速い?瞬間?
「お前、使えるんだな。」
男がつぶやき始めた。
「俺の疑問はもう解けた。これ以上やる必要はないが……警察がやられっぱなしじゃ、メンツが立たないよな。」
そう言いながら、ゆっくりと歩いてくる男。
先ほどとは、明らかに雰囲気が違う。
歩く速度は同じか、それ以上にゆっくりだが、油断も隙も見えない。
手袋を外した後、全身から立ち上がる赤色のように見えているオーラがそれを物語っていた。
「手袋外して本気モードかよ。中二病のガキか?おっさん。」
感情を揺さぶり、隙を引き出そうと煽る優平。
「あいにく、心は少年のままなのさ。」
しかし、乱れる素振りが一つもないどころか軽々と受け流されてしまった。
(こんなやばそうなやつに真っ向勝負挑めってか…)
距離が近づくたびに滴り落ちる汗の量が1つ、2つと増えていく。
距離が縮まり、両者の間合いまで後3、4歩といったところで、男も優平に触れようと手を前に出す。
間合いに入る一歩前、先に仕掛けたのは優平だった。
大きく一歩を踏み出し、男の手を引き寄せる。
前のめりに倒れそうな男の腹部へ、肘を入れにかかる。
(入る!!)
この状態なら深く入ると確信する。
「残念。」
次の瞬間、男は背後に立っていた。
急いで後ろへと拳を振る。
「こっちさ。」
またもや攻撃は当たらない。
加えて、今度は優平が攻撃を振った腕の横に立っていた。
この異常事態に今度は優平が距離を取ろうと動いた。
「そんなに焦るなよ。」
しかし、動く先に男は立っていた。
「どんな仕掛けだ?」
「なに、ちょっとした能力さ。お前も持ってんだから分かるだろ?」
赤色に見えていたオーラは幻覚などではなかったようだ。
この男も能力を持っていた。
どのような能力かははっきりとしていないが、優平の認識よりも先に行動が終わる程、速く移動できることは間違いない。
「瞬間移動か、高速移動ってとこか?」
おおよそのあたりをつけ、行動を考える。
(もし仮に瞬間移動か高速移動だったとして、連続で発動できるものなのか?)
瞬間移動であれば、移動後に再びノータイムで、発動というのはなかなか考えられない。
(あるいは一定時間使い放題か、使用回数までは使い放題か…)
男の能力の謎を考えるほどに、様々な可能性が浮上していく。
「やーめた。」
しかし、これ以上考えてもドツボにはまるだけ。
そう考えた優平は、逆に考えないことを選んだ。
「逃げるのかい?」
「ちげーよ。あんたの能力に悩んだせいで頭痛がしてんだわ。」
その言葉に、男はフッと笑ったように見えた。
「じゃあさっさと病院に送り返さなきゃな。」
そう言うと、男は何かをこちらに投げ、向かってきた。
その何かは、優平には当たらず横を通り過ぎていき、後ろに飛んでいく。
何だったのか確認をしようとするが、男はすぐ目の前まで、迫ってきている。
「チッ、やるっきゃねぇか!」
男が拳を握り、優平も構えを取る。
先に仕掛けるのは男。
素早い連続攻撃を繰り出す。
それを後ろに下がりつつ、ギリギリのところで避ける。
「避けてばかりじゃ勝てないぞ。」
男の発言に惑わされることなく、冷静に一発一発を躱していく。
優平自身も反撃をしたいところではあるが、それをする余裕がない。
加えて、男にはまだ効果が不明な能力がある。
(迂闊に踏み込めばやられる可能性がある。)
故に、攻撃をかわし続けるしかない優平であった。
攻撃の手を緩めない男だったが、ジャブのような素早い攻撃中心から、ストレートの大振り中心の攻撃に切り替えてきたようだった。
そこへ、わずかな隙が生まれる。
体を軽く捻り、ストレートを打ったあと、少しだけ重心が傾いている様に見える。
その隙を突き、足払いで体制を崩すことを思いつく。
(今だ!)
左ストレートを躱し、足払いをかけようと足を伸ばす。
パァァン!!
突如、後方からの破裂音と共に、足元がすくわれた。




