揺れるシュタイン王国
ヴァル王国とサマール王国の連携は、ただの国境整備や冒険者拠点の建設に留まらず、周辺諸国に強烈な波紋を投げかけていた。中でも、最も動揺を隠せなかったのは、クラウディア・アーリントンの故郷たるシュタイン王国である。
新設された冒険者拠点の落成式。そこにおいて、ヴァル王国国王レグナルト三世とサマール国王は、正式な賓客としてクラウディアたち四人――クラウディア・アーリントン、フィン・レオネル、セレナ・カルミア、アレク・ルゥ――を迎え入れた。両国王の前で彼らの功績が讃えられ、深い感謝と敬意が述べられたことは、ただの礼節の域を超えていた。
それはあたかも、クラウディアが追放された祖国――シュタイン王国に対する、間接的な批判であるかのようにすら映った。実際、王都に戻ったシュタイン王国の使節団は報告の中で、「アーリントン令嬢が賓客として扱われ、各国王自らが彼女を賞賛した」と伝えている。
王族たちの間に、にわかに緊張が走った。追放されたはずのクラウディアが、今や国境を越えて他国からの敬意を一身に集めている――それはすなわち、シュタイン王国の判断が誤っていたとする、内外からの無言の指摘であった。
王宮内では、アーリントン侯爵家を今一度封じ込めようとする動きが強まる。特に、レオンハルト侯爵――“黒狼”の異名を持ち、かつて王国最強の騎士と称された男の血を継ぐクラウディアを危険視する声は強い。もしアーリントン家が、国外からの後ろ盾を得て反旗を翻したなら……。その懸念は、やがて王族の中で「現実的な脅威」として囁かれるようになっていく。
しかし、アーリントン家を慕う声はなお根強い。レオンハルト侯爵が王国のために命を賭して戦ってきた記憶は、国民の中に深く刻まれている。彼の娘であるクラウディアが冷遇されていることを知る者たちは、その扱いに疑念を抱き始めていた。
次第に、風向きは変わりつつあった。王族の権威に対する不信。他国と歩みを共にすることを選んだクラウディアたちへの共感。それらが静かに、しかし着実に、王都の地を揺るがしていく。
「アーリントン侯爵家は、すでに王国の民心を掌握しているのではないか」
「国外に新たな居場所を得た者たちが、やがて王国へ刃を向けるのではないか」
そんな声すら漏れ始める中、一部の王族たちは疑念を恐怖に変え、ついにはこう囁き合うのだった。
――「アーリントン侯爵家は、クーデターを画策しているのではないか」と。
静かに、しかし確実に。時代は、揺らぎ始めていた。




