目覚め
意識が、遠くへ沈んでいく。
水の中を漂うような感覚。
音も、痛みも、
五感のすべてがゆっくりと鈍くなっていくように。
その暗闇の中で、声がした。
<……力が欲しいか?>
どこか懐かしく、どこか不気味な声。
(こんな体で……何ができる)
諦めの想いが、生きる気力すら奪おうと、体と心を縛り付ける。
<自らの母親との思い出も、ここで終わらせるのか?>
その言葉に母さんの顔が、脳裏に浮かんだ。
金色のバッジ。
奪われた、大切な思い出。
(……嫌だ)
<その命、賭してでも、彼らに抗う覚悟はあるか?>
答えはもう既に、決まっていた。
(――イエスだ)
<フハハハハハ……!!よかろう…>
<お前の願い、確かに受け取った…>
瞬間、歪んだ意識が現実に叩き戻される。
「……こいつ、熱くね?」
誰かの声。
右腕を抑えていた取り巻きの力が、ほんの一瞬だけ弱まった。
その瞬間――
体が、勝手に動いた。
肘が、男の脇腹に突き刺さる。
ボキッ、と鈍い音。
悲鳴を上げる暇もなく、男は崩れ落ちた。
左に居る、もう一人の脇腹に、掌底が叩き込まれる。
「――っ!!」
咳き込みながら倒れる。
馬乗りになっている男が、慌てて拳を振り下ろす。
動揺と焦りがこもった拳を掴む。
次の瞬間。
体の奥底から何かが沸き上がる。
白い炎のようなもやが、俺の手を包み込む。
炎は一瞬のうちに男の腕へと這い上がり、スッと消えた。
「力が入らねぇ……?!」
恐怖に歪む顔。
俺は、その男の拳を振り払った。
ガードもできないまま、
顎に拳を叩き込む。
さらに、こめかみ。
男は糸が切れたように白目を向いて倒れた。
素早く起き上がり、残った一人に向かって踏み出そうとした瞬間、
「――撤退だ」
低い声が響く。
その声の先には、あの大男が立っていた。




