デモの執行
一週間後。
神谷陽介たちは計画通り、デモを実行する。
―――
デモが大通りで行われている中、誠護と真由美は大通りの周りのビルの屋上から武装した人々がいるかを確認し、デモに紛れ込んだ陽介と雅は看板を持ちながら、もしもの時のための警備を行っていた。
『いたぞ。○○ビルの屋上と□□ビルの屋上に黒服を着た銃を構えた男が二人。……どうする?』
陽介と雅の耳に付いていた通信機から誠護の声が聞こえた。
「監視を続けろ。……何かあったら、その時の行動はお前らに任せる」
陽介は誠護たちに指示を出した。
『了解』
―――
そして、デモは大通りから国会議事堂前まで行進する。
『計画を廃止しろー!!』
『これ以上、犠牲を増やすなー!!』
そのような事を群衆は叫び、陽介はそれを聞きながら、見覚えのある男が国会議事堂の中にいる事を確認した。
―――
その頃、国会議事堂の中では、九条晶がある計画を企て、実行しようとしていた。
「こんな事されては、溜まらんなぁ〜。……アレを実行せざるを得なくなってしまったじゃないか」
「……九条博士?」
隣にいた政治家が首を傾げる。
「申し訳ありません、○○代表。……今、ここで『公開実験』を行わせて下さい」
「な……、何を言っているんだ!? 君は!! そもそも、なぜ今、やる必要があるのだ!?」
「……決まっているじゃないですか」
そう笑顔で言いながら、九条は政治家に向かって歩きだし、隣に寄ると、耳元で囁いた。
「アイツらをブッ潰すためですよ」
「なっ…………!!」
政治家は驚いて、言った。
「それは、駄目だ!! 国民に影響が出たらどうするつもりだ!!」
「アイツらはもう国民ではない。列記とした反逆者だ」
「……違う!! 私が言っているのは、デモを行っている国民たちの周りに被害が及ぶ可能性を指摘しているのだ!!」
「……多少の犠牲はやむを得ません」
「なっ……、キサマ!! 本気でそれを言っているのか!?」
「はい、私はいつでも本気ですよ?」
「キサマァ!!!!」
「じゃあ、こうしましょう! デモを行っている反逆者どもを射殺するのです」
『残念ながら、それは無理だな』
九条と政治家が付けていた通信機から男の声がした。
「誰だ!!」
九条が怒った口調で聞く。
『俺は神谷陽介の仲間だ。大将から護衛を頼まれてねぇ……。アンタらの仲間が俺らの仲間に引き金を引いてたんで、もう一人の仲間と一緒に、ビルの上にいた奴を全員、ロープで縛り付けておいた』
「……本当に、それで全員か?」
九条が不吉な笑みをこぼした。
『…………?』
―――
「誠護さん!! 後ろ!!」
真由美が銃を撃ちながら叫んだ。
九条晶にそっくりな男、九条新が空中に跳びながら、二本の剣で銃弾を全て真っ二つに斬る。
「なっ……!!」
誠護は驚き、素早く銃を撃つ。
新は空中にいるにも関わらず、二人の銃弾を全て躱した。
そして、新は地上に降りると、誠護がいる方向へと真っ直ぐ進む。
―――
一方、国会議事堂前では、陽介たちがビルの屋上の異変に気付く。
「雅、行ってくれないか?」
「……あぁ、わかった」
雅はそう言うと、こっそり群衆からはぐれ、走ってビルとビルの間にある壁を登り、誠護と真由美の元へと向かった。
―――
もう一方で、誠護と真由美は、九条新との戦闘で苦戦していた。
二人の銃弾は何度も彼に撃っても躱され、もしくは、斬られてしまう。
そして、九条新は、誠護たちの銃弾を避けつつ、誠護に接近すると、誠護を蹴り倒し、彼の顔に刃を向けたと同時に、もう一方の剣で誠護を助けようと銃を撃ちながら走って来た真由美に斬ることで対応し、彼女の銃弾が無くなった隙を見て、彼女の首に刃を突き付ける。
「さぁ〜て、どうする?」
九条新は笑みをこぼした。
すると、その後ろから、壁を登って来た雅が空中から九条新の剣に向かって四本の短刀を投げた。
短刀は見事に命中し、九条新が混乱している隙に、誠護と真由美は彼から離れ、彼に銃を向ける。
「……形勢逆転だな」
誠護が睨む。
真由美も誠護と同じく銃を突き付けて、雅は短刀を突き付けた。
その時までまともに相手の顔をよく見ていなかった雅は、九条新の顔をよく見た時、脳裏からあの思い出が流れだす。
あの時、父さんと母さんを殺した男に似ている。――いや、そっくりだ。
(……まさか、コイツが……!!)
そう思った雅は、「ハァァァーーー!!」と叫び、短刀を持って走りだすが、それにいち早く気付いた真由美が走り、雅を抑える。
「雅さん!! どうしたのですか!? あなたらしくないですよ!! もっと冷静になりましょうよ!!」
真由美は息切れしながらも雅に言う。
「アイツが……!! だって、アイツが……!! 父さんと……母さんを……殺した!!」
雅は大粒の涙を流す。
「復讐する!! 絶対してやる!! そう心に決めた!! ……だから、今、ここで!!」
雅は真由美から離れようと必死に暴れながら、野獣のような恐ろしい目で九条新に向かって叫ぶ。
すると、当の本人は、不吉な笑みをした。
「あぁ、あの時のチビッ子か〜。そう言えば、約束したよね〜? 今度僕と会ったら殺すって」
新は歩き出して、一本の剣を右手で拾った。
そして、その剣を右肩の高さまで持ち上げ、細めた目で雅を睨む。
「……やってみなよ」
そう低い声で言われた雅は、真由美を振り切り、短刀を二本持って九条新の元へと走りだす。
九条新は前を向きながら後ろにあるビルとビルの間の隙間の雅から見て奥側のビルにジャンプして、剣をビルに刺して態勢を整える。
雅はそれを追いかけた。
―――
「誠護さん!! このままじゃ、雅さんが……!!」
屋上の上でただ二人は立ち尽くしていた。
「……わかっている。真由美、お前の銃弾はあと何発残っている?」
「……ゼロです。予備も使い尽くしてしまいました」
「……そうか。実は、俺、一発だけ残っているんだ。……それに賭けるか」
「……誠護さん?」
真由美は首を傾げていた。
―――
雅はついに九条新に追い着こうとしていた。
雅は空中に飛び、九条新がいる場所へと迎う。
そして、雅は左手に持っていた短刀をビルに刺し、右手に持っていた短刀で九条新を刺そうとした、その瞬間。
バン!!
銃声が響いた。
銃弾が行った先は、雅の右手に持った短刀だった。
彼女の右手に持った短刀は、その衝撃によって、彼女の手から離れ、地上へと落ちていた。
それに気付いた雅は、大粒の涙を流し、九条新の胸を叩き、「クソォ……、クソォ……」と呟く。
屋上にいた誠護が雅を見下ろす。
「……雅。俺は、お前とその男の間に何があったかは知らない。……聞く気もない。
ただし、お前がしようとしたことは、やってはいけないことだ。……肝に銘じておけ」
雅はそれを聞き、誠護を泣きながら――しかしながら、笑顔混じりの顔で見上げる。
「……バーカ」
彼女は我に帰ったのか、そう言うと、自分の短刀を軸とし、それを抜くと同時に誠護の元に戻った。
誠護の隣に寄ると、「ありがとう」と小声で言った。
―――
陽介から通信機で連絡が入った。
『デモは無事終了した。……任務終了だ。アジトに戻るぞ』




