喧嘩上等
「おいテメェ。」
形見のバッチを無事に取り戻すためにも怒りを必死に抑えるが、隠しきることが出来ない。
「不満があるなら言ってみろ。」
その言葉を聞き、とにかく、自分のものであると証明するための手段を、思いつく限り伝えようとする。
「まず、監視カメラだ。それを確認しろ。次に、財布には身分証があるはずだ。それと俺の身元を照らし合わせて確認を…。」
「二度も言わせるなよ。そんなことをするまでもなく、お前には渡せないって言ってるんだ。」
自身の言葉を遮られながら伝えられたのは、やはり一方的な否定だった。
「その理由を伝えてくださいよ!!!」
立ち上がって机を叩き、男に問いかける。
「警察の内部規定によって、一般人への情報開示は原則認められていない。従って教える言われはない。」
その言葉が、さらなる怒りを呼ぶ。
拳を固く握り締め、我慢の限界に近づいていた。その時、
「そんなに取り戻したいなら、俺を倒してみろ。今ここで俺を倒すためにどんな手段を用いたとしても、お前を罪に問うことはしないと約束してやる。」
「は???」
突如、提案された想定外の内容に、思わず動きを止める。
その言葉が嘘であるかもしれないと疑問を感じた優平は、さらに問いただす。
「そんな約束を信じると思うのか。」
疑い深い優平に、あきれたようなため息をつきながら立ち上がり答える。
「俺が今録った録音データもある。これじゃ不満か?」
そう言い、歩きながら陰にあったボイスレコーダーを取り出した男。
予想外の出来事に熱していたはずの怒りが冷めようとしていた時、
「それとも、怖気づいたか?」
見え見えの挑発だ。
明らかに、何か意図があるかもしれない。
それでも、バッチを取り戻すという目的のために動く理由としては十分なものであった。
拳を構え、啖呵を切る。
「死んでも文句言うなよ。おっさん。」
「あいにく、死ぬ気でかかってきても俺は殺せねぇよ。」
その言葉と共に、ボイスレコーダーを地面に放り投げる男。
地面にぶつかるのと同時に、優平が勢いよく飛び出す。
そのまま腕を後ろに引きパンチを繰り出す。
(右の大振りストレートか…単調だな。)
優平が全力で振るう拳を、男は軽々と横へ躱す。
だがそれは優平もそれは想定内である。
体をひねるように切り返し、大きく左拳を振りかぶる。
男も避けようとはせず、この拳は当たると確信した優平。
しかし、パシィ!という音と共に拳は男に掴まれてしまった。
すぐさま掴まれた手を振りほどこうとするが、突如として体が宙に浮いていた。
(やべっ…これ)
宙に放り投げられてしまい、どうすることもできなく頭から落ちていく。
ダンッ!!
カーペットの敷いてある地面に落下し大きな音を響かせる。
「痛ってぇな…」
かろうじて受け身を取るも、落下の衝撃は大きかった。
その証拠に、体に力が入らず、立ち上がることが出来ない。
「そんなものか?」
上から目線でものをいう男に、鋭いまなざしを向ける。
「いつまで地面に這いつくばっている。さっさと攻撃してこい。」
変わらず挑発的な態度をとる男。
深呼吸をしながら、ゆっくりと立ち上がる優平。
「ふぅ~…」
体幹が安定せず、体がふらつく。
加えて、体が熱を帯びたように熱くなる。
前傾姿勢のような体制で、安定しない体をなんとか踏ん張っている。
(からだあっつぅ~…。内臓まで全身が焼けるような…。)
しかし自然と体は軽く、先ほどとは違ってリラックスした後のように体の強張りが無くなっていた。
(でも、ちょっとノってきたかも?)
不敵な笑みを浮かべ、男を見る。
「いい目をするじゃないか。」
にやりとしながらそう言った男の目には、体から湯気のような揺らめきが上がる優平の姿が映っていた。




