覚醒
それは禍々しくも巨大な影だった。
黒い霧の中心から現れたそれは、まるで狼と蛇を掛け合わせたような異形の召喚獣だった。
鋭い牙、複数の尾、禍々しい瘴気。クラウディアは瞬時に直感する……これは…影魔術師が“捧げ物”によって呼び出したものだ。
「くっ……!フィン、下がって!」
クラウディアの声が響くと同時に、フィンは一歩前に出る。
「お嬢様こそ退いてください!」
召喚獣が咆哮を上げた瞬間、二人の間の空気が裂ける。目にも留まらぬ速さで飛びかかる影。その巨大な身体にはフィンの剣もクラウディアの魔法も通じない。攻撃は浅く、再生は早い。
「これが、捧げられた命の力…いったいどれだけの命を…!」
圧倒的だった。力も、速さも、知性も。フィンの盾が砕かれ、クラウディアの防壁が焼き切られる。何度目かの攻撃で、フィンが吹き飛ばされた。
「フィン!」
クラウディアの膝が地につく。魔力も残り少ない。けれど、彼女は目を逸らさなかった。
その時だった。
ーーー クラウディアの背中が、淡く光を帯びる。
温かく、けれど鋭く。眩しさはないが、確かに光は脈動していた。
時間が緩やかになる。敵の動きも、風の流れも、魔力の波すらも。
頭が冴えわたる。怖いほどに冷静だった。
「……なるほど。そういうことね」
クラウディアは立ち上がった。
召喚獣が牙を剥いて飛びかかる。だが彼女は、一歩も動かず、ただ手を掲げた。
「転位・封魔 ーーー 影よ、主の元へ還れ」
魔法陣が地に浮かび上がり、光の刃が幾重にも放たれる。クラウディアの足元からほとばしる光は、影の中心を貫いた。
召喚獣が悲鳴を上げ、次の瞬間、爆ぜるように霧散した。
黒いもやが晴れていく。
長らく閉ざされていた空気が、ふと柔らかくなる。
「……!」
クラウディアが目を凝らすと、霧の向こうに人影が見えた。
ーーーー 失踪していた人々だ。
「大丈夫ですか…!!」
フィンがよろめきながらも駆け寄り、彼らの無事を確認する。クラウディアはただ空を見上げた。
魔力の余韻が、まだ体内を巡っていた。
これはきっと、自分の中にある“何か”が目覚めた証……




