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第1話

 探索者保険・月十万円、回復ポーション・一つ一万円(最低級)、魔力回復ポーション・一つ三万円(最低級)、防具各種(胸当て、防耐火レギンス、ブーツ、ローブ他)・合計二十五万(最低級)、武器各種(魔石杖、小型ナイフ×二本)・合計四十万(最低級)、探索小道具各種(魔晄灯、携帯食料、止血剤、包帯、方位磁針、縄、火打ち石etc……)・合計二十万(消耗品)。


 上記が探索者になる上で必要最低限の出費である。その合計は約百万円ほどであり、付け加えて言わせてもらえばこれはほんの一例であり、金のない俺の場合はこうなだけの話であって、本来ならばこの倍以上の金をかけて探索者になる為に万全を期す。


 世間一般的な探索者たちの基準で言えば俺がかけた初期費用は迷宮探索を舐め切った愚行であり、命を無条件で丸投げしていると思われても可笑しくはなかった。


 そもそもが、初期投資に金を掛けられないのならば探索者になるべきではないと言うのが世間一般の認識であり。迷宮とは当然危険な場所であって、そこを探索するのならばいつ命を落としても変ではない……寧ろ、それが常時として起こる場所なのである。


 だから、金が無いのならば探索者になるべきではない。運よく探索者に成れたとしても、すぐに別の素質……それも一番重要な(モノ)が試される。探索者になって最初の数か月で思い知らされたのはそんな現実であった。


 それでも、俺は神様が気まぐれで与えてくれた機会(チャンス)を手放すわけにはいかなかった。


 女で一つで俺達を育ててくれた母は今や病床に伏し、これから高校と大学受験を控えている妹の学費も稼がなくてはならい。家庭の大黒柱である父は俺が小さい頃に他界し、頼れる親族も生憎いない。


 現在、空木家で唯一の働き頭は最近高校を卒業したばかりの俺だけであり、これまでに生活費やらなんやらでこさえてきた多額の借金もある。


「マジで人生詰み、これなら死んだ方がマシだな」


 そう自暴自棄に陥り、馬鹿なことを考えた時もあったが、そんな折に世界総人口の約十パーセントしかなることのできない探索者に選ばれ、人生最大の転機が訪れた。


 このどん底をひっくり返すには、無謀も無茶も承知で探索者、そして配信者として成功する他なかった。例えそれで死ぬことになろうとも、大した学も無く、普通の収入では人生どうすることもできない俺にはやるしかなった。


 偏に家族を、俺自身が幸せになる為ならば。


 だから俺は狂気入り乱れ、死線が交差する迷宮へと死ぬ一歩直前まで踏み込み、探索者なんて言うクソで、理不尽極まりない狂人たちの仲間入りを果たした。


 ・

 ・

 ・


「すぅ……はぁ……」


 周りを飛び回る一つの球体。ちかちかと点滅するそれはリアルタイムで俺の状況とダンジョン内を映すカメラが正常に作動していること、ライブ配信がされていることを示す。


 そしてこれまた視界の端に固定されたように表示される「同接数:1人」の文字。それだけ俺での気分は最高に最悪な訳だが、決して表情に出すことは無く、本当にみられているかどうかも分からない視聴者に向かって元気に声を張り上げる。


「どうもー!好きも好んでもいないのに強制鬼畜縛りを強いられてる底辺配信探索者のアマネでーす!!今日もね、張り切って探索の方をしていきたいと思いまーす!!」


 それはお決まりの挨拶であり、唯一の視聴者に向けたファンサービス。こんなものが本当にファンサービス足り得るのか甚だ疑問だが、一年近く続けていると配信の開始と同時に反射的に口から吐き出てしまう。


 勿論、そんな挨拶でコメント欄が動くことは無い。今日も今日とて綺麗な真っ白である。悲しいね。そんな気分をやはりおくびにも出さずに俺は流れ作業の様に言葉を続ける。


「そして、今日も今日とて俺と一緒にこのダンジョンを探索してくれるのはこいつ──唯一の仲間にして頼れる相棒の(ポン)子ちゃんでーす!!」


 蒼色の魔法石が先端に埋め込まれた錫杖(二十五万円)を一振りして俺は虚空から一体の骸骨(スケルトン)を召喚する。


 これが探索者になったのと同時に俺に与えらた職業──召喚士の専用能力(スキル)であり。唯一、この迷宮を攻略する方法だ。


 召喚された骸骨は俺の方に振り向くとカタカタとその身を鳴らす。それがコイツなりのやる気の表れであることはこの一年の付き合いで把握済みである。


「今日も頑張ろうな、骨子」


「カタタッ!!」


 骸骨とグータッチすると言う、一見異様な光景もこの迷宮の中では特段珍しいことでもない。


 なので急に骸骨を召喚したくらいで唯一の視聴者は驚いてコメントをすることはない。


「それでは今日もこのメンバーで初心者迷宮チュートリアルダンジョンの攻略をしていきたいと思いまーす!!」


 それでもへこたれずに、俺はカチカチと骨を鳴らす骸骨と並び立ち、歩き出す。


 眼前に広がるのは平原。そこは地下であるはずなのに何故か空があり、太陽があり、草が青々と茂っていた。一見、平穏そうに見えるが侮ることなかれ、そこには異形の化け物達が跋扈する危険地帯だ。


「おぉとっ!さっそくモンスターと遭遇しました!チュートリアルダンジョンお馴染みの〈スライム〉ですね!それでは早速、討伐をしていきましょう!」


 ゲームや最近のファンタジーではお馴染みもお馴染み、逆に出てこない日は無いんじゃないかってくらいの登場頻度である緑の粘液体と遭遇。


 眼前に現れたそれらを倒して未知なる資源──魔石を手に入れることが俺の……探索者のやるべき事だ。


「行け!骨子ッ!!」


 勿論、戦闘力が極めて低い俺ではこの雑魚モンスター筆頭の粘液体さんと正面から戦うことも死を覚悟しなければならない。なので、召喚した使い魔を嗾ける。


「カカッ!!」


 勇ましく粘液体に突進していくスケルトン。ここから骨と粘液体の激しい戦いが繰り広げられるかと思われたが──実際は違う。


「「ッ──!!」」


 激しくぶつかり合う両者。その力は拮抗しているように見えるが勘違いも甚だしい、呆気なく粘液体の方に軍配が上がる。そしてバラバラに崩れる相棒を見て俺は叫ぶ。


「骨子ぉぉぉおおおおおお!?」


 無惨な光景に動揺してみせるが、それは演技である。


 相棒のスケルトンがバラバラに崩れる事など日常茶飯事。寧ろ、バラバラにならない方が不思議なくらいだ。この骸骨は眼前の粘液体よりも強さで劣る雑魚なのだ。


 しかし、映像の映えを意識して俺はオーバーリアクションをして見せる。例え、同接数が一であったとしてもだ。これぞ、配信者魂である。


 そうしてほぼ無力な俺も不承不承ながら戦闘に参加する。


「おのれ!よくも俺の大切な相棒を……貴様だけは許さんぞ粘液体コラぁッ!!」


 雄叫びを上げて、場は一気にボルテージを上げる……ことも無く。配信に流れるコメントも皆無。


 何たる茶番か。その癖、ガチの命がけでこんな粘液体を殺したところで大した金にもならない。


 ──マジでふざけんな!!


 そう思っても俺は今日も道化を演じる。それが家族の為ならば尚のことだ。

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