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第18話

 迷宮主(ダンジョンマスター)──紅蓮狼(フレイムウルフ)。そいつは名前の通り端的に言えば炎を纏った狼なのだが、こいつがまあ面倒くさい。


 これまで上層で戦ってきた雑魚共と比べて、流石は迷宮主と言ったところかその強さは一線を画し、舐め腐っていたら普通に返り討ちにされる。しかも何が嫌らしいって今まで物理一辺倒でしか襲ってこない雑魚モンスターを相手取っていたと思ったら、急に魔法やスキルなんかを駆使して殺しに来るのでマジで質が悪い。そう正に今の様に、


「ウルゥガァッ!!」


「おい、笑える」


「カタタッ!?」


 最下層にて侵入者を待ち換えていた紅蓮毛の狼は開口一番に炎を吐き散らしてくる。


 十分距離がある状況、多分狼も威嚇放射のつもりの一吹きだ、躱すのは容易い。けれども状況は全く笑えない。


「何度戦ってもこいつは戦い慣れねぇな……言うて報酬の成長(レベルアップ)から一度も成長してないしなぁ」


 普通に実力としては五分五分。倒せない訳ではないが瞬殺は無理だ。


 こいつの魔石やドロップアイテムは金になるんだが、命の危険を鑑みるなら相手取りたくはない。そこら辺の損得勘定をしっかりと測れないのならば探索者なんて続けてられない。


「まあ、やるしかないんですけどねぇ──カチコミ入れるぞ骨子!!」


「カカッ!!」


 体制を立て直して頼れる相棒と共に地面を蹴って飛び出す。


 本来であれば骨子がやられるなどの緊急事態じゃない限り、俺自身が戦闘に参加することは無い。だってまともに成長もしてない召喚士は物理も防御も能力値が低く、前衛を任せれたものではないのだから。危険を冒してまで戦うメリットがない。


 けれどもその常識が通用するのは格下の相手だけであり、こと同格や格上相手には死をも恐れずに相棒と一緒に死地へと飛び込む覚悟も必要となる。そんでもって今が正にその時だったりする。


「ヒット&アウェイ!時間は十分にあるんだ。いつも通り確実に削って倒すぞ!」


「カコッ!」


 この火吹き狼を倒して、問題なく依頼はクリアできる。なんならお釣りがくるまである。


 相棒に指示を出して左右別れるように敵へと肉薄していく。この火吹き狼の討伐回数は全部で五回。初めて倒した一回目は辛勝、二回目は何となくパターンが定まってきて、三回目でまあ死ぬ確率が数パーセント減って戦えるようになったねぐらいの感覚。如何せん、俺と骨子は火力がないので倒すのにそれ相応の時間が掛かってしまう。


「打撃は微妙なんだよなぁこいつ……」


 安物の短刀を構えて機を見計らう。あくまで俺は骨子の補助──隙を見てちくちく攻撃する鬱陶しい奴だ。まず初撃は骨子に任せる。


「カカッ!!」


 子気味よく骨を鳴らして、狼へと間合いを詰めた骨子はその勢いのままに拳骨を顔目掛けて振り抜く。


「グルゥガ!!」


 しかし、残念ながら骨子の渾身の一撃は難なく躱されてしまう。だが、それでいい。


「まんまといらっしゃいませ、お客たまぁ~!?」


 跳躍で以て回避行動とした狼の着地と同時に、俺は奴の横っ腹に短刀を突き立てる。微妙に固い毛皮によって刃の通りは悪いがダメージにはなる。ぬらりと鈍色の刃に付着した血がその良い証拠だ。


「Oh……自分でやっといてなんだけど痛そうだねぇ──だから刃物って得意じゃないんだよ。やっぱり鈍器が罪悪感なくぶっ飛ばせるね」


 ;それはそれでどうなんだ?

 :言ってることメチャクチャなんだよなぁ……

 :こいつ戦闘になると更に情緒が可笑しくなるよな

 :狂ってる


 即座に狼の側から離脱し、コメント欄が視界の端に映る。散々な言われようだ。

 

 てか大の大人を普通に嚙み殺すバケモノと正気で対峙できるわけないでしょうが、ちょっとでもバカにならないとこんなことやってらんない。


「なぁーんて今更なこと考えてたらまた攻撃チャーンス!!」


 今度は骨子の拳骨が見事に狼の横っ面を捉える。また怯んだ狼の隙を見逃す道理も無く。俺は再び突貫する。


「パターン来たかなぁ!?」


 この狼、色々小賢しくて耐久も中々なものだがこうして立て続けに攻めると打たれ弱い。どれだけ厄介でも所詮は初心者迷宮チュートリアルダンジョンの迷宮主と言ったところか、パターンに入ってしまえば意外とあっさり、簡単に倒せてしまうのだ。まあ、そのパターンに入れるのが命がけで大変な訳だが──


「ゥガァアアアア!!」


「ッ──うるせッ!?」


 再び傷つけた横っ腹目掛けて攻撃しようとした瞬間、耳を劈くような獣の咆哮が俺を襲う。それがこの狼の使う共通スキル【咆哮】なのは言わずもがな、【咆哮】によって約三秒俺の身体は強制硬直に陥る。


 ──しくった!


 そう思った頃には既に遅い。決定的な隙を眼前の狼も見逃す道理が無く、その鋭く研ぎ澄まされた牙を突き立ててこちらの首元を噛み砕かんと飛び込んで来る。


 回避は不可能、流石に首元に噛みつかれては死ねる自信しかない。結構ピンチな訳であるが、それは俺が一人だった場合であり、俺には俺よりも強く頼れる相棒がいる。


「カタタッ!!」


「グルブ!!?」


 俺に肉薄していた狼の真横から骨子が勢いよく突進(タックル)する。虚をつかれた骨子の渾身突撃に間抜けな声を上げて狼は地面に転がった。それと同時にスキルによる硬直も解ける。


「ナイス骨子!いや、マジで助かった!死ぬかと思った!神様仏様骨子様!!」


「カコッ!!」


 俺の感謝の言葉に頼れる相棒はサムズアップで答えるのみ。その視線は依然として狼に向いており、微塵も気を緩めてはいない。おいおい、かっこよすぎるぜ骨子さん!! 死を間近にしたのと油断のない骨子に俺の背筋も一気に引き締まる。


「よっしゃ、今度はヘマしねえからよぉ……このままの調子であの犬コロぶっ飛ばそうぜ!!」


「カコッ」


 少しずつではある、だが着実に目の前の狼は疲弊し、衰弱している。


 勝機はある、まだ制限時間(タイムリミット)まで二十分もあるのだ。今一度、気を引き締めていこう。そう自身を鼓舞して再び狼に攻め入ろうとした瞬間だった。


「ご、ごめんなさいぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 唐突に鳴り響く甲高い謝罪。反射的に声のする方へと視線を飛ばせば、上空から一人の少女が落ちてきていた。受け身も取らずに落下してきた謎の少女は激しい砂埃と衝撃音を伴って、俺達と狼の間に落下した。


「そ、空から女の子!?それなんて言うラピュ──」


 おっとこれ以上はいけない。親方に報告してもいけない。全く予想外の事態に最下層には謎の静寂が訪れる。


しかし、それも長くは続かない。なにせ──


「グルゥガァアアアアアア!!」


 二体目(・・・)紅蓮狼(フレイムウルフ)が突如として出現(ポップ)したからだ。


 どうやら、神様は簡単にこのクソッ垂れな試練を攻略させてはくれないらしい。

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