音声遮断
――翌朝、ギルド近くの簡易宿の食堂。
朝の喧騒が始まる前、テーブルにはクラウディア、セレナ、アレク、そしてフィンが集まっていた。温かいパンとハーブスープの香りが漂う中、セレナはカップを手にふう、と一息吐く。
「昨日の戦闘、本当に助かった。あの“音の遮断”、完璧だったよ」
そう言って笑うアレクに、セレナは少し照れたように微笑んだ。
「訓練のときは緊張したけど、いざとなったら意外と自然にできたの。クラウディアがあの時言ってた、“空間を包み込むように”ってイメージ、すごく分かりやすかった」
クラウディアは静かに頷きながら、銀のスプーンを皿に置いた。
「……あれは、元は貴族の間で使われている魔導具の技術。会談や密談用に、“音を外に漏らさない”結界を張るためのものなの。高価で、一般の冒険者にはほとんど知られていないけれど」
「そんなの、侯爵家の娘じゃなきゃ知らないよなぁ……」とアレクが苦笑し、セレナは興味深そうに目を輝かせた。
「その技術、魔導具がなくても再現できるってこと?」
「応用は可能よ。もちろん完璧ではないし、魔力操作に慣れていないと難しいけれど……。セレナは“風”の気配を掴むのが得意でしょ。あれを逆に、風の流れを封じるように使えば、空気の振動――つまり音の伝播を抑えられる」
「なるほどね。風で音を“止める”ってことか」
「そう。ただし、完全な遮断ではなく、“抑える”だけ。だけど、それだけでも気配を悟られにくくなるし、作戦を立てる時間が稼げる」
セレナは少し考え込みながら、指先で空気を撫でるような仕草をした。
「……昨日、私がやったのって、無意識にそれだったのかもしれない。自分を包み込む風の流れを、いつもと逆に抑えつけた感じ。そしたら、急に周囲の音がこもって……自分の鼓動だけがはっきり聞こえたの」
クラウディアは微笑んだ。
「それで合ってる。あなたの感覚は鋭いわ。あとは、それを意図的に再現できるようになれば、立派な技術になる」
「わかった、練習してみる」
真剣な目を向けるセレナに、クラウディアはひとつ頷いた。
その横で、フィンがぽつりと呟いた。
「……クラウディア様の知識と、セレナの感覚が合わさったら、誰にも気づかれずに敵陣に潜入できそうですね」
「やる気だな、それ」アレクが笑いながら茶を啜る。
クラウディアは静かにスープを口に運びながら、その言葉に応じるように、小さく微笑んだ。
「……今後、必要になるかもしれないわね」
その言葉に、一同の表情が少しだけ引き締まった。
セレナは再び、自分の手のひらに風の気配を集めながら――何かを掴もうとするように、目を閉じた。




