アーリントン家
厚く閉ざされたカーテン越しに、陽の光がわずかに差し込んでいた。書架にはびっしりと記録文書が並び、長机の上には機密印の押された報告書がいくつも積まれている。
レオンハルトは椅子に深く腰を下ろし、報告書を指先で軽く叩いた。
「……やはり、陛下は焦っておられるようですな。ヴァル王国とサマールの同盟が、ここまで揺さぶりになるとは」
その前に立つのはクラウディアの長兄シリル。
飾り気のない軍装に身を包んだ彼は、机に報告の一枚をそっと差し出した。
「この三日で、宮廷内の影と文官あわせて六名が左遷されました。内三名は我らが差し向けた者だ。粛清を始めたのだろう」
「我らが動いていると――王家も気づいている、ということか」
レオンハルトの声は静かだったが、瞳にはわずかな笑みが滲んだ。まるで獣が牙をむき始めたかのようだ。
部屋の奥から足音が近づく。ルーファスが手帳を片手に姿を現した。短く切り揃えた髪に、筆記用具のインク跡が残る指先。クラウディアの前ではヘラヘラした調子の良い兄でいるが実際は人当たりの良さを武器に文官の顔をしながら、諜報と分析に特化したアーリントン家の切り札。
「……例の女、エミリア・ロッシュ。彼女の兄――ヘルベルト・ロッシュが、“十字の手”の幹部であるという裏が取れました。以前のクラウディアからの報告にあったヴァル王国側の話とも一致している。これが決定打だろう」
レオンハルトの眉がわずかに動く。
「“十字の手”……王家とつながりを持つあの秘密結社か」
「正確には、“過去に切れたことになっていた”はずの組織です。ですがいまも財務局の裏帳簿に資金の流れがある。王妃の側近が動いている。これを機に、腐敗の証拠として一気に公に出せる」
シリルはゆっくりと頷いた。
「機は熟しつつあるな。……だが、まだ剣を抜くには早い。クラウディアの立場もある。動くのは、あの子の足場が整ってからだ」
「ヴァル王国は彼女を“友”と認めた。サマールも協力している。この流れを、王家はどう捉えている?」
「『我らへの非難』――としか思っておらぬ。そして疑心暗鬼の果てに、アーリントンを孤立させようとしている」
レオンハルトは机に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。口元が笑みを浮かべている。
「ならばこちらも、覚悟を見せよう。……王家が我らを切るなら、それは国の命脈を断つということ。」
その言葉に、二人も静かに頷いた。
三人の男たちは、かつて幼きクラウディアと穏やかに日々を過ごした邸宅の中で、今は国家を揺るがす情報を手にしながら、王家という巨木の腐敗を見つめていた。




