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第6話

「それじゃあ、今度こそこんなことが無いようにお願いするわよ?仕事とはいえ、若人が死にかけている様なんてそう何度も見たくはないもの」


「ウス!お勤めご苦労様です、姐さんッ!!」


「はぁ……また今度、探協ビルで」


「ウスッ!!」


 一通りの説明と事情聴取を終えて、榊さんは釈然としない様子で病室を後にした。それを綺麗なお辞儀で見届けた俺は自室よりも何倍も上等なベットに腰を掛ける。


「さてと……」


 榊さんから聞かされた話と、現在の状況を鑑みるにどう考えても俺はあの絶望的な状況から助かったらしい。病院で目を覚ましたのは榊さんのいつもの計らいであり、俺の配信をいつも通り監視していた榊さん曰く、ゴーレムが消え去った後、俺は理由は不明であるが地上に強制送還されたらしい。


 それを見て榊さんは急いで俺の回収に動き出してくれたのだが、グシャグシャだった俺の身体が復活している理由までは分からなかった。しかしその謎も先ほど解決した。


『支援者様は依頼の達成と同時に地上へ強制送還されました。それに伴い、今回に限り依頼(クエスト)クリアの褒賞として身体への完全治癒が施されました』


 とは榊さんと話している最中に俺にだけ聞こえた無機質な声で、それは初心者迷宮で聞いたものと全く同じモノだった。


「あと、これはいつになったら消えるん???」


 何とも呆気無く謎が改名したのは良い(?)が、依然として俺の視界には鬱陶しくウィンドウ表示が主張してくる。


「報酬を受け取れってどうすれば……」


 とりあえず、思いつく限りのことをやってみた。


 一つ目、


「せいッ……まあダメですよね」


 ウィンドウに触れてみる──失敗。


 二つ目、


「受け取る!!」


『報酬の受け取りを確認しました。報酬(1)の〈強制成長〉は現在受け取りが不可能な領域にいる為受け取りに失敗しました。報酬(2)の迷宮配信〈運営〉からの特別支援のみを受け取ります』


 音声認識──成功。


「いけるんかい……てかなんで報酬(1)は受け取れないんだ?受け取り不可能な領域……?」


 受け取れって言ったり、受け取れませんって言ったりどっちやねん。おちょくってんの???


 若干適当な無機質な声のアナウンスに苛立ちを覚えていると、それを上塗りするように言葉が続いた。


『報酬受取りの完了に伴い探索者──空木普様の正式なサポートが始まりました。ナビゲーターである配信妖精ベノより挨拶が届きました。確認しますか?』


「挨拶?とりあえず確認で──」


 次から次へと訳の分からないことが舞い込んできてゆっくりと一つ一つを噛み砕く余裕なんてない。故に困惑するが、ここまで振り切ってしまうと逆にテンションが上がってきた。そうして視界に新たなウィンドウが表示される。


 ────────

〈ご挨拶〉


 拝啓、探索者──空木普様


 平素より我が〈迷宮配信〉のご利用、ありがとうございます。

 今回、特別支援者に選出されました空木様のサポート兼ナビゲーターをさせていただきます、迷宮配信のベノです。以後、お見知りおきを。


 さて、突然のご挨拶になってしまい誠に恐縮ではございますが取り急ぎ文面にて空木様が抱えておられるであろう疑問などを解消するために、簡単な迷宮配信特別支援(以後、本プログラム)の内容と注意点をご説明できればと思います。少し、長く単調なモノかと存じますがお目通しいただければ幸いです。


 まず、今回緊急発行された特別依頼〈逆境に抗うモノ〉のクリア、おめでとうございます。依頼達成により、空木様はその資格を示され、〈迷宮審問官〉の厳しい審査を通過し、本プログラムの支援対象者としてサポートされます。


 本プログラムは空木様の迷宮探索の攻略と成長を手助けする為のモノであり、今後は様々なアプローチで空木様の迷宮探索・迷宮配信の一助になれるよう邁進してまいります。


 つきましては本プログラムのサポートを受けるにあたり以下の点にご注意いただきますようお願いします。


 ・本プログラムの途中放棄は不可能となります。

 ・本プログラムは一定期間経過で強制終了します。

 ・本プログラムには秘匿義務がございます。


 上記をお守りいただけない場合は誠に残念ですが、空木様の命は本プログラムの規則に則り空木様の意思にかかわらず強制的に消去させていただきます。ご留意ください。


 説明は以上となります。

 より詳しい詳細や質問がある場合は迷宮にお越しになられた際に承ります。

 空木様と迷宮でお会いできることを迷宮配信運営一同でお待ちしております。


 迷宮配信配信者支援課

 配信妖精ベノ

 ────────


「ふざっけんなっ!!?」


 ウィンドウに表示された文を読んでまっさきに浮かんだのは怒りと不満であった。


「なんだこの懇切丁寧、その癖言ってることは超不親切な極悪ビジネスメールは!!読めば読むほど文面の堅苦しさと丁寧さのギャップに腹が立ってくるわ!!」


 衝動のままに握りしめた拳をウィンドウに振りかぶるが、それは何の意味を為さない。


「何が!攻略と!成長を!手助けするためのモノだ!訳も分からず契約させられて、しかもえげつない注意文!それを守らなかったら死ぬて!?もうこれ立派な詐欺だよなァッ!!?」


 何が「ご留意ください」だ!ふざけんな!留意できるか!!……てか俺、普通に依頼とか特別支援者のこと榊さんに話しちゃったけど……この場合は報酬を受け取る前の発言だからセーフだよな?


「てかセーフだろ!!」


 不満は収まるどころか時間が経過すればするほどに膨れ上がる。憤慨して暴れまわる俺を止めることをできる者はこの病院にいる筈も──


「はーい、空木さん。何をそんなに怒り狂ってるのか知りませんけど退院のお時間ですよぉ~?」


「……へぇ?」


 いや、居た。普通に先ほどの看護師さんが部屋に戻ってきてとんでもないことを言ってきた。途端に俺が静かになったことに満足して看護師さんは言葉を続ける。


「別にまだ病院に居たいんなら居てもいいですけどぉ……その場合はお金がかかりますよぉ? あなたの入院費が探索者保険から支払われてるのは今日一杯で、もう普通に元気そうなので退院しましょうねぇ~」


「直ぐに出ていきます!!」


 病院に居座るのもタダではない。それは常識であり、元気なら退院するのも自明の理。それが常人よりも頑丈な探索者とくれば猶更だ。


「もう踏んだり蹴ったりだよ!!」


 俺の人生こんなんばっか。病院を半ば強制的に追い出された俺はやはりまともに今の出来事を考える暇もなく、帰路へと着かされた。

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