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第4話

 果たしてこれはどこにお伺いを立てればいいのだろうか?


「後で絶対に文句言ってやる!!」


 叫びながらも必死に走って逃げる。背後からは依然として岩石の巨兵が追随てきていた。


 これ、なんてホラーゲーム?


 いつの間にか部屋に広さの概念は無くなり、あれほど頑丈で俺を閉じ込めていた壁も無くなっていた。これじゃあ殴り損だ、俺の今までの努力はどうなる。


「マジでふざけんな!!」


 無限に広がる殺風景な部屋を駆け抜けながらやはり悪態を吐く。


 もうね、文句でも言ってなきゃやってられんですわ。両拳は引くほど腫れて血も大量に出てるし、痛すぎて泣きそうだし……てか泣いてるし。もう踏んだり蹴ったり、俺の人生いつもこんなんばっかだ。


「GOOOOOOOOOO!!」


「うるせぇッ!!黙って攻撃できんのか!!?」


 背後に砂塵と轟音と振動が伝播する。


 マジで何もない殺風景な部屋なのに砂塵が舞うとはこれ如何に──とは思うが、今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。命からがらなんとか今の攻撃も回避に成功して、俺はいつの間にか視界の端に表示された制限時間(カウントダウン)の表示を見て唸る。


「まだ一分しかたってないのかよ……」


 急に始まったこの依頼(クエスト)のクリア条件はあのデカブツから五分間逃げ切ること。今はなんとか奇跡の連続で生き残れてはいるが、どう考えても底辺探索者の俺ではこのまま逃げ切ることなど不可能であった。


 ──何かないか!?


 絶望的なこの状況を打開する方法はないかと思考をフル回転させる。


 武器──は錫杖はさっきブチ折れたし、投げナイフもあの巨体には何の意味もない。


「あったところでこの手じゃまともに攻撃も出来ないんだけどねぇ!?」


 ならば──


「クソッ! ……来い!骨子ッ!!」


 こんな時こそ召喚士唯一の相棒に頼るしかないのだが、


『ただいま〈職業〉と〈スキル〉は査定中の為、受注者様のスキルは使用不可能となっております』


「ふざけんなクソ運営ぇえええええええええええええ!!」


 またもや脳裏に響いた無機質な声に俺は反射的に怒り狂った。


 何が査定中だボケ! あんな吹けば飛ぶような骨でもいるのと居ないのじゃあ俺にとっては天と地ほどの差が出るんだよ。一人より二人の方が俺の精神が大変よろしいのだ。だからマジでふざけんな。


 これは本当になんの冗談か。ただでさえ今までロクに役に立たないスケルトン1体しか召喚できない鬼畜縛りを強制させられていたのに、その唯一の召喚も使えないのは流石に極悪縛りすぎるだろ。ただでさえ詰んでいるのに、更に詰ませてどうする。唯一の長所を取り上げてどうしろと言うのだ。


 次から次へと絶望させてこないで欲しい。依然として状況は絶望的、制限時間には程遠い。探索者としての能力値がゴミカス最低値の俺にはどう足掻いてもどうにもできない状況。寧ろこの極限状態の所為で普段よりも数段身体のポテンシャルを引き出せていない。


 ──やっべ、もう足吊りそうなんだが?


 カウントダウンは漸く三分を切ったあたりだと言うのに体力の限界が訪れようとしていた。


 世間一般の探索者は二分弱全力疾走したところでばてたりなんてしないし、それこそ一般人でもアスリートともなればまだ余裕があるだろう。これが底辺探索者の地力であった。そうしてやはり限界が訪れた。


「あっ──」


 我ながら間抜けすぎる声と視界が急に地面に落ちる感覚……どうやら俺は足を縺らせてしまったらしい。その隙に背後の巨人はこれまた巨大な岩腕を鋭く振り抜いた。


「やべ……」


 勿論、回避なんて間に合わない。今まででさえ奇跡の連続で躱せていたのだ、これはどう考えても不可能である。


 一瞬だけ視界一面に土色と凹凸の岩が映り、次の瞬間には──


「ぁ、がはッ────!!?」


 俺の身体は宙を飛び、面白いくらいに吹っ飛ばされた。


 体感したことの無い速度で吹き飛ぶ。全身はバラバラに砕けたのではと思えるほどの激痛が走り、意識もついでに吹き飛びそうだ。


 けれども際限なく押し寄せる苦痛が飛びそうになった意識を強制的にたたき起こしに来る。正に負の連鎖だ。そんなことに意識を割いていると再び全身に衝撃が走る。


「うぐあぁッ!?」


 あれほど終わりの見えなかった謎空間にも終着点……壁はあった。やはり、出口となる道は無かったが延々と激痛に悶えながら空中浮遊をするよりかはいい。いいか?


「死、ぬ……!!」


 無駄に吹っ飛ばされたお陰か、ゴーレムの姿は遠くに見えた。


 けれども気分は最悪、床に平伏し、立ち上がることも儘ならずのたうち回るしかない。呼吸は浅く、口の中は血の味がして気持ち悪い。いつの間にか血溜まりが出来上がる。確実に死に至るほどの出血量、それでも俺はいつの間にか地を這い。無意識に遠目に見えるゴーレムから逃げる。


「嫌だ……来るな……来ないでくれ……死にたくない……」


 涙で視界が滲む。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──」


 懺悔の言葉を漏らし、どうして俺だけこんな辛い思いをしなければならないのかと自問する。


 探索者になったことが間違いだったのか? 選ばれし者だと調子に乗ったのがいけなかったか? 幼い頃からの夢を叶えようとした天罰なのか? 才能の無い奴が分不相応な事をするなと言うことか? 家族と幸せになりたいと思っては、願ってはいけないのか?


「来い……来てくれ……頼むよ……骨子ぉ……来てくれよぉ……」


 無意識に、俺はこの一年間の辛く苦しい日々を共にした唯一頼れる相棒を呼ぶ。


 今際の際で呼ぶのが家族や友人ではなく、モンスターなのは自分でもどうかと思うが、俺はその名を呼ぶ。これまで理不尽で危険な事ばかりな探索者を続けてこれたのも全てはアイツと一緒だったからだ。確かに世間では骨子は雑魚で役たずに見えるかもしれない。同じ低級モンスターにも一撃で身体をばらばらにされるし、正直言って使えない。それでも俺は何度もアイツに救われてきたんだ。


 ──アイツだけが俺の頼れる仲間なんだ!!


「来い!来い!来い!来いッ!!」


 何度も身体の魔力を練り上げて相棒の召喚を試みる。


「ッ────来い!来い!来い……!!」


 それでも召喚は拒絶され。骨子が現れる気配は無い。気が付けば遠くに居た筈のゴーレムは俺の眼前へと再び舞い戻り、見下ろしてくる。


「GOOOOOOOOO……」


 奴は最後のトドメだと言わんばかりにその岩腕を振り上げた。


 気がつけば時間は残り10秒。あと少しで依頼とやらはクリアできるが……それでも現実的に間に合わない。目の前のゴーレムは今まさに確実に俺を殺そうとしている。


 ──あと少し、ほんの少しだけでもいいんだ!!


 それでも一縷の望みに賭けて俺は相棒を呼び続ける。


「来い……来い……来い……来い来い来い来い来いッ──」


「GOOO!!!!」


 岩腕が風切って俺に振り落ちてくる。そうして瞬きの内に俺を圧殺しようとした────その刹那だった、


『査定が終了いたしました。召喚士〈専用スキル〉【召喚】の使用が可能となります』


「ッ来い!骨子ッ!!」


 無機質な声と俺の慟哭が重なる。瞬間、今まで一向に発動できなかったスキルが起動して、眼前が眩く発行した。


 それは召喚が成功した合図であり、俺と岩腕の間に割って入るように一体の骸骨兵が出現した。


「カコッ!!」


 頼もしく空虚な身を子気味よく鳴らす相棒に俺は感極まって泣きそうになる。


 けれども、状況的に感動的な再会を果たしている場合ではなかった。なので、俺はとりあえず目の前の骨に謝る。


「会いたかったぜ相棒。んで、急に呼び出しといて悪いんだが──」


「カコ?」


「お前、身代わりな?」


「カ────ッ!!?」


 状況をいまいち理解していない骨子は首を傾げる途中でゴーレムの巨大な岩腕に薙ぎ飛ばされる。


 筋肉も何もないただの骨にあの質量の拳を受け止められるはずもない。目の前の光景は必然であり、必定、分かり切っていたことである。


「あっけねぇ……」


 身代わりとして我が相棒が稼いだのは時間にして僅か一秒……けれども、俺にとってその一秒はこの瞬間に限れば大金にも勝る黄金の時であった。


『既定の時間が経過、クエストの達成を確認しました』


 永遠にも感じられた制限時間は全て消化し、カウンターは「00:00」で止まっている。


 それに伴い、このふざけた依頼の為だけに突如として出現したゴーレムはその姿を霧の様に霧散させた。


「……はい、俺の勝ち。なんで負けたか明日までに考えといてください」


 依然として地べたを這いつくばり、情けない姿を晒してはいるが俺はこのクソッ垂れな依頼(クエスト)を生き残った。ならば、勝者は俺で間違いなく、敗者はこんなクソザコな俺を最後の最期まで殺せなかったゴーレムである。


 ほくそ笑みながら霧散するゴーレムを見送ると、不意に意識が朦朧とする。


「やばい。生き残ったのはいいがそもそも死にそうだ……」


 現状、俺は既に虫の息である。俺を殺す危機は去ったが、依然として俺は死ぬ一歩手間。血を大量に流しすぎたし、全身の骨も折れて自力で立ち上がることもできない。これでは地上に戻ることもできない。


「骨子は……あれじゃあ再生に時間が掛かるな──」


 横目で吹き飛ばされた相棒の様子を伺うが、助けを求めるのは絶望的だ。


「あーーーーー、いかん、マジで気ぃ失いそう……」


 そもそもこうして意識を保っていることすら限界である。


 瞼が物凄く重たくて、勝手に閉じようとするのを気合で踏ん張るが、その努力も虚しく俺は微睡む眠気の魔力に根負けして意識を落とす。


『依頼達成により、受注者様は迷宮配信より特別支援を受ける権利を手に入れました。それに伴い、初回特典として今回の依頼で負った傷を無償で完治、そして迷宮からの強制送還を実施します。よろしいですか?』


 最中、無機質な声がつらつらと何かを言ってくるがその全てがどうでもいい。


 ──好きなようにしてくれ。


 言葉にできたかはわからないが絞り出すようにそう言って俺は完全に意識を失った。

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