しょうがない
グラスの中のビールをぐびぐびと飲み干す白髪のイケおじ。
グラスをコンッと机に置き、一息つく。
「ふぅー。もう一杯。」
まさかのおかわりを要求するイケおじ。
周囲からは、体調を心配する声、はたまたこの光景を面白がる声など、様々なものが聞こえてくる。
優平自身も体調を心配しながら覗いていると、
「あんたもあの爺さんが心配か?」
作業服を身にまとい、片手にグラスを持った男性が声をかけてきた。
「あの爺さん度々ここに現れては、大量の酒を飲んでいくらしいぜ。一昨日は1ケース20本丸々空にしたそうだ。」
とのことだった。
ぱっと見でも酔っている様にも見えないし、おそらく問題ないのだろうと思っていた時だった。
誰かが入口へ走っていき、すれ違いざまに袋を引っ張られたような感覚が手に伝わる。
走っていく姿を見ると、男が魚を一匹掴んでいる。
急いで袋を確認すると、ネギと魚一匹が袋から落ちていたが中の魚が一匹になっていた。
魚の形や色からして、買った魚が盗まれたのだと分かった。
「あんの野郎!」
男を追いかけたいが、人が多くて追い付くほどのスピードが出ない。
どうしても人や机で速度が落ち、差が埋まらない。
男が魚をもって入口に近くなった時、前方へ不思議な靄がかかる。
男はそのまま走り、靄がある場所へ突っ込む。
すると突如、なにか壁があるかのようにぶつかって転んだ。
「んだよ!何もないのになんで通れねぇんだ!」
「何もないだと?」
どうやらこの靄は男には見えていないようだった。
つまり、
「これも能力ってことか。」
こんなことをしたのは誰なのかは気になるが、助けてくれたこともあり、深く考えないことにした優平。
「兄ちゃん!落ちていたあんたの魚とネギだよ。」
親切に、先ほど落としたものをもってきてくれた人たち。
「ありがとうございます。」
軽くお礼をして受け取った。
「さてと…」
盗みをした男に近づき、盗まれた魚を拾う。
「人のモノ盗むとかいい度胸してんじゃん。」
少し怒った態度を出しながら男へ詰め寄る。
「みっ見逃してくれ!金がなくてまともに食う飯も買えないんだよ!頼む!!」
とのことなので一応事情を聴くことにした。
「…つまり、会社をクビになった勢いで、飲み食いしてたら金が少なくなり、この店で他人から飯を分けてもらおうとした。しかし、暗黙の了解で物々交換のようになっており、飯が食べられずやけになって盗みを働いた…と。」
聞いて呆れるような話だが、可哀そうとも思ってしまう。
「手持ちもあと3000円で給料日も2週間先なんだよ。頼む!見逃してくれよ!」
土下座までされるが、人のものを取ったことには変わりない。
加えて、1週間先の飯代も怪しいとなるとさすがに見逃すリスクがでかいと考えていると、
「あっ」
一つ微妙に嫌なことを思いだした。
「じゃあ一つ教えといてやろう。」
「ふぇ…?」
顔を上げ、半泣きの状態でこちらを見る男。
「午後6時ころに商店街を歩いてみろ。その時に、白い鉢巻をしたセールスが、お得に魚を売っているらしいからそいつから食べるものを買えばいいと思うぜ。この魚もくれてやるから、こんなこともうすんじゃねぇぞ。」
警察署へ向かう途中、絡まれたしつこいセールスのことをこの男に紹介しておいた。
(腕を強く握ったお詫びもかねて、紹介しとこ。)
少し悪い気もするが、おそらくいい方向に向かってくれるだろうと願う優平だった。
「ありがどぉ…。あした…いっでみる。」
男泣きながらは店に500円を払って帰っていった。
ひと段落着いたところで、先ほどの場所に戻ると、
「お!噂をすれば!」
周囲の興味関心が、優平へと向くのだった。




