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第12話

 初の初心者迷宮クリアから翌日。念願の迷宮初攻略に俺の喜びは一入……なのだがそれ以上に厄介な問題が覆いかぶさってきたので直ぐに感動なんてのはどっか行った。命が掛かってるからね、仕方ないね。


「てかマジでどうしようかな……」


 早朝、今日も今日とて俺は田畑のど真ん中に鎮座している初心者迷宮へと来ていた。今更だが正式名称を「芽吹きの迷宮」と言う。


「アレ、どうしたんだ兄ちゃん?確か昨日迷宮を攻略したはずじゃあ……なんでまたこんなとこに来てんだ?」


 いつも通り守衛所に行くと困惑した様子でじいちゃんが出迎えてくれる。その疑問は御尤もであったが、俺は苦笑で以て返答するしかできなかった。


「ちょっとまだやり残し?みたいなのがあって……ようやくこの迷宮は攻略したんだけど、もうしばらくそのやり残しを終わらせるまで通うことになりそうっす」


「なんだか良く分かんねぇけど探索者ってのはやっぱ大変なんだぁ……まあ頑張ってくれや!正直、今日からは兄ちゃんの顔を見ないと思っていたから嬉しいサプライズだったぜ!!」


「嬉しいこと言ってくれますねぇ~。ちなみに今日は誰か潜ってる?」


 じいちゃんの言葉に軽く涙腺が崩壊しそうになるがぐっと堪えていつもの質問をする。昨日は新人が潜っていたが、流石に今日はいないだろう──


「おお、昨日と同じ嬢ちゃんが今日も潜ってたなぁ」


 と勝手に高を括っていたのだが、予想外の返答に驚く。


「マジすか?」


「おう。詳しい話は聞けなかったが、様子を見るにどうやら昨日で迷宮を攻略できなかったんじゃないかなぁ」


「ほぅ……」


 昨日の話を聞く限り、戦闘職のしかも剣士系と言っていたから速攻で迷宮を攻略していると思ったがこれは驚きだ。気まずそうに表情を曇らせるじいちゃんに俺は笑顔を作る。


「まあ慎重な新人は最初の探索はゆっくり目になるって聞くし、もしかしたらその人もゆっくり攻略してるのかもっすね。今日あたりには攻略して帰ってくるんじゃないっすか?」


 寧ろ、そういう冒険者の方が大成すると探協の職員──榊さんが前に言っていた。


 榊さんの経験則で言うのならば、今俺と同じ迷宮に潜っているその探索者は見込み有りと言うことである。流石は年の功、伊達に何年も探協につとm───おっと、これ以上はいけない。


「そう……だな!兄ちゃんみたいに一年間もずっと閉じ込められてたやつもいるくらいだし一日や二日なんてまだまだだな!」


 おっと、下らないことを考えていた罰なのかしれっとじいちゃんが言葉のナイフで俺を刺してくるではないか。今の一撃は効いたぜ。


「ま、まあそういうことっすよ……んじゃ、俺も行ってきま~す」


「おーう、気ぃつけてなぁ!」


 少し巻きで手続きを済ませて門を通り過ぎる。屈託のないじいちゃんの声援がさらに俺の硝子のハートに突き刺さる。こういうのって無自覚な方が傷つくんだよね……。


「──気を取り直して今日も稼いで……ついでに最速攻略しますかぁ」


 大きく伸びをして迷宮の入り口となる転移魔方陣の上に乗った。


 ・

 ・

 ・


「お待ちしておりました普様!今日も夢に向かって一生懸命、配信と探索をしましょうね!!」


「昨日の今日でよくそのテンションで来れるなお前……まあいいや、さっさと配信始めてくれ」


 青空広がる「芽吹きの迷宮」に入るなりベノが元気に俺の目の前に現れる。


 全く悪気のないその態度にほんのりと苛立ちを覚えるが、昨日の今日でこの羽虫に常識性を求めること自体が間違いだと悟った俺は塩対応で応じる。しかし、それでもこのポジティブ妖精は気にも留めない。


「おお!今日もやる気満々ですね!それじゃあご用望通りに早速始めましょう!!」


 それどころか変な曲解をして上機嫌である。マジでなんだこいつ。


 :始まったー

 :変態縛りプレイ探索者の配信はここですか?

 :朝っぱらから精が出るねぇ~


 やはりベノに対して怒りが再発しかけるのと同時に配信が開始、同接数が一気に増えてコメント欄も賑やかなになる。


「はいどうもこんにちわ~……って、なんか昨日より人増えてね?てか誰が変態縛りプレイ探索者だコラ」


 同接が八百近く……え、なんか登録者も気が付けば一万を超えてるんだけど? 昨日は色々と起きすぎて登録者まで気が回らなかったが、今確認したら凄いことになっている。やっぱりスマホ早く買わなきゃダメだな。エゴサしなきゃ(使命感)。今日の探索の帰りにでも──


「おっと思考が変な方向に飛びかけた……とりあえず同接とか登録者数はどうでもいいや」


 今はそんな事を気にするよりももっと大事なことがある。


「改めまして底辺探索者のアマネでーす。今日もね、元気に初心者迷宮の「芽吹きの迷宮」を攻略しましょうね~」


 :やる気ある?

 :もっと過疎ってた時みたく丁寧に配信しろ

 :敬え

 :視聴者は神様やぞ


 俺の雑な挨拶が気に食わないのかコメント欄には不満の声がちらほら……てかなんだそのクソ客みたいなマインドは? でもね、何度も言わせてもらいますけどそんなこと気にしてる場合じゃないんですよ。こっちは下手すりゃあと六日の命なんですよ。ギリギリなんですよ。


「なので、てきぱきと行きまーす」


 傍から聞けば脈絡のない言葉であるが気にせずに俺は走り出す。


 迷宮に入った瞬間から今回の依頼(クエスト)は始まっているのだ、今は一分一秒も惜しい。だが流石に適当に配信をしても同接が減って金が稼げなくなるので必要最低限の仕事はする。


「昨日の配信を見てくれた人はご存じかもしれませんが、昨日そこに居る迷宮妖精のベノが俺に新しく依頼(クエスト)を発行しました。そんでそれをあと六日でクリアしないと俺は死ぬらしいので今日はその依頼をやっていきます。依頼の内容は至って単純、この初心者迷宮を一時間で攻略することでーす。つまりRTAってことですね。現状説明は終わりでーす」


 :うーん、このやる気の無さ

 :けど説明通りなんだよなぁ

 ────

 底辺視聴者 ¥5,000

 :お疲れ様です!今日も楽しく配信を見させていただきます!

 最速攻略頑張って!!

 ────


「うお……底辺視聴者さん、今日もスパチャありがとうございます。でもそんな毎回スパチャしなくても大丈夫ですからね?」


 今日も平然と飛んでくる金の暴力に若干の恐怖を覚えながら、俺は脳内に「芽吹きの迷宮」内の地図(マップ)を思い浮かべる。


 一年間、しかもほぼ毎日同じ迷宮に潜っていれば、嫌でも迷宮の各階層の大筋の道は覚えられる。まあ、その殆どが昨日初めて行った場所なんだが……細かいことは良いんだよ。そして──


「依頼のクリア条件は一時間で、真っすぐ最短距離それも最小限の戦闘……粘液体一体とかで済めば大体各階層を頑張れば二十分で行ける──」


 この迷宮は全四階層で構成され、一番最奥の四階層に至ってはちょっとした大部屋である。つまり理論値を叩き出せれば確かに一時間三十分での攻略は可能である。


「けどそれじゃあ余裕で一時間オーバーだ……」


 そもそも、前述した攻略法を俺みたいな味噌っカス探索者が実行しようと言うのが無理無謀そのものだ。モンスターとの接敵なんてランダムだし、仮に最下層に辿り着くのに一時間を切ったとしても、迷宮主(ダンジョンマスター)で詰む。


「やっぱり無理ゲーでは?」


 状況を整理すればするほどに絶望が明るみになる。やんなってくるね。


「なんて嘆いてたら早速敵ですわ!!」


 進行方向に馴れ親しんだ粘液体が三体。既に脅威でも何でもなくなってしまった宿敵ではあるが、それでも遭遇するだけで致命的なタイムロスだ。


「幸先が悪ぃなぁ──来い!骨子ッ!!」


 いつも通り召喚士の専用スキルで頼れる相棒を召喚してスライムに突貫させる。


「カカッ!!」


 淡い魔法陣の光に照らされながら召喚された骸骨兵は、そのまま粘液体を素手喧嘩で蹴散らしていく。


「まずは今自分ができる最速のタイムを計る!」


 現状の最高地点を把握できていなければ試行錯誤もクソも無い。


「行くぞ骨子!!」


「カコッ!!」


 頼もしく骨を鳴らす相棒と今日も迷宮を駆け抜ける。


 ・

 ・

 ・


 そうして今日の試走で分かったことは、俺の初心者迷宮「新芽の迷宮」の自己ベストタイムは三時間二〇分と新人探索者の平均の攻略時間だと言うこと。常に全力疾走、戦闘を極力避けられてこのタイムである。覚悟はしていたが、ここまでタイムが出ないとは思わなかった。


 :もっと早く走れ

 :今の戦闘は避けれた

 :そもそも弱すぎ

 :ルート取りが甘すぎる

 :これじゃあ二時間切りすら無理だお^^


 とは視聴者──もとい、クソエアプ指示厨どものありがたい(・・・・・)助言(アドバイス)であり。


 ここから俺の絶望RTA走が本当の意味で始まりを告げた。

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