荷物の受け取りに、
警察署についた。
緊張を弱めるために深呼吸をしてから中へ入る。
警察署の中は、白を基調とした美しい内装が広がっていた。
入口から、大きく半円を描くようにそれぞれの窓口が設けられており、手前の空間には長椅子が用意されている。
窓口の後ろでは、山積みの書類や事務作業を進める職員の姿が見られた。
(事務って意外と忙しそうなんだな…)
可哀そうなどと思いつつ、落とし物窓口に向かった。
「すみませーん。」
呼びかけても反応がない。
「すみませーん。」
やはり反応がない。
「えぇ…」
船内の警備のため、この警察署は24時間動いている。
それに則して、窓口の対応時間も22時まで有効である。
「手続きじゃなくて、落とし物の受け取りだけだから、問題ないはずなんだけどなぁ」
そんなことを呟いたとき、窓口の下から「ゴンッ」と何かぶつかったような音がした。
「いったぁぁい!もぉ!」
嘆きの声が聞こえ、机の下から人が出てくる。
それは警察の窓口担当職員とは見えないほどだらけた格好をした女性であった。
よれよれのワイシャツで、首に掛かっているだけのネクタイ。
少しくしゃっとした髪の毛に、明らかに眠そうな顔。
変な部分を上げ始めたらきりがない程だ。
「もぉ、またやったしー。サイアクだわ。」
愚痴を垂れ、頭をさすっている中、目が会った。
「んぇ?」
「あのー…」
「お、お、お、お、お、お客さん!?」
明らかに動揺している。
「落とし物の受け取りに来たんですけど。」
「お、おお、お、おととしものですね!!」
本当に心配になるほど焦った様子で書類の山を整理し始めた。
(本当にこの人事務職か??)
不安になりながら待つこと10分。
「おま、たせ、しました!ごよう、けんを、どうぞ!」
終始見ていた優平は、息切れしながらでも対応するのは事務職の鏡だ、などと思ってしまった。
「落とし物が警察署に届けられているって聞いて。財布と、金のバッチと、身分証とか諸々を受け取りに来たんです。」
「えーっと、財布と、金のバッチと、身分証とか諸々…。あ、ちょっと待っててくださいね。」
そう言うと慌てた様子で裏の方に走っていった。
また待つのかなと思っていたら、
「あんたが持ち主だって言うのかい。」
鎧を纏っているかのような威圧感を放つ姿をした男が、後ろから現れた。
生物としてのレベルが違うと感じるほど、完成された体つきに、鳥肌が立つ。
皴一つない完璧な着こなしのスーツに黒い手袋。
恐怖からか、関わりたくない気持ちはありつつも、隠して接する。
「はい。僕が落とし主です。」
「じゃあ奥で事情を聴こうか。ついてきなさい。」
そう言われ、いかつい男と二人で、どこかの別室に案内された。
「その椅子に座って。」
何が始まるだろうと、身構えていると、
「担当直入に言おう。手続きが終わり次第、君の荷物は渡そう。」
その言葉を聞き安堵する。しかし、
「だが、この金のバッチは渡せない。」
「はぁあ!?」
ゆったりと椅子に座る男の、不可解な返答を前に、思わず叫ぶ。
「何で最初っから渡せないって言い切るんですか!?監視カメラでもなんでも確認してくださいよ!!」
声を荒げて異議を申し立てる。
「理由は単純さ。このバッチは、君のためのものでもなければ、君が持っている意味もないからだ。」
形見の大切なバッチを、そして何よりも母親の意思を否定されたことに怒りを覚える優平。
「確かに、このバッチは僕の母親の形見ですけども、それでも!お母さんが俺の安全を願って残してくれたものです。返してください。」
力強く発した、その言葉に対して返された言葉は、
「たったその程度のことなら、余計に渡すわけにはいかないな。」
この一言は、優平の神経を逆なでするには十分すぎる言葉であった。




