疑心暗鬼
深い闇に包まれたシュタイン王国の王宮。煌々と輝く燭台の灯りが、石壁に長く影を落としている。王族の会議室には、緊張した空気が張り詰めていた。
「アーリントン侯爵家が、密かにクーデターの準備を進めている――その疑惑は、単なる噂ではないようだ」
厳格な表情で言葉を発するのは、王族の長老の一人。鋭い眼差しが会議室の隅々を射抜く。
「確かにレオンハルト侯爵は古くから王国に忠誠を誓い、数々の戦で王家を守ってきた。だが、近年の動きを見れば、彼の家系の影響力は増すばかり。王家の権威を脅かしかねぬ存在だ」
別の王族が口を挟む。
「それに、クラウディア嬢が国外追放されたのも、侯爵家の影響力を削ぐための王家の策略だったのではないか? 追放の後にヴァル王国とサマール王国が手を結び、我々に対抗しようとしていると考えれば、つじつまが合う」
「我々の立場は危うい。アーリントン家を取り込もうにも、彼らは頑なに拒否している。これ以上彼らの勢力を増すわけにはいかぬ」
「ならば、先に手を打つべきだ。彼らが何かを企てる前に、“やられる前にやる”――それが王家の役目である」
声を上げた若き王族の瞳は、冷酷な決意に燃えていた。
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一方、遠く離れたヴァル王国とサマール王国の王宮では、まったく異なる視点でこの情勢が語られていた。
レグナルト三世は書物の山の前に立ち、穏やかな表情で話し始める。
「シュタイン王国の王家は疑心暗鬼に囚われ、アーリントン侯爵家をクーデターの黒幕として警戒しているようだ。しかし、我々の認識は異なる」
アゼルは隣に立ち、重々しく頷く。
「クラウディア嬢とその仲間たちは、決して王国を滅ぼそうとしてはいない。むしろ、平和と繁栄を願って行動している」
「もし万が一、何かが起これば、我々は彼らを支援する覚悟がある」
レグナルトは遠くを見るように視線を泳がせながらも、声に揺るぎはなかった。
「彼らは新たな時代の風をもたらす希望だ。我々が協力することで、この地域に安定と発展をもたらせるはずだ」
アゼルはさらに言葉を継いだ。
「ただ、王家の過剰な疑念は事態を悪化させかねない。双方が冷静に歩み寄らねば、無用な血が流れることになるだろう」
二人の王は、歴史の重みを感じさせる落ち着いた声で未来への決意を語った。
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一方、アーリントン侯爵家には、王家の妄想めいた噂が瞬く間に届いた。
「我らにクーデターの冤罪を着せようとは、何たる侮辱か!」
深く刻まれた戦士の顔に激しい怒りが燃え上がる。
レオンハルト・アーリントン侯爵は、冷たい瞳で報告書を見据えながら、静かに声を震わせた。
「我らの誇りは、王家への忠誠にある。だが、もし王家が我らを敵と見なすなら…その時は、戦わねばならぬ」
その言葉に、長兄も次兄も強く頷いた。
「覚悟はできている。だが無益な流血は望まぬ。まずは事態の真相を暴くのだ」
暗闇の中、彼らの決意は固まった。




