特訓をしよう
夜が明けきらぬうちから、クラウディアは剣を手にしていた。
訓練場の空気は冷たく、呼吸するたびに肺の奥がきゅっと引き締まる。
木剣が乾いた音を立てる。
「…昨日よりも、鋭いですね」
フィンの声が届く。
彼は今日も冷静なまなざしで、クラウディアの動きを見守っている。
彼女はひとつ頷き、構え直す。だが…
「……っ」
ふと、肩甲骨のあたりが熱を帯びるように疼いた。
それはまるで、内側から何かが目覚めようとしているような、奇妙な感覚だった。
「……クラウディア様?」
動きを止めた彼女に、フィンが歩み寄る。
クラウディアは自分の背中を軽く叩きながら、訝しむように呟いた。
「昨日から、妙にうずくの。内側から何かが出てきたがってるみたい……」
冗談めかしたその言葉に、フィンの表情が一瞬だけ揺れる。
だがすぐに真面目な口調で応じた。
「……魔力の詰まりが、どこかで外れるようなことがあれば、覚醒が一気に進むかもしれませんね…」
「覚醒……」
クラウディアは、ふと空を見上げる。
まだ覚醒なんて、自分には関係のない言葉だと思っていた。
けれど確かに、何かが少しずつ動き始めている。
「……まあ、いざという時に動ければいいわ。今は剣を磨くほうが先ね」
淡々とそう言って再び構えを取る彼女を見て、フィンは小さく笑う。
「お嬢様、フィジカルのトレーニングも大事ですが……昨日お伝えした“意識を沈める感覚”、もう一度やってみましょう」
クラウディアはフィンに教えられた通り、坐禅のような姿で地に座り、ゆっくりと目を閉じた。
意識を「沈めて」いく。
身体の重さを忘れ、神経を研ぎ澄ませ、自分の内にある魔力を、影の気配へと繋げるように。
風が渡る。
木立の影が揺れた。
クラウディアの足元、微かに黒が滲んだように見えた瞬間――
「……くっ」
ばちん、と空気が弾けたような感覚とともに、集中が途切れる。
思わず眉をひそめ、膝に手をついた。
「惜しいですね」
声に振り向くと、フィンが木陰から現れていた。
冷たい水を一杯、手にして差し出してくる。
「今の、何か引っかかった感じがしました。無理に繋ごうとせず、もっと“任せて”みてください」
「任せる……ね」
悔しさを滲ませながらも、クラウディアは水を受け取り、一口すする。
肩甲骨のあたりが、じんわりと熱を帯びていた。
「背中が疼くんですか?」
「うん……肩甲骨の奥が、何か引っ張られるような感じがするの」
「やはり……覚醒は、きっかけ次第かもしれませんね」




