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第十六話 街から街へ

 微笑めば、どんな女性でもたちまち虜にできそうな甘い顔立ち。系統としては圧倒的に『王子様』とか『貴公子』に分類されるであろう、浮世離れした雰囲気。古風な丸眼鏡とスタイリッシュなスーツという組み合わせが相変わらず洒落ている。中性的な顔立ちと柔和な態度が印象的な彼は、アルカンザル・シエロ島で去年出会ったレンティーノだ。ハビのカフェに客として来ていた時に、ハビと親しく会話していたのが印象的だった。

「クライドではありませんか。私のことを、覚えていらっしゃいますか?」

 流暢なエフリッシュ語を喋るレンティーノは、柔和な笑みを崩さないままクライドの腕を離した。声を出すことをやっと思い出して、クライドは瞬きをして呼吸を落ち着けてから頷く。

「勿論です…… レンティーノさん」

 名前を呼べば、レンティーノは嬉しそうに笑みを深める。真夏の日差しをものともせず、彼はノエルと同様長袖でいた。かっちりしたチャコールグレーのシャツに、濃いオレンジのネクタイが映える。流石に濃緑のジャケットは脱いでいるが、それでも脱いだそれを小脇に抱えている人は彼以外に見かけない。そもそもチャコールグレーのシャツなのに汗染みがどこにも見当たらないのだ。こんな季節外れな人間が近くに二人もいると、可笑しいのは自分のほうかと疑いたくなってくる。

「お久しぶりです」

 屈託のない笑みを見れば、再会を喜んでくれているのがすぐに解った。けれどクライドは、少女たちに流されていったノエルが心配で気もそぞろだった。『HoLLy』ビルの方角へ向かったのは分かったが、本当にビルに入っていったかどうかはわからない。せめて高台があれば見つけられるかもしれないが、ビル群の中にそういったものは見当たらなかった。どう見ても坂すらない。

「どうなさったのですか、クライド。何かお探しでしょうか?」

「すみません、俺と一緒くらいの赤毛の女の子と、ちょっと年上ぐらいの赤い鉢巻の男見ませんでしたか? 女の子の大軍をみかけたりは? 鳶色の髪をした、小柄な眼鏡の男も。人を探しにこの街に来たのに、探す人が増えて困ってるんです」

 訊きながら、クライドは自棄(やけ)になっていた。どうせレンティーノがシェリーを知っているはずがない。地下道から出てきたのならまだしも、彼は地上を歩いてきたようだったからノエルのことだって知らないだろう。……そう思っていたのに。

「赤い鉢巻の方は、白衣を着ていましたか?」

 しばらくして、レンティーノは言った。クライドは反射的に顔をあげ、彼を見る。彼は軽く握った拳を細い顎にあて、目を伏せていた。

「何でそれを! 見たんですか?」

「二時間ほど前でしょうか、あちらのカフェでランチを楽しんでいましたところ、鉢巻の方が急に声をかけてきたのです。エナークへ行きたいとおっしゃるので、一番発着便が多い空港を教えました。私は出張帰りで荷札のついたままのスーツケースを持っていましたから、声をかけやすかったのかもしれません」

 レンティーノは元来た方を軽く指さして、優雅に微笑んだ。スーツケースは今は持っていないので、どこかに預けてあるのだろう。

「エナーク…… 早く行かなきゃ」

 その前にまずはノエルを探すところからだ。そして、二人で一緒にエナークへ向かう手立てを考えなければ。シェリーへの手がかりはこうして意外な形で入手できたから、クライドはすぐにでもノエルを探さなければならなかった。まずは『HoLLy』近辺を探して、見つからないのなら聞き込みだ。

「ご一緒しませんか、クライド? 私も今から島へ帰るので。エナークを経由していきますから、彼が向かったエルシータ国際空港までお送りできますよ」

「え、あ、でも」

 ノエルがまだ。それを言おうとするが、レンティーノは微笑したまま続ける。

「折角お会いできたのですから。途中まで車で行きますので、交通機関を使うよりも時間の短縮になると思います」

「あの、嬉しいんですけど、友達が」

 言い出してみれば、レンティーノは不思議そうに訊ねてくる。

「どんな方なのです?」

「名前はノエルで、鳶色の髪をした小柄の眼鏡で…… というか、あの『HoLLy』のビルの人です。これ」

 説明より見せた方が早いと思って、先ほど携帯で撮った写真を見せた。レンティーノは琥珀色の長いまつげをしばたかせてポスターを眺め、こちらを向き直って柔和な笑みと共に頷いた。

「非常に解りやすい情報、ありがとうございます。少々お待ち下さい」

 レンティーノがズボンのポケットから取り出したのは、かなり薄い携帯電話だった。クライドの携帯の半分ぐらいしか厚さが無いように見える。いや、それよりもっと薄いかもしれない。

 力をくわえたら折れてしまいそうなその携帯電話には、邪魔な飾りが一切ないしストラップもつけていない。おまけに傷一つないので扱いがとても丁寧なのだと思う。シンプルな銀色のそれはとても近代的なデザインで、どちらかというとクラシカルな印象のレンティーノにはあまり似合わないデザインだとクライドは思った。

「こんにちは。ええ、私です。貴方に頼みたいことがあるのですが……」

 夏の日差しが照りつけるビルに身を預け、レンティーノの穏やかな声を聴きながらクライドは空を仰ぎ見る。入道雲と飛行機雲が浮かぶこの空を、本当ならクライドは仲間と見上げて談笑していたはずだった。下唇を噛み、焦る気持ちを押し殺す。

 やがてレンティーノは微笑しつつ話を終え、携帯をズボンのポケットに仕舞った。

「私の友人がこの近隣でイベントに出ているのですよ。あと十分ほどで終了予定ですから、彼に任せて私たちは行きましょう」

「友人」

「ええ。映画の完成試写会のイベントで、関係者として招かれているのです。『HoLLy』も協賛していますから、挨拶のために『HoLLy』ビルに向かうとのことです」

「それなら助かります」

「友人はイベントの後、エナークのスタジオに帰るそうです。見つけて一緒に来ていただけるように頼んでおきました。人探しであれば、お連れの方と別行動になってしまったとしても急いだほうがよいでしょう」  

「すみません、何だか」

「協力しますよ」

 レンティーノの心優しい申し出に、クライドは感激した。クライドは再び頷き、レンティーノについて歩き出した。だが。

 突然のことだった。魔法も使っていないのに身体が傾ぎ、クライドはその場に膝を折ってしゃがみこむ。

「クライド!」

「大丈夫です、多分……」

 答えながら理由を考える。考えてから、そういえば今日は朝から何も食べていないことを思い出した。時刻は四時半から五時ぐらいだろうか。太陽は既に西に傾き始めているが、この季節は六時ごろまでまだ明るい。だからなのか、空腹感を忘れるぐらいクライドは空腹だった。

 立ち上がろうとすると、全く初めてのことであるが、腹の虫が鳴いた。少し恥ずかしくなって俯くと、レンティーノが笑う声がした。

「少し早いですが、夕飯にしますか」

 このままではまた倒れるかもしれないと思い、クライドはレンティーノの申し出に頷いて歩き始めた。

 レンティーノの車があったのは、すぐ近くの駐車場だった。クライドは数分歩いただけで、彼の車にたどり着くことが出来た。この炎天下だ、日が傾き始めたとはいえまだ暑い。けれどクライドは、何となくその車に乗りたくなかった。

 なぜならそれは、素人目にもわかるほど高級感漂うハイセンスなクラシックカーだったからだ。なめらかな光沢のある黒塗りで、車のないアンシェントの出身でも知っているような高級ブランドのエンブレムがついていて、内装も革張りといったまさに高級車なのだ。こんな車に自分が乗ってよいのだろうかと悩んでいると、レンティーノは助手席のドアを開けてくれた。

「どうぞ」

 実に優雅な手つきで、レンティーノは助手席を指した。クライドはまじまじと革張りの助手席を見下ろし、それからレンティーノを振り返る。

 炎天下の街を歩き回って、クライドは汗だくになったのだ。シートを汚さないか心配だった。

「いいんですか、乗っても」

「何をおっしゃるんですか、クライド」

 朗らかな笑い。レンティーノは全くためらうこともなく、クライドを車に乗せるつもりなのだ。

 彼の好意に感謝しつつ、クライドは車に乗り込んだ。レンティーノはすぐにクライドの左側にある助手席に座り、ポケットからキーを出してエンジンをかけた。とたんに、エアコンの吹き出し口から生ぬるい風が吹いてくる。

 風は暫くすると冷たくなり、クライドは心地よさを感じた。しかし、自分が座っているのは高貴な感じのする男の隣。しかもシートが革張りで高そうだという二つのことを思い出して、クライドは緩みかけた心を引き締めた。

「では、参りましょう」

 レンティーノはにこやかにハンドルを握り、アクセルを踏み込む。ギュルギュルギュル! とおよそ公道を走っている車とは思えない音と共に急加速したレンティーノの高級車は、都会の路地へと急発進した。クライドはシートベルトをしていなかったので、ダッシュボードにしたたかに突っ込んだ。

「おや。お怪我はありませんか」

 急な原則をしながら優しげに言うレンティーノだが、クライドはすぐに頷けなかった。

 怖い。

 本気で恐ろしい。今の瞬間、クライドはきっと死というものに一番近い位置にいた。自動車には乗ったことがなかったクライドだから、この時点で既に『自動車は恐ろしい乗り物』という概念が頭に取り付けられた。

 交通事故の回避にエルフの混血であることが先程役立ったところだが、車に載ってしまえばそんなものは全く役に立たない。普通に死ぬ。

「すみません、クライド。私は、隣に人がいると上手に運転ができなくなってしまうのですよ。緊張してしまって」

「そ、そうなんですか」

「レストランにはすぐに着きますから、しばらく我慢して下さいね」

 夢中で頷いた。このエキサイティング(というより、デンジャラス)なドライブがすぐに終わることを本気で祈りつつ、クライドは助手席で身を固くする。

 数分後、本当にすぐにレストランに着いた。ちゃんと着いたのが奇跡だと思った。レンティーノは車を停めるのは上手で、あのスピードを殆ど落とさないまま急ブレーキで駐車場に停車した。普通そこで滑ったり突っ込んでしまったりするのだろうが、レンティーノは恐ろしく正確に駐車場の白線の中に車を入れている。

 クライドがようやく緊張感から解放されると、レンティーノは微笑した。

「ご馳走しますよ。おいしい紅茶を淹れてくださったお礼です」

「え、あの、いいんですか?」

「ええ、勿論です」

 考えてみれば、クライドは外食することが滅多になかった。行ったとしてもファストフード店止まりだったから、レストランに誰かと一緒に来るのはこれが初めてなのだ。アンシェントタウンにレストランは一軒しかなく、その一軒にもクライドは行ったことがなかった。

「ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。長い間お会いしていなかったのに、貴方は私の名前を覚えていてくださって…… 嬉しかったです」

 そう言うとレンティーノは微笑んで、歩き始めた。クライドもその後に続く。

 自動ドアをくぐると、よく喋る陽気な女性店員が営業スマイルを浮かべつつ席へ案内してくれた。あまり込んでいない時間帯だったから、二階か一階か選ぶことができた。レンティーノはクライドにどちらが良いか訊ねてきたが、クライドはどちらでも良かった。彼は微笑しながら、二階の禁煙席を選んだ。

 案内された席に着けば、窓から街がよく見えた。高層ビルが立ち並び、車のクラクションが響く街。クライドは、自分はこんなところには住めないだろうと強く思った。もし都会に住むのだとしたら、いつ事故に遭うか解らないという危険と背中合わせの毎日になりそうだ。全くもって恐ろしい。

 メニューを取って開いてみれば、様々な料理がずらりと並んでいて驚いた。どれも値段が高めで、ここが都会なのだとクライドは再認識する。奢ってもらうのだから安いメニューが良いだろうが、それを探すのさえ困難な気がしてきた。

「何を召し上がられますか」

「えっと…… メニュー多すぎて」

「ゆっくりで良いのですよ、クライド」

 そういわれてメニューをじっと眺めるが、久方ぶりにちゃんと座った気がして気持ちが落ち着ききっていない。あのドライブは安心して『座っていた』時間に数えたくない。シートに括りつけられていたというほうが正しい。くわえて、頭の片隅にはシェリーとノエルのことがある。二人のことが解決しなければグレンたちとも会えないし、そうしなければハビの問題も解決しない。果たして、時間は足りるのだろうか?

「これにします」

 問題は山積みになっているが、まずは目の前にある食事の問題から片付けよう。クライドは、メニューの中で一番目を引いたものを指した。ざるに盛られた真っ白な麺と、つけつゆのセットである。人気ナンバーワンと書いてあったから、とりあえずそれにしてみたのだった。冷たいものが食べたい気分だったからそれにしたのだが、クライドはこの料理がどういう名称でどんな味なのか知らない。

「お飲み物はどうなさいますか?」

「じゃあ、紅茶で」

「……足りますか?」

「はい」

「解りました。では、注文いたしますね」

 クライドと少し会話したレンティーノは、微笑して店員を呼んだ。若い女性の店員がこちらに来て、レンティーノからメニューを聞いてから厨房へ向かう。

 レンティーノはリゾットを食べるらしい。この暑いのに、よくそんなメニューが選べるとクライドは感心した。店の中は冷房がきいているが良いが、外に出ればまだかなり蒸し暑いのだ。

「疲れた顔をしていらっしゃいますよ、クライド」

 そこらを巡回していた店員からグラスに入った冷水を受け取りつつ、レンティーノは言った。店員はクライドにも冷水を渡して、それから去ってゆく。

 前にもこんなことを、ハビに言われた気がする。ハビもレンティーノも、どこか似た何かを持っている。何というか、二人とも一緒にいて安心できるような人だ。それに雰囲気も少し似ている。

 少し考えてから、二人に共通するのが包容力なのではないかとクライドは思いついた。ハビはまるで父親か年の離れた兄のような人であるし、レンティーノもそんなハビに少し似ているのだ。

「誰かを探しているのでしたね。どうしてですか? 差し支えなければ、お教え下さい」

「誘拐です。シェリー…… あ、女の子なんですけど、彼女があの赤い鉢巻男に誘拐されて。それで俺、追ってるんです」

「そうだったのですか。ですが私が見たときには、女の子はお元気そうでしたよ。誘拐…… なるほど、それで男性に手を握られるのを嫌がっていたのですね」

 彼の『元気そうだった』という言葉に安堵すると同時に、クライドは再び焦り始めた。

 今こうしている間にも、既にデゼルトはエナークについていて、そこから再び進路を変更して違う場所にいるのかもしれない。デゼルトは、そこでシェリーをどうするのだろう。考えただけで怖くなってくる。

 グラスに入った冷水と氷を見つめながら、クライドは深く思考の海に沈む。

 そして、ふとあることに気づく。デゼルトの白衣についてだ。一年の間に何があったか知らないが、彼が白衣を着ていたのには本当に驚いた。

 普通、人を誘拐するのにあんな目立つ格好をするだろうか。クライドなら誰かの印象に残りやすい白衣よりも黒い衣類を選ぶし、赤い額飾りも目立つから外す。

 それなのにあえてその両方を身に着けているということは、デゼルトがよほど警察に捕まりたいのか、その両方が手放せないぐらい大切なのかのどちらかになるだろう。

 いや、第三の可能性がある。彼が、クライドたちをわざと導こうとしている可能性だ。

「誘拐犯は、私服でいるのが普通ですよね」

 声をかけてみれば、レンティーノは少し考えてから答えた。

「そうですね。けれど、怪しまれないように何かの衣装を着ているということも考えられます。たとえば、警察官の制服を着た犯人がいるとします。彼が、誘拐してきた人質を不良少年に見立てたらどうでしょう? 逃げようともがく少年が、いくら自分が誘拐されていると主張しても、それは少年が警察官から逃げたがって言っている嘘のように思えませんか?」

 なるほど。あえて警察官などのふりをすることによって、目撃者の先入観を利用する手も考えられる。警察官が子供を誘拐するはずがないと、誰もが思うだろう。そんな風にして、着る物を利用することも考えられる。けれど。

「じゃあ、白衣はどうなるんですか」

 訊ねれば、レンティーノは困ったような顔をして首を捻る。

「医者の真似でしょうか。ひょっとすると、彼女を精神科病棟から逃亡した患者だと偽るつもりなのかもしれません」

「医者っぽくはなかったな…… あえていうならヤブ医者っぽくて、説得力がなかったです」

 クライドの言葉にレンティーノは笑い、正円の眼鏡越しに琥珀色の目を細めた。

「心配なのですね。大丈夫です。きっと、すぐに会えますよ」

 不思議と説得力のあるその言葉に、クライドは頷いた。少しだけ微笑む気力も戻ってくる。

「お待たせしました、リゾットのお客様」

 男性の声で思考を打ち切ると、若い赤毛のウェイターがリゾットを持ってきていた。暖かいリゾットからは白い湯気が立ち上り、見るからに熱そうだった。レンティーノはウェイターに会釈し、片手で自分の手前を指し示している。

 クライドの分の料理も、二人分の紅茶とあわせてすぐにきた。レンティーノはクライドの分が来るまで食べずに待っていてくれて、二人分のメニューが揃ったところでスプーンを取った。

 食事のあいだ、会話が途切れることはなかった。彼がアンシェントタウンでの暮らしについて訊ねてきたからだった。レンティーノはリゾットを上品な仕草で口に運んでは、微笑してクライドの話に頷いてくれる。そして、自分のアルカンザル・シエロ島での生活を話してくれた。本当に何気ない日常の話で、猫と図書館のことが主だった。由緒正しい血統のせいでダンスパーティーのお誘いが来るというあまりに浮世離れした話が出てきて驚いたが、彼の語る日常には最後までハビの話はでてこなかった。

 食事が済み、クライドは席を立った。レンティーノは車のキーをクライドに手渡して、先に車に行くように言った。

 目上の人が飲食店などで勘定するときには、その場にいてはいけない。確か、これがマナーだ。クライドは素直にしたがって、レンティーノの車へ向かう。

 助手席側のドアの鍵を開け、運転席側の鍵もあけておいてから大人しく座ってレンティーノを待つ。彼はゆっくり歩いてやって来て、ドアを開けた。

「お待たせしました」

 そういって優美な笑みを浮かべるレンティーノに、クライドは車のキーを返した。彼はクライドからキーを受け取ると、すぐにエンジンをかける。

「船を使えば空港まで早くつきます。港へ向かいますが、よろしいですか?」

「ありがとうございます」

 クライドがぺこりと小さくお辞儀した途端、車は急発進した。クライドは再びダッシュボードに頭をぶつけ、低く呻く。

「おや、失礼しました」

「……安全運転、お願いできませんか?」

 飄々(ひょうひょう)と笑うレンティーノを見て、クライドは心の中でため息をつく。何であれ、シェリーのいる可能性の高い場所へ連れて行ってくれるのは、今のところ彼しかいない。彼に縋るしかないのだ。

 だがクライドは、空港につくまで自分の命がもつかどうかが心配だった。

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