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『「害虫駆除」スキルでスローライフ? 私、害虫(ドラゴン)も駆除できますが』  作者: とびぃ


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9/50

2-4:スキル起動

意識を、研ぎ澄ませる。

目の前でうごめく、おびただしい数の生命。

イナゴ、ネズミ。

彼らもまた、生きている。ただ、生きるために食べているだけだ。

(……わかっている)

(わかっているわよ、そんなことは!)

(でも、ダメだ!)

(ここは、人間の『食料』を作る場所! お前たちの餌場じゃない!)

前世にっぽんでは、農薬という『力』で、その棲み分けを、私たちが無理やり行ってきた!)

(この世界ここでは、どうだ!?)

私のスキル、【生活魔法:害虫駆除】。

それは、ファティマの意思とは関係なく、ただ「害虫」と認識されたものを「排除」する力。

では、今、この場で、私(畑中みのり)が、このイナゴとネズミを、明確な「敵」として、「害」として、「駆除すべき対象」として、強く、強く「認識」したら?

魔力が、体の中から湧き上がってくるのを感じた。

それは、王都で感じていた、ランプの火のようなか細い魔力ではない。

まるで、みのりの激しい怒りと「敵愾心」に呼応するかのように、ファティマの体の奥底で眠っていた何かが、激しく脈打つのを感じる。それは、冷たい川の底を流れる、膨大な「力」の奔流だった。

(……私の『テリトリー』から)

私は、この目の前の、イナゴとネズミに食い荒らされている赤土の大地を、前世で守ってきた組合員さんたちの「畑」と、強く、強くイメージした。ここは私の「管理領域テリトリー」だ。

(……害を為すモノ(おまえたち)よ)

イナゴの羽音、ネズミの鳴き声。それら全てを「敵意」として、「害」として、ロックオンする。

(……去れ!)

私は、カッと目を見開いた。

そして、この世界に来て、初めて、明確な「意志」と「敵意」を込めて、スキルを発動した。

「――【生活魔法:害虫駆除】!!」

瞬間。

世界から、音が消えた。

いや、そう感じたのは一瞬。

私の体から、魔力という名の「威圧」が、目に見えない波紋のように、畑全体へと一気に拡散したのだ。

それは、熱波でも、冷気でもない。

もっと本能的な、根源的な「恐怖」。

『天敵だ』

『ここにいてはならない』

『逃げろ』

『死ぬ』

まるで、私の魔力が、彼ら害虫・害獣の脳に、直接そう命令しているかのようだった。

ブワッ!!!!

次の瞬間、畑を覆い尽くしていたイナゴの黒い雲が、一斉に、文字通り「爆発」したかのように、空へと舞い上がった。

しかし、それは、別の場所へ移動するための、統率の取れた飛行ではなかった。

パニック。

完全な、大混乱。

互いにぶつかり合い、方向感覚を失い、あるものは地面に叩きつけられ、あるものはあらぬ方向へと、我先にと逃げていく。それは、まるで強力な殺虫剤を浴びた虫たちが、狂ったように逃げ惑う姿、そのものだった。

キイイイイイイイイイイッッ!!!

地面を埋め尽くしていたネズミたちも、一斉に甲高い、この世の終わりかのような悲鳴を上げた。

彼らもまた、イナゴと同じ。

仲間を踏みつけ、我先にと、一目散に「畑の領域外」へと、必死の形相で逃げ出していく。その様は、まさに蜘蛛の子を散らすようだった。

それは、もはや「駆除」という生易しい言葉では表せない、「蹂躙」に近い光景だった。

数分後。

あれほど鳴り響いていた羽音も、鳴き声も、咀嚼音も、すべてが嘘のように消え失せた。

後に残ったのは、食い荒らされた作物の残骸と、不気味なほどの静寂。

そして、その静寂の真ん中に、泥だらけのドレスで立ち尽くす、私。

「…………」

「…………あ」

「…………なん、だ、今のは……」

遠巻きに見ていた村人たちが、腰を抜かし、あるいは自分の目を疑うように、ゴシゴシとこすっている。

エドガー村長が、その冷たい理性の仮面を剥がし、枯れ木のような手で自分の口元を覆い、わなわなと震えている。その氷の瞳が、驚愕と、恐怖と、そして……ほんのわずかな「期待」のようなもので、激しく揺れていた。

(……うそ)

私自身が、その光景に、一番驚いていた。

(……ただ、追い払っただけ? いや、違う)

(あのパニックの仕方は、尋常じゃない。本能の根幹に『恐怖』を植え付けた感じだ)

(私のスキルって、こんなに……強かったの?)

王都で、私を「外れスキル」と嘲笑ったアルフレッド王子の顔が、脳裏をよぎる。

地味? 役立たず?

冗談じゃない。

これは、農業にとって、これ以上ないほどの「チートスキル」だ。

害虫も、害獣も、私の「意志」一つで、この領域から完全に排除できる。

私は、自分の手のひらを、じっと見つめた。

この力があれば。

みのりの知識と、このスキル(ちから)があれば。

「……ふふ」

笑いが、こみ上げてきた。

疲労困憊の体に、アドレナリンがさらに追加される。

「ふ、ふふふ、あはははは!」

絶望の赤土のど真ん中で、泥だらけの令嬢が、突然、高らかに笑い出す。

その異常な光景に、エドガーたちが、さらにドン引きしているのがわかった。

「ファティマ、様……?」

エドガーが、恐る恐る、といった風に声をかけてくる。

私は、笑いを収め、狂気よろこびに輝く瞳で、彼を振り返った。

「……エドガー村長」

「は、はい」

「仕事の、始まりよ」

不毛の地での、私の戦い(はたけしごと)が、今、本当に幕を開けた。

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