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第二十三話 悪魔の巣窟

 絶対どうかしている。何が起こったら、人間を水槽につめて放置しておけるのだろう。水槽に漬けられた男の目は、左右で違う方向を見ている。ふやけた皮膚はところどころ千切れていて、破れた皮膚の間から神経組織や白骨が見えたりした。――吐き気がこみ上げる。

「ひでえ」

 グレンが呟いた。クライドはこみ上げてくる吐き気に何も言えず、ただ目の前に在る死体を凝視していた。一体何を考えているのだろう。ここの連中は何を考えているのだろう。脳が理解を拒む。

 男はクライドと同じくらいの身長だ。右腕や左の膝から下がほぼ骨だけになっていて、良く見ればふやけた皮膚には手術痕があった。目の色は、濁っているが茶色だ。短く切られた髪は、保存液のせいかそうでないかは解らないが、淡い灰色をしている。

「クライド、立てるか」

「ごめん。手、貸してくれ」

 ここから早く去りたい。早く去ってどこかに逃げ込みたい。外の空気を吸い込みたい。けれどそうするためには、ここを探索してシェリー本人や彼女がいた痕跡を探し出すことが必要なのだ。

 グレンの手を借りて身体を起こし、肺に溜まった空気を大きく吐き出した。ここの空気は下層の嫌なにおいではなく、また少し違った薬品のにおいだった。今度は、防虫剤と消毒液のにおいが混ざったにおいに近いかもしれない。

「この階は無人か?」

「多分そう。でも、なんだろうあれ」

 クライドは、エレベーターの隣にある操作パネルのようなものに目を留めた。パネルは壁にねじでとりつけてある。何かのスイッチがたくさんついていて、殆どがオンになっていた。けれどそれが一体何を動かすものなのか、クライドには見当もつかなかった。

「何か書いてある。……ヒセロ濃度制御装置?」

 グレンは白衣のポケットに手を入れて歩き、じっとパネルを見て首を捻っている。

「濃度?」

 呟くと、グレンは静かに頷く。

「とりあえず、いじらないほうがいいみたいだ」

「ああ。なあ、さっさと終わらせて次行こう」

「言われなくても、俺だってそう思ってる。大丈夫か、クライド?」

 よろけたクライドはエレベーター脇の壁に身を預けるが、すぐに立ち上がって足早に歩いた。早足で歩いて、男性の死体の横を通り過ぎる。もう何も見たくないが、見なければシェリーの手がかりがわからない。

 過呼吸気味になり、胸が苦しかった。けれどクライドは前を向いて、青白い光にぼんやりと照らし出された無機質な水槽を見た。

 シェリーが漬けられているわけではないだろうから、別にこんなものなど見なくても良い。けれど、見ずに何かの情報を逃してしまうことがあったら困る。どうしようもないこの状況に、クライドは心の底から嫌悪感を覚えていた。時々水槽の中で泡が浮き上がる音がして、クライドはそれが聞こえるたびに肩を震わせる。

 水槽の中で息をしている人間がいたりしないだろうか。助けを求めてもがいていたらどうしようか。こちらを恨みがましい目で見つめていたりしたら?

 クライドは荒い息を何とかしずめようと努力しながら、水槽のひとつひとつを調べた。水槽には必ずアルファベットと数字四桁の番号が振ってあることが解った。大概は水槽の下の方に刻まれているが、稀に台座の部分に刻まれているものもあった。アルファベットや番号には規則性があり、エレベーター側から奥に向かうように番号も進んでいる。

「うわっ」

 少し離れたところでグレンが声を上げた。何かあったのかと思って声のした方に向かってみると、グレンはひとつの水槽の前で足を止めていた。

「……エルフ」

 クライドは呟いて、水槽から少し下がった。比較的きれいな状態で保たれている少年のエルフは、腹から内臓を飛び出させていた。だが、それ以外に外傷はみあたらなかった。髪の長いエルフで、その長さは彼の身長を微かに越えていた。

「異常だ、ここ」

「今に始まったことじゃないけどな」

 低く呟くクライドにグレンが乾いた声で答えて、感情の篭っていない笑い声を立てた。クライドはエルフの水槽に背を向け、壁伝いに他の水槽を見て回った。

 一体何の実験をしていたのだろうか。水槽の中には奇形の生物が沢山いて、なんだか見ているだけで倫理的概念が崩れていくような、そんな気がした。完全に狂っている。ここの責任者は一体どういう趣味でどういう主旨でこんなものを保存しておくのか。眩暈と頭痛が止まらない。クライドは黙々と水槽を見て回った。

 ここの研究所では、生体を奇形に変える実験をやっているとしか思えない。それ以外で、どうやったらこんなに生物が無残な形になっていくのか。中から破裂したような形の生物や、奇妙な触手や要らないはずの肢体が生えている生物の様子から見ると、この生物達はすべて内側から弄られているような気がする。だから、手術で奇形になったわけではないのだろう。

「グレン、もう戻ろう」

「最後のあれ、確認してくる。お前先戻ってろ」

 目に映った生物たちの成れの果てを、早く忘れたいと思った。クライドはエレベーターのドアにもたれかかり、ずるずるとその場に崩れ落ちる。エレベーターに縋るような形で呼吸を荒げていると、グレンがそっと後ろから腕を掴んでくれた。

 エレベーターに乗り込んで、地下二階に上がる。ドアが開くと、まず警告を表す黄色と黒の縞模様に縁取られた紙が目に入る。その紙は、目の前の突き当たりにある壁に貼ってあった。

『動物実験は右フロア、その他実験は左にて。誤ると大変危険です』

 見れば、貼り紙の両サイドにドアがあった。手分けして探すなら、二手に分かれることもできる。けれど今は、一人になるのが心細かった。あんなショッキングなものを見てしまったあとだから、グレンもクライドから離れようとはしなかった。

 二人で左のドアをくぐると、白衣姿の研究員が五人ほど確認できた。全員金髪で、風体はラジェルナ人に見える。二人はパソコンに向かい何らかのデータを打ち込んでいたが、残る三人は実験中のようだった。三人のうち一人は試験管を振っていて、一人は顕微鏡を覗いていて、もう一人は実験器具の後片付けをしていた。

 声をかけようかと逡巡していると、片付けの最中だった研究員が持っていた実験器具を落として叫んだ。

「クライド=カルヴァート!」

「え?」

 研究員の一言で、他の四人も顔を上げてこちらを見た。クライドは半歩退いたが、グレンは一歩前に出てクライドを背中側に押しやる。

 白衣姿の研究員五人は、即座に実験やデータの入力を中断してこちらに向かってくる。

「クライド=カルヴァート、ならびにグレン=エクルストン……」

 七三分けの研究員がぶつぶつと呟きながらこちらに駆け寄ってくる。

「何で俺らの名前知ってるんだよ、気持ち悪い!」

 グレンは叫び、向かってくる研究員の鳩尾に拳を打ち込んだ。けれど研究員は一人ではない。グレンの脇をすりぬけて、こちらにも小柄な研究員が駆け寄ってくる。

「わ、勘弁してくれ!」

 クライドは研究員をさっと避けたが、研究員はクライドの腕を掴む。つかまれた腕を捻って逆に研究員の腕を掴み、床へとねじ伏せながらグレンを呼ぶ。

「グレン、早く」

「待ってろ!」

 ねじ伏せた研究員の背中に脚を乗せて、身動きをとられないようにしておく。グレンは同時に二人の研究員を相手にしていたが、そうすると一人はクライドの方に来ることになる。

「クライド=カルヴァートを捕らえろ!」

「おっと、させねえよ!」

 叫びながらこちらに向かってこようとした研究員を蹴倒して、グレンは一人の研究員を昏倒させた。蹴倒した研究員が復活してこちらに向かってこようとする頃には、グレンが相手していたもう一人の研究員も昏倒していた。

 復活した研究員はとっさに防御の姿勢を取ったが、グレンにはかなわなかった。クライドの目の前で、グレンは研究員を合計で四人昏倒させたのだ。その鮮やかな手際に、クライドは感心した。

「クライド、そいつ気絶させなくていいのか?」

 グレンはクライドにねじ伏せられている研究員を見て言った。

「俺には無理」

「じゃ、俺に貸せ」

 クライドにねじ伏せられた研究員は、身をよじって抵抗する。まだ若い研究員で、年頃は二十歳かそれくらいだろうか。

「ひぃ! や、やめて、お願い! 俺まだ死にたくない!」

「死なねえよ」

 クライドが研究員を解放すると、グレンが彼の腕を掴んで立たせた。研究員はグレンの腕を振り解いて部屋の隅に逃げた。グレンはそれ以上追う気はないのか、小さく息をついてドアを開けた。

「クライド、先出ろ」

「ああ」

 言われたとおり先に出ると、グレンは十分に研究員を警戒しながら外に出た。そして、ドアを閉めた。クライドは左のドアを見て、それからグレンを見上げた。

「なあ、グレン。こっち行く?」

「……勘弁。ここ飛ばしていくのってナシ? 同じことだと思うんだけど」

「俺はありで良いと思う」

「じゃ、エレベーター乗ろ」

 意見はすぐに一致し、左の部屋にはいかないことになった。もっとも、右の部屋にだって奥にドアがあった。けれど、戻ろうとはグレンも言い出さないだろう。エレベーターに乗り込んで、今度は地上の二階を目指す。エレベーターはスムーズに動き、途中で止まることはなかった。

 ドアが開き、グレンが何気なく前に進もうとして立ち止まった。どうかしたのかと思って彼を覗き込もうとするが、怒鳴りつけられた。

「下がれ!」

 思わず身を竦めると、グレンは一人でエレベーターから降りてしまった。冷静に彼を視線で追うと、彼の視線の先にたくさんの研究員がいるのが見えた。長身の男もいれば、太った男もいる。見える範囲に居た研究員は全て男だったが、全員がひ弱そうな体格をしていた。

「グレン!」

「お前は下がってろ、奴らの狙いはお前なんだ!」

 グレンはこちらに叫び返してきつつも、しっかり研究員達の相手をしていた。黒縁の眼鏡をかけた研究員がグレンに投げ飛ばされて、床に叩きつけられるのが見えた。それをみて、大方の研究員は怯んだようだった。

 ここにいても、エレベーターが勝手に閉じて上に上がってしまう。クライドはエレベーターから降りて、こちらに気づいて走ってきた研究員に頭突きをかます。

「ああもう、何で出て来るんだよ」

「エレベーター勝手に上行くだろ!」

 少し離れた位置だが、クライドとグレンは研究員を相手にしながら言い争っていた。

「俺の気持ち考えろ!」

 言いながら、グレンは痩せた長身の研究員を蹴飛ばした。クライドはそんなグレンに対して舌打ちをしながら、向かってきた小柄な研究員を八つ当たり気味に殴り飛ばす。

「そんなこと言われたって!」

 いらついてきて、クライドは研究員の群れを見渡した。ざっと見ただけでも、四十人ぐらいの研究員が確認できた。いちいち蹴飛ばしたり殴っていたりしたのではきりがない。

 目を閉じ、想像する。研究員達が全員失神して、グレンが途方にくれている姿を。

 目を開けば、想像通りの景色が広がっていた。クライドはつかつかとグレンに歩み寄って、にやりと笑ってみせる。なんだ、さっきのフロアでも最初からこうすればよかった。

「俺のこと足手まといとか思ってたんだろグレン?」

「……まあな」

 グレンもにやりと笑う。

「今の結構かっこよかった」

 笑った顔のまま、グレンはクライドの背中を強く叩く。クライドは彼に笑みを返して、奥のフロアへと向かって歩き始めた。倒れた研究員たちの群れを通り越し、奥のドアを開ける。

 沢山のデスクが置かれた部屋だった。デスクには一台ずつパソコンが置かれていて、おそらく研究資料か何かが一台のプリンタから吐き出され続けていた。プリンタは見たところ、デスク二台につき一台という配分で置かれている。

「何かのマニュアルか?」

 プリンタに歩み寄ったグレンが、印刷済みの紙を拾い上げる。グレンはそれを読みながら、くすりと笑みを漏らす。

「クライド、お前これからおっかけファン増えるぞ」

「いや、要らないって」

 グレンの傍に歩み寄ると、彼から紙を手渡される。恐らくミンイェンが作成したと思われる文書で、タイトルからして頭を抱えたくなるものだった。

「クライド捕獲大作戦…… タイトルにひねりがないな」

「突っ込みどころ違うだろ」

 グレンに笑われつつ、クライドは紙を読み進めた。内容は、今後数週間のうちにクライドが逃げたらどうするか指示したものだった。

 実際に今の研究員達も指示通りに動いたらしい。紙には『人質のいる持ち場に配置されていない人間は、クライドを発見次第捕まえてミンイェンに引き渡せ』という内容のことが記されていたのだ。

「捕まえてくれたらいっぱい褒めてあげる! だって。どう思う?」

 ミンイェンの口調を真似て最後の一文を読んでみると、グレンが吹き出した。

「かなりきてる、色んな意味で!」

 二人で声を上げて笑いながら、変なマニュアルを記した紙を持ったまま部屋を移る。隣の部屋には資料らしきプリントの束がたくさんあったし、コピー機もあった。誰かが資料をコピーしようとしたらしく、コピー機には分厚い本が挟んであった。科学の論文らしく、読んでも意味がさっぱりわからない。

 グレンは部屋の中を歩き回って、不意に声を上げた。それと同時にクライドも、見知った少年の写真が印刷された紙束に気づく。

「あ。この資料、ノエルについてだ」

「グレン、お前のもここにある」

 紙束を振って見せてやれば、グレンはクライドからそれを受け取って読み始める。そして、不快そうな顔をした。

「何か気持ちわりいな。どこからこんなの知ったんだろ、ミンイェンとかいう奴」

「備考の欄に『シェリーという恋人がいる』って書いてあるけど。こないだシェリーに手を出そうとして大喧嘩になっただろ? あれについても細かく書いてあるぞ」

「うっわ、何だよ最悪。趣味悪いぞミンイェン、人んち痴話喧嘩覗いて楽しいのか?」

 グレンはため息をつきながら、自分について書かれたデータを放り出す。そして、今度はノエルについて書かれたものを乱雑に掴んで読み始めた。自分のデータよりも他の人のデータに興味をそそられるらしい。

 クライドはノエルのデータの残りの半分、つまり前半にあたるところを読んでみる。

「すげえぞクライド。ノエルがモデルやってたこともちゃんと書いてある」

「俺達でさえ知らなかったのにな、最近まで」

 肩を竦めながら、クライドは紙束に目を通す。生まれから時系列に沿って書かれていて、旅行の回数や大学でのいじめの件についてまで言及されていて気持ちが悪くなってきた。

「サラのことも書いてある…… 恋人に限りなく近いが、自分が彼女を病的に好きなことを自覚してあえて距離を取っている。彼女とは吹奏楽部の練習で間接キスして以降、目立った物理的接触はない」

「うっわ気持ち悪! どこから得たんだよその情報。四六時中カメラで追ってたのかよ?」

「本当にそういうレベル。だって、頑なに話そうとしない昔の話まで書いてあるぞ…… こんなの知ったらノエル絶対に嫌がるから、俺は知らなかったことにするよ。想像で書き換えとこ」

 大学時代にノエルが付き合っていたという美術講師の話を丸々削除して、代わりに作曲の勉強をしていたが挫折したという架空の事項を増やしておく。グレンは青ざめた顔をして頷いた。

「めちゃくちゃ気になるけど俺も見ないでおく、怖すぎるだろ。見ろよ、俺の初恋の話も書いてある。お前に話したことあった?」

「いや、ない。シェリーじゃないのかよ?」

「お前にまだ出会う前、近所に住んでいた年上の…… シェリーはきっと、俺の過去を見て知ってるけど。怖っ、シェリーの能力だって目を見なきゃ発動しないだろ。こいつらとは俺ら会ったこともないのに」

 ミンイェンはきっとクライドのことも深く調べつくしているのだろう。出身から家族構成まで全て。

 現在見つけてあるノエルとグレンのデータには、血液型や生年月日は勿論、身長と体重まで書かれていた。しかも丁寧なことに、いつ計った時のデータなのかも書いてある。この調子で行くと、スリーサイズや好きなタイプまで書かれていそうで恐い。

「とりあえず、先行こうか」

 言って見ると、グレンは頷いた。そして、クライドの先に立って歩き始めた。資料室を出て、デスクが沢山あるオフィスのような場所を抜けると、エレベーター付近ではまだ白衣の群れが気を失って倒れたままでいた。

 クライドはそれを気にせず、エレベーターの上向き矢印を押した。グレンと二人で並び、エレベーターが上がってくるのを待った。

「先はまだまだ長いな」

 グレンは呟いて、閉じたままのエレベーターのドアを見つめた。閑散としたフロアには、エレベーターが稼動する音だけが響いている。相変わらず白いだけの空間だが、クライドたちが囚われていたところに比べればまだ少しは色があった。このフロアは、壁に張り紙がしてあったり廊下に絵画がかけてあったりする。

「シェリー、泣いてないといいな」

「ああ」

 クライドの呟きに答えたグレンは、思いつめたような顔をしていた。シェリーを独りにして集落に置いていくことを決断した時、誰よりも辛い思いをしたのは彼だ。グレンには、どんな状況でも頑張りすぎるシェリーが今どんな思いでいるのかがきっと痛いほどにわかっている。彼はシェリーにそんな思いをさせないために一緒にいるというのに。

 エレベーターが降りてきた。クライドは中に乗っている人を確認せずに、エレベーターに乗り込んだ。中には誰も乗っていなかったから、研究員と鉢合わせて争うことにならずにすんだ。グレンも乗ってきたので、次は四階を目指す。

 四階までの道のりは意外と遠かった。というのも、途中で止まった三階で研究員と出会ってしまったからだった。ここの研究員のおそらく全員が、クライドたちの脱走を既に知っている。出会ったら倒さなければ、次へ進めない。

 クライドとグレンは協力して、三階にいた研究員の全てを起き上がれなくした。研究員を昏倒させるたびに湧いてくる罪悪感は、徐々にミンイェンへの怒りへと変わっていった。一体何のつもりで、ミンイェンはクライドをここにとじこめたのだろう。

「四階とうちゃーく。さあクライド、追っかけファンのご登場だ。今回はお前のファン、ざっと三十人はいるみたいだぜ」

 グレンの陽気な声とともに、研究員達がエレベーターめがけて走ってくる。おそらくエレベーターが動き始めた時から、ここに集まっていたのだろう。

 流石のグレンでも、いきなり三十人ほどの研究員達に襲いかかられたら苦戦する。クライドはグレンの横から彼を助けるようにして、小声で呪文を呟いて雷撃を起こしたりした。久々に、ちゃんと魔法を使っている感じがする。

「片付け終り。さて、四階には何があるんだろうな」

「オフィスだな、ここも。この建物、オフィス多すぎ」

 気楽に笑うグレンのとなりで、クライドも笑っていた。グレンがいれば、クライドは無敵になったように感じるのだ。襲い掛かってくる敵を難なくなぎ倒し、先に進む。それを、二人で連携して行う。

 戦闘を重ねるにつれ、クライドはなまっていた体がほぐれていくのを感じていた。そして、エルフ特有の運動神経がこんなところにまで役に立っていることをよく思い知らされていた。

 四階にいた研究員達は、エレベーター前に集結した者が全てだったようだ。クライドとグレンは簡単に四階の探索を終えて、次のフロアへ向かった。

 六階でも八階でも、エレベーターのドアが開いた瞬間に白衣の大群が襲ってきた。そして、六階にも八階にもシェリーの手がかりはなかった。無駄足を踏んだような気になる。だがそれでも探索しないと、もしも手がかりがあった場合に逃すことになってしまう。だから、無駄足になってしまっても探索をしないで飛ばすのは極力避けたい。 

「はぁ、流石に疲れないか?」

「休んでる暇がないってのが辛い。クライド、お前貧血になってないよな?」

「今のところは平気」

 エレベーターの壁にもたれ、クライドは荒くなった呼吸を整える。グレンは平気そうな顔をしつつも、やはり疲れているようだ。時々白衣の裾で、額の汗を拭っている。

「あ、畜生。もうお呼びだぞ、クライド?」

「……勘弁」

 エレベーターが止まる。ゆっくりとドアが開く。ドア越しに見える、白衣の大群。

 クライドは心持ち身を低くして、グレンは拳を握りこんだ。

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