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第2話

 誰が呼んだか〈迷宮ダンジョン〉、それが突如として世界に現れたのはちょうど数十年前。世界各地、ありとあらゆるところで地盤変化が起き、大地に無数の大穴が穿たれた。


 それはまるで物語のような展開で、突如として出現したその魔窟はこれまたゲームのように未知の資源と異形の化け物どもが湧き水の如く溢れ出てきた。それに人々は興味を引き、湧き出る資源の有用性に熱狂した。


 しかしその魔窟に挑めるのは、地下迷宮から産み落とされた妖精の声を│聞ける《・・・》選ばれた人間だけ。それ以外の人間が足を踏み入れようものならば等しく命を落とした。


 妖精に選ばれた者にはその瞬間から特別な加護が授けられ、常人を超越した力を扱えるようになった。その力を駆使して妖精に選ばれた人々は悪意蔓延る迷宮へと挑む。


 そんな選ばれし彼らを誰かが〈探索者〉と呼んだ。そして俺事──空木普も迷宮の妖精さんの声を聞き、選ばれて、高校卒業と同時に〈探索者〉になれた超ラッキーボーイであり。日夜、迷宮から未知の資源、今まで世界に存在しなかったエネルギーを内包した〈魔石〉を発掘し、持ち帰ることを生業とした探索者として日銭を稼いでいる。


 この探索者家業というものに身を落としてから、俺が思ったことは「割に合わない」ってのと「金がかかりすぎる」、それと「とんだ見世物だ」ということである。


 全世界に迷宮(ダンジョン)が出現したのと同時にインターネットにも一つの配信サイトが現れた。


迷宮配信ダンジョン・ア・ライブ


 それは迷宮から産み落とされた妖精──配信妖精(ライブフェアリー)が探索者の勇姿を写し『一つの世界に限らず全次元に生配信!!』を謳い文句としているサイトだった。


 最初こそ、その怪しすぎる謳い文句のこのサイトの登場に殆どの人が困惑し、疑念を抱いたが、直ぐにそれらは消え去った。


 何せ迷宮に入る為にはこの配信妖精に認められて探索者の加護を受ける必要があり、とある発足団体の言では「探索者の安否確認のための利便性と有用性は言わずもがな」とまで言われるほど高クオリティのライブ配信を実現させ、加えて娯楽に飢えたとある富裕層の間では「これほど刺激的なエンターテインメントは今まで存在しなかった!」と言わしめるほどの魅力が内包されていた。


 これにより全人類が一瞬にしてこれらを受け入れ、そして齧り付くように迷宮配信に魅了されていった。その結果、今では立派なエンタメとなり、全次元に配信と言うのもあながち嘘じゃないのかもしれないとさえ思えた。


 その最たる理由が異常な数のサイトアクセス数であったり、同接数にあった。明らかに世界の総人口よりも多いその母数に、巷では異次元の人──それこそ神様なんかも見ているのではと囁かれているほどだ。


 そんな色々な意味で規模の違う〈配信探索者〉なんてものが若者のなりたい職業ランキング上位に位置するのは必然とも言えた。


「まあ、そのお陰で馬鹿な俺でも金を稼げてるんだから文句は言えないな」


 先ほどの粘液体を撲殺することに成功して、俺は独り言ちる。


「相変わらずちっちゃいな~」


 そのまま爆散したスライムからドロップした〈魔石〉を回収する。


 その大きさは小指の爪程度であり、時価で大体五千~一万円程度。あの粘液体を殺すのに凡そ十五分ほど要したのでまあ普通のバイトの時給より何倍も稼げてはいる。だが、だとしても死ぬ思いをして稼いだ金がこれだけだとやはり、割に合わないと思ってしまう。


 仮にあの粘液体を一日で十体狩れば日給は良くても十数万程度で、ほぼ休みなく迷宮探索を行えば月収は頑張っても三百万に届くかどうかだ。ここから母の医療費(超高額)や妹の学費、借金の返済、日々の生活なんかで金は湯水のように消えていく。未来への貯金、資産運用、「FIRE」なんてのは夢のまた夢である。


 え? それじゃあまともに稼げもしないこんな初心者迷宮チュートリアルダンジョンなんかじゃなくてもっと稼げる迷宮に出稼ぎに行けばいいだろって? それができるんなら一年もずっとこんなとこいないんだよなぁ──


「お、骨子。起きたか」


 ぶつくさと自問自答をしていると、粘液体にその身をばらばらにされてから全く微動だにしなかった骨がひとりでに動き出して元の姿に戻る。


〈スケルトン〉と言うモンスターはその身をバラされたくらいでは死なず、一定時間が経過すると勝手に元の姿に再生する。本当にこいつらを殺したいのならば術者の俺を殺すか、再生不可能なほどに骨を木っ端みじんにするか……とまあ、意外と方法はある。


 十数年前ならばフィクションのような光景。しかし、今はこんなこと平気で起きる。それもこれも探索者になった特典のお陰と言うべきか。


 配信妖精に魅入られた人間はその内に秘めた〈職業(クラス)〉や〈能力(スキル)〉を開花させる。身体能力は常人の数倍から数十倍に跳ね上がり、職業とは読んで字のごとくその人間に適した役割、能力はゲームとかでよくある魔法や特殊な力のことである。


 そして俺は異形の怪物──モンスターを召喚することができる〈召喚士〉の職業(クラス)を開花させた。能力(スキル)は勿論【召喚術】である。


 そうしてこの〈召喚士〉は所謂、希少職と呼ばれる部類の職業であり、一般的な職業の〈戦士〉や〈魔法使い〉、〈狩人〉や〈治癒術師〉と比べると圧倒的に数が少ない。しかもその能力の強さは正に運であり、当たり外れが大きく出るのだ。


 例えば俺の様に骨しか召喚できない奴もいれば、探索者になった時点で竜や獅子なんかを召喚するヤベー奴もいる。俺も竜とか召喚して無双してみたいなぁ(小並感)。


「例えば、超有名配信者の〈召喚おじさん〉とか〈召喚おねえさん〉みたいに」


「カコッ???」


「ああ、いや、ただの独り言だよ」


 俺の言葉に骨子が身を鳴らして反応する。たった一音でこいつの感情の機微が読み取れるのだから俺も立派な召喚士(笑)である。


 閑話休題。


 前述した通り探索者とはその危険性も去ることながら、底辺探索者でも一日で常人の倍の金を稼ぐことが出来る。俺のように諸事情がなければこれだけでも十分に食べていけるし、これで迷宮配信でそれなりの視聴者を集めていれば億万長者も夢では無い。正に、夢の仕事であるが現実とは無情であり、見ての通り俺は底辺も底辺、最底辺の探索者であり配信者であった。


 探索者の等級は一年前からずっと変わらずに「F」で、億万長者の代表格である「S」ランクなんてのは夢のまた夢、もはや不可能まであった。


 ──それもこれも全部弱すぎる俺が悪いのだけれども。


〈召喚士〉は希少職で強さに運の要素が大きくあると言ったが、それを抜きにしたって一年以上探索者を続けていて未だにスケルト一体しか召喚できないと言うのは異常な事だった。


 召喚されるモンスターは術者の能力値によってその強さが変わり、俺が強くなれば強くなるほど新しい〈スキル〉を覚えたり、〈進化〉して更なる強力な種族に生まれ変わることも可能なのだが──如何せん、俺は一年前から全く探索者として成長(レベルアップ)ができなかった。


 本来ならばモンスターを一体……それこそさっきの〈スライム〉でも倒すだけで直ぐに成長するはずなのが、俺の身にその兆候は全く見られなかった。何度か施設などでその原因を調べてもらったこともあったが、その結果として俺は他人よりも魔力の吸収率が悪く、そして成長に必要な魔力量が異様に多いというクソみたいな体質の所為で未だに成長が起きていないと判明。その所為で俺は一年近く初心者しか足を踏み入れない初心者迷宮チュートリアルダンジョンを未だにクリアできていなかった。


 普通は一日で……どれだけ時間をかけても二、三日でクリア出来るはずの低難易度ダンジョン。そんな攻略風景が面白いはずもなく、配信の視聴者数は最高で50、常時1人が当たり前。詰まり何が言いたいかと言うと、配信妖精に選ばれて於いて俺には探索者になる才能が皆無だったのだ。


「不甲斐ない主人で悪いな骨子……」


「カコッ!!」


 現実の厳しさと言うか、神様の悪戯に等しい悪行で気分は自然と沈むが、今は配信中だ。空元気で無理やりハイテンションに振る舞う。


「さあさあ!激闘を経て何とか難敵スライムを撃破!今日は順調ですね!この調子でダンジョンをクリアしちゃいましょう!!」


 果たしてこの強制鬼畜縛りでそれができるのかは甚だ疑問であるが、やるしかない。全ては家族の為に。


 まだまだ迷宮は序盤、口では「クリア」と言っているが今日もそれはきっと無理であろう。けれども表面上は意気揚々と振る舞い、先に進もうとしたところで違和感に気がつく。


「は?」


 妙に足元が明るいなぁ~程度に視線を下に向けるとそこには謎の幾何学模様──所謂、魔法陣が浮かび上がっていた。


「────は?」


「カタッ!?」


 二度目の呆けた声と驚いた様子の身なり音。そうして俺と骨子は青白い光に包まれて、初心者迷宮に存在しないはずの罠──転移罠に引っかかった。


 そうしてこれが、俺の探索者人生を変える出来事の始まりであった。

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