もってかえるよ!
遺跡からの帰り道、クラウディアは宝箱から得た分厚い一冊の本を、柔らかな布に丁寧に包んでいた。
古い皮表紙の手触りは、時を超えて届いた重みを確かに伝えてくる。
その横で、無言だったフィンがふと足を止める。
「……クラウディア様。その本の件、まず侯爵閣下にお伝えしてもよろしいでしょうか」
クラウディアは少し驚いたようにフィンを見たが、すぐに柔らかくうなずいた。
「もちろん。父も……この本には、きっと関心を持つはずだわ」
フィンは静かに頭を下げ、腰のポーチから掌サイズの黒曜石の板を取り出す。
それは、細い銀線のような刻印が魔力でうっすらと光る、精巧な魔導通信具だった。
彼は手慣れた様子で指先を滑らせ、魔力を流し込む。
「……送信しました。侯爵閣下の元には、すぐに届くかと」
それを見ていたクラウディアがふっと笑った。
「なんだか、ポケベルみたい」
「ぽけべる、でございますか?」
「前の世界で使われていたの。短い文章だけ送れる通信道具。すごく小さくて、ピピッて音が鳴るのよ」
「ははぁ……そのような魔導具が……いえ、“道具”が存在したとは」
フィンは素直に頷きつつも、どこか「ぽけべる」が可愛らしい生き物である可能性も捨てきれない顔をしている。
クラウディアはくすっと笑った。「ポケベルは生き物じゃないから、安心して」
ーーー そして、街へ戻った一行がギルドに到着したとき。
受付の奥、通常は閉ざされているはずの重厚な扉が静かに開かれ、ギルド長が自ら姿を現した。
「お待ちしておりました、クラウディア様。アーリントン閣下より、既にご連絡を賜っております」
その言葉に、アレクとセレナは声を揃えた。
「ギルド長が直々に……!?」
ギルド長は礼儀正しく一礼し、手にした文書を確認しながら言葉を続ける。
「侯爵閣下より、『その本の扱いは、クラウディア様のご判断に一任する』とのご意向です。あわせて、登録等の手続きには特別措置は不要とのことですが……何かご要望があれば、遠慮なくお申し付けください」
クラウディアはわずかに目を見開いたが、すぐに表情を引き締め、しっかりと頷いた。
「……わかりました。この本の意味を、きちんと把握します。責任をもって」
ギルド長は満足げに頷き、セレナが小さくつぶやく。
「……やっぱり、すごい人なんだなあ……」
「だな……」
アレクたちの言葉に、クラウディアは気づかなかったふりをしていた。




