王たちを拘束
王の命によって、数万の兵がアーリントン侯爵領に向けて進軍を開始した。だが、それは無謀な戦だった。侯爵領の外縁に到達した時点で、王軍はすでに膨大な情報網に把握され、動きも士気も見透かされていた。
アーリントン家が誇る鉄壁の防備と戦略的な地形。城下には一糸乱れぬ配備がなされ、農地や村々も避難済み。どこにも隙はなかった。
それでも王は進軍を命じた。理性を欠いたその命令に将たちの顔には陰りが浮かんだが、逆らえば粛清されるだけだ。沈黙は反逆。それが今の王の姿勢だった。
「撃て!門を破壊せよ!アーリントンを血で洗い流すのだッ!」
王の号令が響いたときーーー
地面に落ちる影が、唐突にざわめいた。
不自然なほど濃密な闇が地を這い、あっという間に王の足元に達すると、黒蛇のように絡みつき、拘束した。
「な、何だこれは!?動けん……!ぐっ……!」
「陛下、お下がりを――ッ!」
騎士たちが駆け寄るより早く、影の中から静かに一人の少女が現れた。
クラウディア・アーリントン
すでに彼女は闇魔法によって王とカミル王子を完全に捕え、そのまま気絶させた。
「……やはり、ただの暴走じゃない。これほどの感情の偏り、思考の歪み……」
クラウディアは王の額に指先を添える。微細な影を通じて、王の魔力の流れを探る。そこにあったのは、人の意思とは思えないほど強烈で歪な「呪」の痕跡だった。
「これは…呪い…術式の一部ね…。しかも、深層意識に直接刻み込まれた、長期支配型…!」
クラウディアの顔に強張りが走る。
この構造は知っている……十字の手だ。
「……やっぱり、あんたたちだったのね」
かつて十字の手は、各国に影響を及ぼす「影の勢力」であり、王政・貴族制を揺るがす革命的な手段と洗脳を用いて、世界を覆そうとしていた。
クラウディアの視線が、気を失ったカミル王子にも向く。彼の魔力もまた、深く染められていた。
「……カミル王子も…操られていた。」
みなが息を呑む。
エドワールは辛そうな顔で言った。
「十字の手……奴らは、まだ生きていたのか」
「ええ、そして脅威はまだ、終わっていないのよ」
静かに、だが決然と、クラウディアは闇の中に立つ。
その瞳に宿るのは、すべてを終わらせる覚悟。
「真の敵は、もっと深くに潜んでる」




