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吾輩は神である

作者: アルチ

最初に世界をつくりし

その者である




吾輩は神である。儚き宴、晩餐の、最後に祝福あらんことを。吾輩は神である。必然とも呼ぶべき覚醒により、吾輩はそれを悟り得た。狂信者よと、のたまうことなかれ。誰が否定したとて、その事実を覆すことは可能ではない。確信などという言葉すらも安く思えるほどの絶対がそこには存在するのだ。民よ、今こそ歌うたえ。吾輩は神である。そこに異論の余地はない。民よ、今こそ舞い踊れ。魂に深く刻み込め。吾輩は神であると。吾輩は神であるのだ。


紙袋の中身はオートミールに惣菜にミックスナッツに、大好物の焼きプリン。食べ物とは別に薬局のアイマスクにビール酵母。たまには値札など目を通さぬまま買い物したいものだ。突然、覚えた便意により、買い物をしていた二階ではなく、地下一階のトイレへと駆け込もとうとする。物事を立体的に捉えることにより、それが最善であると判断した。紙袋をトイレへ持ち込むのに若干の抵抗を覚えたため、トイレから一番近い、廊下にあるベンチのはしに置いておくことにした。善意であれ悪意であれ、誰かが持っていかないことを静かに祈る。


神を神たらしめる権能とはなんぞや。それは全知全能に他ならない。全知とは事象の、その全ての把握と記憶し得る力と捉えよう。全能とは事象の、その全てを具現し操作し得る力と捉えよう。限りない自由を代償に、何かに立ち向かうこと、打ち勝つこと、その権利を奪われた神は思うのだ。退屈であると。魂を揺さぶるような出来事は、己の身には起きんのか?と。そして神は思いつく。己がつくった世界という名のフィールドの、そのプレイヤーとして、人生という名のゲームを始めようと。


トイレから退出後、紙袋を回収して建物の外へ、帰宅のために歩き出すと、その道のりが、いつもより遠く感じる。身体が重い。湿気のせいだろうか?少しばかり足を止めて休憩しようと、歩道沿いのベンチに座った瞬間、飲み物を買い忘れていたことに気づき、頭を抱える。自作した買う物のリストには載っているのに見落としたようだ。しかし、もう引き返すという選択肢は、この時には存在しなかった。うちで飲む分は明日、買うことにしよう。胸の中でそっと、誓いを立てた。


全知全能のままで人生という名のゲームをプレイしてしまうことは、メタ的視点がゲーム性の障害となり、感情移入の不可、現実味の欠如など、多くの問題が生じてしまうため、神にとっては無意味である。それでは何のための人生か分からない。民に課した制約は己にも適用し、生命の誕生から始まり、自我の目覚めを経て、人としての限りある記憶、限りある能力、限りある寿命でゲームをプレイするのだ。多くの困難が待ち受けているだろう。しかし200年にも満たない時の流れなど神にとっては易きこと。退屈しのぎには、ちょうどよいのだ。


ベンチから立ち上がり、しばらく歩くと、川沿いに二台の自販機が並び立っている場所がある。甘いジュースの選択肢を、全てはねのけてお茶を買う。川の流れや人の流れやを眺めながら、ちょうどいい高さの手すりに寄りかかり、少しずつお茶を喉に通してゆく、水分の恵みが身体中の隅々まで染みわたり、充分にいきとどいたような気がした。補給完了、癒された。復活の時は訪れた。


ここで本題に移ろう。その神が吾輩ではないという根拠が、いったいどこに存在するというのであろうか?吾輩は感じるのだ。内なる神秘的な力を。本気出したらヤベェこと起きそうな得体の知れない何者かの潜在を。ゆえに吾輩は神である。人生において重要であることには、反復の機会が設けられる。つまり吾輩は神である。それは何度も繰り返される。ほら吾輩は神である。魂に深く刻み込まれるように。ねえ吾輩は神である。深く深く。さて吾輩は神である。もっと深く……


ポツポツと降り出した雨は、瞬く間にどしゃ降りへと変貌を遂げた。すれ違うのは足早に、傘を持たない人ばかり。傘に代わりとばかり頭に、かざしたカバンは何である?吾輩は紙である。袋が濡れないようにと身体を覆い被せて、最悪の事態だけは回避したいと帰宅を急いだ。乗り越えるべき試練はここにありて……


吾輩は神である。靴下濡れるとテンション下がる。吾輩は神である。雨の日は少し腰痛い。吾輩は神である。なんかこの雨、目にしみる?吾輩は神である。Tシャツめくってカンガルー。吾輩は紙である。なんでリュックにせんかったん?吾輩は紙である。折りたたみ傘、入れっぱやん!吾輩は神である。だんだんどうでもよくなってきた。吾輩は神である。メモしたことすら忘れる始末。吾輩は神である。胃腸の調子が整わない。吾輩は神である。すいてるトイレは誰より把握。吾輩は神である。そろそろ給料上げてほしい。吾輩は神である。今夜はぐっすり眠りた~い。吾輩は神である。最近、しょっぱいことだらけ。吾輩は神である。人生もうちょい甘くてよくね?吾輩は神である。今宵も孤独な晩餐会。吾輩は神である。甘いものだけ別腹だもの。吾輩は神である。吾輩は神である。吾輩は神である。そう吾輩は……




最後に楽しみはとっておく

その者である

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