救い出して、そのご
アジト壊滅から数日後。
王都近郊の野営地で、クラウディアたちは焚き火を囲んでいた。
ぽつり、とセレナが言った。
「今回、助けられて本当に良かったよね。でも……今ごろ、あの子たちはどうしてるんだろう」
クラウディアは火を見つめながら頷いた。
「ギルドが一時保護はしてくれるけど、それで“生活”が成り立つわけじゃない。身寄りのない子も、仕事がない子もいたわ」
セレナはしばらく黙っていたが、意を決したように言う。
「今までの依頼で、私たち結構報酬もらってきたよね。何か、使えないかな?」
そのとき、焚き火の向こうからフィンが静かに歩み寄った。
「実は、気になって少し調べたんです」
彼は小さな冊子を取り出す。ギルドの調査記録と、ヴァル王国内部の行政資料だった。
「ヴァル王国は、シュタイン王国よりも自由ですが……制度面はまだ遅れています。孤児や保護された女性が安心して暮らせる公的な場所は、ほとんど整っていない」
「じゃあ……行き場のない人は、またどこかに吸い込まれるってこと?」
セレナが眉を寄せた。誰よりも“音”に敏感な彼女には、救いを求める無音の声が今も耳に残っているのだろう。
アレクが黙って聞いていたが、急に立ち上がった。
「なぁ、俺さ、報酬けっこう溜まってきたんだよな!」
ポーチを取り出し、どさっと金貨を火のそばに置く。
「これでその……シェルターってやつ、作れないかな!? 屋根があって、飯が出て、悪いやつが来ねぇ場所!」
セレナが目を丸くし、クラウディアが小さく笑った。
「アレクらしいわね。でも……建てることはできても、運営には人手も物資もかかるわ。常にお金も動くし」
「それなら、俺らでやるのはどう?」
「え?」
「拠点って考えたらさ、悪くないじゃん!? 依頼の合間に顔出して、食料届けたり、護衛したり。ギルドにも協力してもらえたりしないかな?」
クラウディアは目を伏せて考え、やがて言った。
「……試してみる価値はあるわ。特に私なら、侯爵家の名を使えば動かせる援助もある。名前だけの“名家”で終わりたくないしね」
フィンが腕を組んで、クラウディアの方を見た。
「お嬢様、我々報酬にはほとんど手をつけていませんよね?」
クラウディアは小さく笑った。
「……そうね。そもそも侯爵家から必要なものは持って来ていたし、今は旅の途中。必要最低限の装備と、食事があればいいと思ってたからね。」
「その資金も使って……ちゃんとした“拠点”を作るのはいかがです?」
それを聞いたクラウディアの目が輝きはじめる。
「孤児たちや行き場のない人が、安心して暮らせて、働くこともできる場所。農地や工房を併設して、魔法の知識や手に職を教える支援所も作って…そしてゆくゆくは自分の力で巣立てるような……そういう場所を!」
クラウディアは焚き火の炎を見つめながら言った。
「“帰る場所”を奪われた人たちに、“再び立ち上がれる場所”を贈る……素敵な考えだと思う。貴族だからって理由だけで人を見下すより、ずっと貴族らしいわ」
「場所は……ヴァル王国の西端とか、どうかな?」アレクが提案する。「ちょうど戦災で捨て置かれたまま廃村になったところがあったはず。土地代は安いし、使えるものは再利用すればいい」
「当然ですが、私も協力しますよ」フィンが静かに言った。「警護の訓練や、最低限の自衛手段。教えられる範囲でなら、いくらでも」
その場にいた四人の意思が交わった。
クラウディアはそっと、母の教えを思い出していた。
「誰かを本当に助けたいと思ったとき、人は自然に貴族になるのよ」――かつて、セリーヌがそう言っていた。
「やりましょう。私たちで、その拠点を築くのよ」
その夜、彼らは一つの計画を練り始めた。
それは、ただ剣を振るうだけの冒険者ではなく、「未来を創る人間」としての、新たな第一歩だった。




