女は重たい目で彼を睨んだ。
「事情聴取が終わったから、報告しに来てやったんだ。知りたかったんだろう? ……アイツのこと」
彼女の顔色が変わった。
ーーもうあれから、三日経つ。
彼はーー私を救ってくれたアイツは、どうなったのだろうか。
ーーー
あの日。
金髪の少女ーー今野花音が、陽介達に迫り来る大きい岩を、それとはまた別の大きい岩を自分の超能力で動かし、お互いの岩をぶつけさせた。
それらの岩は粉々に砕けてしまった。
陽介はそれを見送り、自分が貼ったバリアを外すと、密かに隠れていた警察の特殊部隊が中に入り込んで陽介を囲み、銃を構える。
彼は、ハァ……とため息をすると、笑顔で両手を挙げた。
「抵抗する気は全く無い。捕まえるなら、さっさとしろ」
そこに、後ろから、誠護と雅が駆けつけた。
逮捕状を持った男が、それを広げて、こう叫ぶ。
「神谷陽介、秋本誠護、狩野雅。お前らを、武器の密輸、住居不法侵入及び居住、そして、殺人未遂の疑いで逮捕する」
そう言われると、彼らは何も抵抗をせずに逮捕されて、車へと運ばれた。
残された白い髪の少女ーー今野鈴花は、ただそれを呆然と見ていただけだった。
ーーー
その後、九条晶から、事情聴取を全て聞いた。
事件の一部始終や、あのロボットの仕組みから、あの男が耳栓をしていた理由まで。
その五日後、鈴花は一人、松葉杖をつきながら留置所へと向かった。
面会相手は、もちろん、神谷陽介だ。
鈴花は、一人面接室で待っていた。
そこで、自分の記憶をたどっていた。ーー記憶を失う前の記憶から。
そこで、彼に言われたあの言葉を思い出した時、ガラス越しのドアが開いた。
「よぉ、誰かと思えば、お前か!」
彼は、驚いた表情で彼女を見た。
そして、彼は嬉しそうに鼻歌を歌いながらパイプ椅子に腰をかける。
「お前と一度、ゆっくり話したかったんだ」
彼は、目をキラキラと輝かせながら彼女を見る。
「その……、お礼が言いたかったんだ」
彼女は下を向き、顔を赤らめ、頬を右手でかく。
「……?」
「……あのロボットが発してた超音波、あれは超能力者だけが聞き取れるものだ。あなたも、超能力者なんでしょう? そして、爆発によって建物が崩れるのを待っていた。……だから、あの戦いでも手加減をしていた」
「……手加減してたのを、バレないようにしてたんだけどな〜」
「以前に戦った時よりも手応えが無かった」
「…………チッ」
彼は、そっぽを向く。
「……そして、あなたが耳栓をしてた理由。あなたは、あの建物が壊れることを知っていた。そこからわかる事。それは……」
「お前を守る事」
彼女よりも早く、彼が真剣な表情で答えた。
「俺は、お前と約束したからな。その約束を果たしたかったんだ。……記憶が飛んでいるとは思わなかったが」
「その記憶も、あなたがあの時言った言葉で思い出した」
「……? 俺、何か言ったっけ?」
「ハァ……。『俺がお前を救ってやる』っていう言葉よ」
「あぁ、それか。……そう言えば、お前の妹はどうなったんだ?」
「……昨日、目が覚めた。記憶も体調も大丈夫。ただ……」
「超能力はもう、使えないってか?」
「……ええ。だから、私達がこれからどうなるかもわからない。だけど……」
「……?」
「ありがとう。あなたのおかげで私達は救われました」
その燃えるような赤い目から流れる涙と、その対照的な彼女の笑顔は、まるで輝く夕日のようだった。
本編は、これで完結です!
次回から、番外編を書こうと思います。
引き続き応援よろしくお願いいたします。




