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第15話

 迷宮に存在する〈(トラップ)〉には様々な種類や型が存在する。


 それは具現化した迷宮の悪意、土足で中に踏み入ってきた探索者を拒み、阻み、毟り取るかのように〈罠〉は探索者を死へと陥れようとする。基本的な罠は迷宮ができた瞬間に各所にちりばめるように発生し、一度でも場所が特定できればそこからその罠の位置が変わることは無く、対処は容易になる。


 なので多くの探索者によって開拓された初心者迷宮とは最も各階層の情報が出揃い、罠による不慮の事故が発生せず、安全性が担保され、攻略難易度が低いとされているのだが……迷宮に「絶対」と言う言葉は存在せず、どんなに攻略された迷宮であろうと必ず「異常(イレギュラー)」は存在する。


 例えばそれは強力なモンスターとの遭遇であったり、例えばそれは特定の条件が満たされた場合に限り発動する特殊な罠であったり──と理由は様々。そうして、幸か不幸かそんな異常に遭遇してしまった俺の運命は思いもよらぬ方向に転がり始めていた。


「人生どうなるかわかったもんじゃねよなぁ……」


 時刻は二十二時半。終電の都合上、最下層まで試走するのならばこれが最後の挑戦となる訳だが、


「さーて、粘液体はどこじゃあ?」


 俺はのんびりと迷宮に入ってすぐの辺りで粘液体を探していた。理由は勿論、今しがた全身に駆け巡った天啓を実行する為である。


 :底辺視聴者の言ってることは本当なのか?

 :てかなんであの配信の録画持ってるんだよ……

 :それって規約的にいいのか?

 :グレーだろ、配信主が黙認してるなら話は変わるかも?

 :本人はそれどころじゃない模様


 コメント欄の反応はさまざまである。意識を再び粘液探しに向けつつ、脳裏に先ほどの底辺視聴者さんのコメントを思い出す。


 前述した通り、この迷宮には今まで|転移(トラップ)は確認されてなかったし、こんな初心者迷宮には存在しないと思われていた。俺が生まれた時から存在していた迷宮だ。単純計算で十八年も見つからなきゃそれは無いのと同義であり、別に不思議な事ではない。けれども、それと同時に忘れてはいけないのは迷宮には「異常(イレギュラー)」が付き物だと言うことだ。現にその「異常」で俺は未確認の罠を踏み抜いたのだから──話を戻そう。


 今回の件でさらに探索関係者の説が濃厚になった底辺視聴者さんが言うには、俺が一度だけ体験したあの転移罠はある条件が満たされ場合に発動する(タイプ)の罠だったではないかと言うことだ。何を都合の良いことを──と一蹴するにはその説は荒唐無稽なモノではなかった。実際にそう言った罠は様々な場面で発見されている。


 例えば四人以上で部屋(フロア)に入った瞬間に大量のモンスターが出現したとか、例えば特定の職業(クラス)の探索者だけに一定の能力低下(デバフ)が付与される煙だったりなどなど……下層に行けば行くほど初見殺しのような、一定の探索者を狙い撃ちしたような罠が散見されいている。そうして、俺が体験したあの転移罠もその類であると考えたわけだ。


「使い魔が倒されて仕方なく召喚士が自分でモンスターを撃破した瞬間に発動する罠……いや、これじゃあちょっと限定的すぎるから、召喚士が自分の手でモンスターを倒したときに発動する罠の方が妥当か?」


 そんな局所的な罠なんてどこにあんねん……ああ、この迷宮に在るのかもしれないのか(すっとぼけ)。てかマジで誰得トラップだよ……この迷宮は召喚士に何か恨みでもあんのかよ。


「まあまだ仮説、こっから明るみにしてきましょ」


 実際に検証してみた。


「よし発見」


 数分と経たずに眼前に三匹の粘液体が現れた。一瞬、反射的に退路と戦闘回避の可否を弾き出そうとするが直ぐに不必要だと思い至る。


「変な癖がついちまったなぁ……」


 この数日、地獄のRTA走で俺は随分と毒されてしまったらしい──なんて思考を他所に目の前で楽し気に跳ねている粘液体に突貫する。それに骨子も追随しようとするが制止する。


「ストップ骨子、ここはご主人様に任せなさい」


「カコ?」


 こてんと首を傾げる相棒は俺の言う通りにその場に留まる。さて、結果は如何ほどに──


「死に晒せオラァッ!!」


 魔石杖を横に一振り、掠め取るように粘液体を殴り飛ばす。その一振りで容易に粘液体は爆散し、緩くなった液体の様に地面に落ちたかと思えばそのまま霧散して魔石だけになる。


「ふっ……他愛もない」


 刀に付いた血を払うが如く杖を払い、恰好を付けてみる。コメント欄の反応はイマイチだが、骨子が拍手で喝采してくれたので良しとしよう。


「さてどうだ……?」


 そして検証はここからだ。罠の発動条件だと思われる召喚士の俺自身がモンスターを倒したことで件の転移罠は──


「……あっるぇ、発動しないぞう?」


 微塵も現象として現れる気配がない。仮説が間違っていたのか……と一瞬慌てるが落胆するコメントに紛れて頼れる強調表示のコメントが流れた。


 :ああ……

 :勘違いでしたパータン

 :ふっ……他愛もない

 ────

 底辺視聴者 ¥5,000

 :もっと細かい条件があるかもしれないから一回の検証だけでは判断できません。なのでどんどんいろんな仮説を立てて試してみましょう!今度は接敵するモンスターの数を絞ってみるとか!!

 ────


「そ、そうですよね!まだ検証はこれからですよね!?おいお前ら!直ぐに諦めるんじゃなくて底辺視聴者さんみたく諦めない不屈の心でコメントしろ!!」


 :おまいう

 :主も絶望顔晒してたやん

 :クソブーメランで草


「ええいやかましい!別に全然絶望なんてしてませんが!?まだまだ二の矢三の矢と妙案がありましたが!?」


 他のコメントと下らない言い争いをしながらも再び粘液体探しを再開する。そして検証を進めること約二時間──


「マジかよ……」


 百数回に及ぶ緻密で綿密な──同じ意味か──粘液体との戦闘を経てついに俺は転移罠を発見した。


 その気になる検証結果は「迷宮に入って直ぐの大岩付近に出現する粘液体(スライム)一体(なお出現数は完全ランダム)に骨子がバラバラに倒された後で俺が杖で粘液体を撲殺する」であり。この条件が満たされた時だけ転移罠が発動することが分かった。


「よりによって一番在り得ないと思っていた仮説が発動条件で、しかも更に変な条件まで付けたされんのかよ」


 これは見つけられるはずがない、見つけさせる気がない、見つけられたら奇跡だよ──つまり、俺は奇跡の体現者と言うわけである。ははっ、全然嬉しくないね。しかも更に厄介なのが、


「転移で飛ばされるのは前の謎空間じゃなくて完全ランダム、一~三階層のどこかに飛ばされるって……どれだけ運ゲーさせられるんだよ」


 ここに来て俺の命はまだ運に左右されるらしい。まったく生きた心地がしないね。


「夢中になりすぎて終電も逃したし……」


 何よりこれが一番俺の精神を苦しめた。勿論、帰りのタクシーなんて贅沢ができる筈も無く。これから一時間かけて帰宅である。もう踏んだり蹴ったりだよ。


 :キターーーーーーーーーー!!

 :マジかよおい!!

 :まさか本当に存在するとは……

 :大発見だ!!

 :祝!終電逃し!!


 ちなみにいろんな意味でコメント欄は信じられないくらいに盛り上がっていた。配信としては結果は大成功だ。やったね。

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