セレナの気付き
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それは、サマール王国の一件を終えて間もない穏やかな日だった。
森を抜ける帰り道、柔らかな風の中で、セレナがふと立ち止まる。
「……この森、音が変だね」
クラウディアとアレクが顔を見合わせる中、フィンだけが真剣な表情で彼女を見る。
「どういう意味だ?」
「なんか……木々の音がいつもより緊張してるっていうか……風の音も、呼吸が浅い感じ」
一瞬の静寂。
そしてフィンが「……音に対して鋭い感覚…もしかしたら君には音魔法の素質があるかもしれないですね」
「えっ、音……魔法?」
それからというもの、セレナはフィンの指導を受け始めた。
風のざわめき、水のしずく、足音、吐息、鼓動――
世界は音で満ちている。
それに気づくほどに、セレナの耳と心は冴えていった。
そして、アレクが竜の山から戻った後のある日。
簡単な討伐依頼を終えて、全員で森の外れで焚き火を囲んだ。
火の粉が小さく跳ねる音と、夜鳥の鳴き声。
セレナはぽつりと語った。
「小さいころ、実家の牧場で牛を呼ぶ時ね……アルプホルンや笛を吹いてたの。
音が好きだったのもあるけれど、何よりその場の空気と一体化するような心地よさが合ったわ。」
アレクが身を乗り出して言う。
「セレナが音を鳴らすと、牛も羊もいっぺんに集まってきてたんだよな!母さんがよく“魔法みたい”って言ってたっけ」
クラウディアが、ほんの少し微笑んだ。
「今度みんなで市場に行ってみる?」
フィンも頷く。
「おそらく音に乗せて魔法を使うやり方が合うと思います。持ち運びも考えると、笛や小さな弦楽器と共に歌にのせるのもいいかもしれませんね。」
セレナは焚き火の赤に染まりながら、小さく微笑む。
「うん……やってみる。もっと、みんなの力になりたいから」
音が感情を伝えるように。
音が心をほどいていくように。




