レグナルトとアゼル
薄明の静けさに包まれた一室。
石造りの廊下を遠ざけるように扉が閉まり、重厚な静寂が満ちた。
ヴァル王国の王、レグナルト三世と、
東の大国・サマールの王、アゼルが向かい合う。
互いに信頼しうる者以外、誰一人この場にはいない。
「……さて」
レグナルトが静かに口を開く。
「こうして直接顔を合わせるのも久しい――よくぞお忙しい仲ご足労いただき恐縮です、アゼル殿。」
「互いに“忙しさ”などという言葉を言い訳にできる身ではあるまい?」
アゼルが微笑を浮かべた。だが、その双眸は鋭く光を宿している。
「それより――クラウディア嬢の件だ。
あれはただの“国外追放された令嬢”ではあるまい」
「ふ……やはり、見抜いておられたか」
レグナルトは小さく頷いた。
「当然だ。なにせ――レオンハルト・アーリントンの娘だ」
その名が口にされた瞬間、場の空気が一瞬張り詰めた。
アゼルはグラスに手をかけながら、懐かしげに目を細める。
「若かりし頃、北部国境の演習地で剣を交えたことがある。
互いに名を伏せていたが――すぐに気づいたよ。あれは只者ではなかった。
一太刀ごとに、誇りと覚悟が刻まれていた。
……まさか、あの男の娘が、あのような形で“捨てられる”とはな」
レグナルトの顔にも陰がさす。
「シュタイン王国の現状は、私も聞き及んでおります。
王は政務を王妃に預けすぎており、宰相派と王妃派が勢力を競い――
その渦中にあって、アーリントン侯爵家は、明らかに冷遇されている。
……功を誇らぬ名門ゆえに、か」
アゼルは静かに頷く。
「娘を“悪女”に仕立てて追放し、その後任の婚約者を……
あのような浅薄な少女にすげ替えるとは。
最も王位剥奪され、弟殿下が次代の王と内定しているとは聞くが…」
「嘆かわしい限りですな。」
「クラウディア・アーリントン。
いずれシュタインの誤りが露わとなったとき、国が栄えるか、滅びるか、どちらにせよその名が、響き渡る事だろう。」
「もしもの時は、我々も手を貸しましょう」
レグナルトが静かに言う。
アゼルはふと笑みを浮かべた。
「アーリントンが困難な時は当然手を貸す」




