なんかみつけた!
遺跡の奥へと続く石造りの回廊は、途中から苔と蔦に覆われていた。陽の光が差し込まない薄闇の中で、クラウディアは慎重に足を進める。
先を行くフィンが手のひらに小さな光の球を浮かべ、周囲を照らしている。セレナはアレクの肩を支えながら、後方を守る形で進んでいた。
「……空気が変わった」
クラウディアが足を止めた瞬間、周囲の温度がわずかに下がったように感じた。空気が淀み、ひりつくような気配が肌を刺す。
奥の壁際に、うねるような黒いモヤが絡みついた球体が見えた。まるで何かを護るように、その場に留まり続けている。
「魔力反応……強いな。フィン、少し下がって」
クラウディアが前に出ると、黒いモヤがわずかに揺れた。呼応するように、彼女の背中…肩甲骨の奥がじんわりと熱を帯びる。
(……また、あの感覚)
今朝感じた、背中の奥が内側からふくらむような熱。
痛みはないが、どこかむずむずとするような、押し上げられるような奇妙な衝動がある。まるで背中の奥に何かが畳まれているかのような。
(まさか、魔法の副作用……?)
考えているうちにも、黒いモヤが蠢いている。怨念でも呪いでもない、だが人を拒む意志がある。
「私がやってみる」
クラウディアはそっと右手を伸ばし、静かに詠唱を始めた。彼女の声が石壁に反響し、低い震えが空間を満たしていく。
「〈解離〉……無明なる束縛よ、我が名に応じて消えよ」
その瞬間、クラウディアの掌から放たれた紫をおびた黒い光がモヤを撃ち抜いた。空間がひび割れたような音を立て、モヤが一気に崩れていく。
モヤが完全に消えたとき、その奥に石製の台座が姿を現した。古い金属製の宝箱が静かにそこに置かれている。誰も触れていないのに、鍵が自然に外れ、蓋がわずかに持ち上がった。
「まるで、解除できる者が現れるのを待っていたかのようだな……」とフィンが小さくつぶやいた。
クラウディアが蓋を開けると、中には分厚い一冊の本が納められていた。漆黒の表紙に銀の文字が刻まれている。
《禁書目録:〈影と無明の系譜〉》
クラウディアが本を手に取った瞬間、再び肩甲骨の奥が熱を持つ。
まるでこの書が、彼女の内にある何かを“認めた”かのように。
その本には、闇魔法のすべてが記されていた。
起源、術式、応用、封印された経緯、かつてそれを用いた賢者たちの記録、そして迫害と断絶の歴史。
「……この本、クラウディア以外じゃ開けなかったんじゃないかな」とセレナが言った。」
クラウディアは無反応で、本を抱いたまま静かに目を伏せた。
黒いモヤを払い、この本を手にしたこと。それは、闇魔法の後継者としての“証”であるかのようだった。




