影使い実戦!
「ーーこの森に出るのは『影狼』と呼ばれる魔獣です」
フィンは低く言いながら、木々の隙間から鋭い視線を森の奥へ送った。月の光さえ届かないほどのうっそうとした森。影と静寂が満ち、足元から冷気が忍び寄る。
「影狼…」
「一定の姿を持たず、周囲の闇と同化しながら動く魔獣です。影に潜み、光を憎み、生命の熱を狙う。影の性質を理解するには、格好の相手かと」
クラウディアは静かに頷いた。影魔法の訓練を始めて数日。初めは影に触れることすら難しかったが、今は“影を纏う”ところまでは到達している。今日はついに、実戦。
「……見えない敵と戦う訓練、ってわけね」
「はい。ですがご安心を。お嬢様に何かある前に私が斬ります」
「頼もしいわね。」
ふっと笑いながら、クラウディアは影を纏い始めた。フィンが教えた呼吸法で心を落ち着け、影の気配に意識を集中する。
ーーー影は「空間の隙間」そして「光の裏」
その言葉を思い出す。身体の周囲に濃い影が溶け出し、服の裾がゆらりと揺れる。視界の端でフィンが「おお……」と小さく感嘆する声が聞こえた。
「……これ、見えてるの?」
「ええ。影を纏うと、周囲の光との“ズレ”が生まれるんです。見えますが、通常の視力では捉えにくい。私のように“気配”で読む者には、輪郭が浮かぶ程度」
「なるほど……」
そう語っていると、フィンが手をあげて制止した。
「……来ます」
クラウディアの背筋が震えた。
木々の影が“ざわり”と蠢いた。
次の瞬間ーーー
ガッ……!
黒い塊が突如、クラウディアの背後に現れた。だがその一瞬前に、クラウディアは自身の影を背後に展開していた。
影の膜が襲撃を「ずらし」、攻撃を“避ける”のではなく、“逸らす”ように処理した。
「やった……!」
「すばらしいです、お嬢様!!」
敵は黒く濁った獣のような姿をしていたが、明確な輪郭はない。目も口もなく、ただ周囲の暗がりと同化するように形を変えながら襲いかかる。
「ここまでの精度で影を操れるとは……。やはりお嬢様の適性は本物…素晴らしいですね」
「でも、これ……ずっと守るだけじゃ、きりがないわね」
クラウディアは影に指を差し入れた。指先が闇に溶け、やがて「別の場所の影」からひょっこりと現れる。ーー“影渡り”の応用。
「…攻撃も、影から!!」
獣の背後…木の影からクラウディアの影が“槍”のように突き出された。鋭利な漆黒の突起が、獣の中心を貫く。
「ーーー!!!!」
声にならない悲鳴とともに、魔獣の姿が溶けるように消えていく。残されたのはただ、黒い煤のような粉末と黒曜石のような黒い核のみ。
フィンが静かに拍手した。
「お見事です、お嬢様。……私は影を使えたとしても!それはできません。やはり…クラウディアお嬢様の魔法は本物。…貴女様は本物の闇使いでしょう」
「……ふふ、ちょっと疲れたけど。悪くないわね」
討伐後、クラウディアが核に手を伸ばす。
「……ッお嬢様、それは!!!!」
「…聞こえる。『同じもの』の気配。私の魔力に…近い……」
(本当に……影そのものを操るお方なのか……もしこの核と共鳴できるならーーー)
「影喰いの魔核は中心には淡い紫色の光が脈動しているてまるで鼓動のように脈打ち、影属性が全くないものが見ると、見ている者の影が吸い寄せられるような錯覚を覚えます。逆に属性のあるもの…闇や影の魔力を持つものの力を増幅させます。ですが使用者が未熟だと精神を侵される危険性もあります。
油断すると足元から飲み込まれるように影に引きずり込まれる幻覚を見るので気をつけてください。」
「そうなのね。わかったわ。」
彼女が意識を集中すると、核の中から“影の声”がささやく。そして、ほんの一瞬だけ、クラウディアの周囲に〈影の手〉が複数現れ、彼女の指先の動きに従って周囲の影を引き裂くような動きをする。
フィンは一瞬だけ剣に手をかけるが、躊躇する。そしてそれを「訓練の糧」として内心記録した。




