王が動く
アーリントン侯爵邸・密会の場にて。
集まったのは、クラウディア、レオンハルト、セレナ、アレク。そして、シリルやルーファスを含むアーリントン家の主要人物。空間には緊張と覚悟が張り詰めていた。
「王が、動いた。」
レオンハルトが口を開く。
彼の口調は冷静だったが、その内容は重かった。
「我がアーリントン家が、エドワール王子と接触したとの情報が、どうやら漏れたようだ。王は”謀反の兆しあり”として、王都に残る軍の大半を率いて、我が侯爵領に兵を差し向けるつもりらしい。」
クラウディアが眉をひそめる。
「けれど、王都の兵の多くは…」
「…アーリントン家に忠誠を誓っている者が多い。そうだろう?」
割って入ったのはルーファスだ。冷静に状況を分析しながら、クラウディアを見た。
「私兵だけでなく、正規兵の一部にも我らを真の守護者と見なす者は少なくない。王が独断で軍を動かせば、分裂は避けられないだろう。」
セレナが小さくため息をつく。
「つまり、王自ら動くというのは、最後の手段に出たということね。追い詰められているのは、あちらの方。」
「だが油断はできん」とレオンハルト。
「王の側には“闇の貴族”と呼ばれる一団――エミリア・ロッシュの兄、ヘルベルトをはじめとする秘密結社の存在がある。奴らが背後から手を回す以上、単純な戦力では測れん。」
長兄が一歩前に出て言う。
「この機を逃す手はない。我らは兵を起こす。だがそれは反乱ではない。正統な王位継承者を擁立する動きとして進めるべきだ。」
「エドワール王子の意志を、文書として公開しよう。王の過ちを正し、国を守るための戦いであると。」
クラウディアはその言葉に小さくうなずいた。
ただ心に引っかかるものがひとつあった。
「……わかっていると思うけれど、私は王妃になりたいわけじゃない。玉座に座りたいわけでもない。」
「当然だ」とレオンハルトは笑う。「クラウディア、お前の発するものは、君臨することではなく…」
「…国を変えること、でございましょう?」
静かにそう言ったのは、フィンだった。
クラウディアは、フィンの瞳に射抜かれたような気がして、小さく笑った。
「ええ。私は…この国を正しい方向へ導くための影でいたい。」




