帰り道。
朝靄の立ちこめる城門前。
サマール王国の兵たちと数人の侍従が整列し、旅立つ4人を見送っていた。
「ご武運を。クラウディア様、皆様の旅路が光に満ちたものでありますように」
王都からの出発ということもあり、正式な見送りがなされたが、どこかあたたかみのある雰囲気だった。
「また会おうね!!絶対だよ!」
見送りに来た幼い侍女が手を振りながら叫び、クラウディアたちは静かに微笑んで小さく手を振り返す。
道に出てからしばらくは、サマールの街並みが名残惜しく後方に続いていたが、やがて緩やかな丘を越える頃にはすっかり見えなくなっていた。
「……じゃあ、ヴァル王国に戻るわけですけど」
最初に口を開いたのはアレクだった。どこか楽しげな声で、背中の剣が妙に堂々と揺れている。
「そうね。王都までは三日ほど。無理のないペースで進みましょう」
クラウディアは振り返りもせずに言った。
「……そういえばクラウディアさん、僕、最近やたら剣のキレが良くなってる気がするんですよ」
「ふふ、それは良いことだわ」
「具体的にはどれくらい?」とフィンが興味ありげに振り向く。
「いや、ちょっと信じてもらえないかもですけど……」
アレクは頬をかきながら、どこか照れくさそうに笑った。
「初めてクラウディアさんたちに会った時に、“とにかく実戦経験を積め”って言われたじゃないですか?あのあと本当に、フィールドで雑魚敵ばっかり狙ってひたすら狩ってたんですよ」
「うん、正直あの頃のアレクは……」
セレナが思い出し笑いしながら、口元を覆う。
「最初は一撃で倒せなかったのに、いまや三体同時に相手しても余裕。動きが読めるっていうか……」
アレクはぐるぐると腕を回してみせる。
「へえ、それはすごい成長じゃない」
クラウディアが少し意外そうに目を細める。
「セレナもですよ?」
アレクがにやっと笑って、隣を歩く少女に目を向けた。
「……私も、ね。あのときの毒で、もう誰かに助けられるばかりは嫌だって思ったの」
セレナの声には、柔らかさのなかに確かな決意が宿っていた。
「毎日アレクと模擬戦して、魔力制御もやり直して……おかげで今は、回復魔法も中級まで安定して使えるようになったの」
「ふむ。これはもう、君たちを雑魚だなんて誰も呼べないな」
フィンがからかうように言いながらも、どこか満足げだった。
「ふたりとも、きちんと自分の力で変わったのね」
クラウディアはふと立ち止まり、軽く頷いた。
「誇っていいわ。その努力も、得た力も。…きっと、これから出会う誰かを救える」
「……はい!」
アレクとセレナは声をそろえて返事をした。
「ところで…どこで学んだんですか、あんな戦い方……」
アレクが思わず声を漏らした。
セレナもこくこくと頷いている。
「ふふ、実はね、あれ……護身術なのよ」
クラウディアが微笑んで答えると、二人は目を丸くした。
「護身術のレベルじゃないです! 普通の盗賊を一瞬で無力化してましたよ!?」
「なんていうか……達人の域ってやつだよね」
クラウディアは少し困ったように肩を竦めた。
「実践訓練ばかりだったの。ほら、兄たちがね。次から次へと雑魚を連れてくるものだから……気がつけば反射で動くようになってたわ」
アレクとセレナは顔を見合わせて、戦慄と尊敬が混じったような表情を浮かべた。
その時、フィンがちらりとアレクを見て言った。
「……良ければ相手、しましょうか?」
アレクの顔がぱっと輝く。
「ぜひお願いします!」
「私もやりたい!」と、セレナもすかさず手を上げた。
「順番ね」
クラウディアが楽しげに言いながら、くすっと笑う。
そんな穏やかな笑い声と共に、温かな空気に包まれながら馬車は再びのんびりと進んでいく。




