全て終わり
王宮の大広間に、王族、貴族、重鎮たちが集められていた。
重い空気が支配するその場に、クラウディア・アーリントンは静かに歩みを進める。彼女の隣には、王とカミル王子の姿もあった。拘束は解かれていたが、二人の表情には疲労と苦悩の色が濃い。拘束時の暴力や威圧ではなく、クラウディアの闇魔法によってかけられていた呪詛の痕跡が見つかり、それを彼女が解いたのだ。
同時に、セレナの癒しの魔法によって二人の精神は穏やかな夢の中に導かれ、その間に深く内省する機会を得ていた。
かつての強情さも傲慢さも鳴りを潜め、今、彼らはただ静かに頭を垂れていた。
広間の中央には、ロッシュ伯爵家の面々、そしてその長男であるヘルベルト・ロッシュの姿がある。彼はすでに、クラウディアの闇魔法によって真実を暴かれ、十字の手の幹部であること、そしてこれまで関わってきた数々の罪状――レイラ・ヴァレンタインの両親の殺害、貴族社会の分断工作、数々の失踪事件の裏工作など――を自白していた。
その場で名指しされた十字の手の関係者たちはすでに拘束済みであり、王国の司法が正式に取り調べを進めている。
「――そして今、最後の解呪を行います」
クラウディアは、エミリア・ロッシュに静かに近づいた。
エミリアは混乱と恐怖の中にいた。これまで心から信じてきた“被害者としての自分”という記憶が、どこか曇っていることに気づき始めていた。
クラウディアはそっとエミリアの額に手をかざし、低く呟いた。
「貴女の心に植えつけられた偽りの記憶、その棘を抜きます。これは、貴女自身のためでもある」
魔力が空気を震わせる。数瞬の沈黙の後、エミリアの身体が小さく震えた。
目を見開き、泣き出す彼女は、呪いの中で歪められた記憶の数々を思い出す。
兄に「お前は被害者だ」と繰り返され、怒りと被害者意識を擦り込まれていたこと。
クラウディアの行動を、何一つ理解しないまま悪意と解釈してきたこと。
そして、自分が知らず知らずに陰謀の一部として利用されていたこと。
「……ごめんなさい……ずっと……わたし……」
嗚咽するエミリアの前に、クラウディアはしゃがみ込み、そっと彼女の肩に手を置く。
「あなたが悪いわけではない。けれど、これからの選択はあなた自身の責任よ。どう生きるか、考えて」
そして、クラウディアは立ち上がり、今や青ざめた面持ちの国王と王子へと視線を向けた。
「お二人がこの事態を引き起こしたことに、間違いはありません。しかし、その根底には操られた意志と、我々の不干渉もあった。王家が国を導くのに相応しい力を失ったと判断した今、この場をもって、我が家は宣言します」
彼女の言葉に呼応するように、兄であるシリルとルーファスが一歩前に出て並び立つ。そして、クラウディアがはっきりと口にした。
「我々は、エドワール王子を正当なる王位継承者と認め、擁立いたします。」
ざわめく広間。その中心で、現国王はゆっくりと立ち上がった。
その瞳にあったのは怒りでも否定でもなく、深い後悔と疲労だった。
「……私は……私は……自らの愚かさが、恥ずかしい。私の不甲斐なさがここまで国を蝕んでいたとは……」
彼は、静かに王冠を外す。そしてエドワールに差し出すのだった。
「お前に託す。私は、全ての地位を放棄し、退く。……どうか、民を導いてくれ」
エドワールは目を伏せ、黙礼する。
「ありがとうございます、父上。どうか、今後は一人の民として静かにお過ごしください」
こうして、王位は正式にエドワールへと譲られ、国は新たな時代を迎えることとなった。
アーリントン家と共に、王国を覆っていた闇を取り除く戦いは、ようやく終わりを告げたのだった――。




