第9話
:お
:配信キターーーーーーーーー
:通知来て即飛んできた
:底辺探索者くん見てるー???
次から次へと流れる無数のコメント。その速度は大手人気配信者のモノと比べれば牛歩の如き遅さだろうが、万年同接1のコメント0な俺からしてみれば尋常ではない勢いであった。
「な、なにがどうなっている……?」
迷宮へと入場し、既に迷宮配信は始まっている。それは俺の頭上を飛び回り、腹立つ笑顔で多方面から俺の顔をすっぱ抜いている羽虫を見れば一目瞭然だ。本来ならば反射的にお決まりの挨拶をするところなのだが、あんな下らないことをしてる場合じゃない。
──いや、マジでどうなってんの?
次から次へと疑問が浮上してはまた新しく生え出た疑問に塗り替えられる。一日ぶりの配信でなんでいきなりこんなに同接とコメントが爆増しているのか? もしかしなくてもこれは迷宮配信のバグか……いや、視聴者や登録者を買うサクラ行為が不可能なほどセキュリティと規律がしっかりと整えられている天下の迷宮配信に限ってそれは有り得ない。
「それじゃあ何か? 俺が配信をしてなかった間に何かが起きて──」
ぐるぐると脳内が巡り、端的に言えば思考が纏まらない。訳知り顔な頭上の羽虫にこの状況の説明を求めようと思ったが、
:主が困惑してて草
:過去の配信とキャラ全然違うやんww
:おい!いつもの挨拶やれよ!!
:そりゃ昨日まで過疎配信してて、急に人とコメントがこんなに来たら焦るだろ
:もしかしなくても主、自分の状況分かってなくね?
それよりも依然として素早く流れているコメント欄にその答えは書かれていた。
────
底辺視聴者 ¥10,000
:事情を知らなさそうな主さんの為に簡単に説明させてもらいますね。あなた、いま、めっちゃ、バズってる。
────
:ナイスパ!!
:簡潔で分かりやすい
:これは有能
「……は?バズってるって、なんで?別に俺そんな注目を集めるようなことは──」
いや、していた、思いつくとしたらあれしかない。
「もしかしなくても皆さん前回のあの配信見ました?」
:正解
:そうだよ
────
底辺視聴者 ¥5.000
:某掲示板で主の前回の配信が話題になって、そこから色んなSNSとかまとめサイトで話題になった感じですね。そして話題になった配信アーカイブが迷宮配信の運営の方で削除されてたからさらに話題を集めてます。もしかして本当に知らなかった感じですか?
────
果たして俺の予想は正解で、とんでもないことになっていたらしい。ええ、本当に知らなかったですよ。
配信アーカイブなんて基本誰も見ないと思っていたからその存在自体を無いものとして扱っていたまである。
「前の探索でスマホがぶっ壊れたからそこら辺の情報は全く入ってこなかったんだよな……え?てかちょっと待って?今、配信アーカイブが消えてるって言った?」
次から次へと飛び込んでくる情報にやはり脳の情報処理はパンク寸前だ。マジでスマホなんて無駄な出費だと思っていたが、情報は武器であり時には金より価値のあるものだと身を挺して実感させられた。
「これは流石に死活問題、新しいスマホ買うか……」
まさか自分の口からこんなことを言うことになろうとは思わなんだ。てか、色々驚きすぎて反応できなかったけど今の一瞬のやり取りで1万5千円も投げ銭されたとかマジぃ? たかが色が変わって強調表示されるだけのコメントに金払うとかマジで金持ちの思考は分からん。けどまぁ、
「す、スーパーチャットありがとございまぁす!」
それはそれとしてありがたく貰えるのであれば金は貰っておこう。お、今の俺ってすごく配信者っぽい(小並感)。
「初めてのスパチャでしかもこんな大金で正直かなり動揺してます……てか普通に怖いです。許してください」
それでもやっぱり顔も知らない人から無償で金を貰うのってかなり抵抗感がある。急に罪悪感が湧いてきた……。
:笑顔引き攣ってるやんwwww
:底辺探索者が高額スパチャで殴られてるのはやっぱおもろいなぁ(愉悦)
:おい!もっと投げ銭して主をぶっ壊そうぜ!!
────
田中の中田 ¥1,000
:ほらよぉ!咽び泣いて感謝しやがれ!!
────
「うん、物騒なこと言ってるけどやめてね。嬉しいけどやめてね。無理して投げ銭しないでね……」
自然とコメントにツッコんでしまう。これが人気配信者のいつも見て言る景色なのか……。図らずもコメント欄で初めて視聴者との交流を楽しんでいると、そこに水を差すように頭上の羽虫が口を開いた。
「さあさあ!最初の掴みもいい感じに取れて、配信も盛り上がり始めたところで本日一つ目のイベントを起こしましょう!!」
「は?イベント?てか俺はまだお前の存在を認めていないんだが?ちゃんと詳しい説明を──」
「おーっと普様、一応不適切な発言が出た時の為に配信の発言フィルターは常に掛けていますが、それでも配信中は発言に気を付けてくださいませ。もし少しでも不適切な発言が視聴者の皆々様に聞かれた場合は即死ですからね?」
わざとらしく咳ばらいをして注意してくる羽虫。クソ、こいつこの前の詐欺まがいの契約と今配信がついているのをいいことに自分の都合のいいように立ち回ろうとしてないか?
;ファ!?
:なんだこの妖精みたいなの!?
:モンスター?
:え?もしかして配信妖精?
:配信妖精にこんな種類いたのか?
:他の配信ではただの光る玉みたいなやつなのにどゆこと?
:てか、イベントってなによ
:kwsk
コメント欄は急に喋りだしたベノに大興奮だし、こいつの言った「イベント」とやらに興味津々と言った様子だ。まだ出会って数分も経ってない、しかも人でもない配信妖精を脳死で信じろと言う方が無理な話なのだが……今は黙ってこいつの言うことを聞くしかない。
「ご安心ください。本プログラムは普様にはなんら不都合の無い、無償の厚意からくるものでございます。それにこの配信妖精ベノ!仕事はしっかりと果たさせていただきます──」
そんな俺の訝し気な視線に件の羽虫は得気に営業スマイルを張り付けて返答とする。
「お初にお目に掛かります視聴者の皆様!私は普様の配信妖精ベノでございます!今後、普様の配信にちょこちょこと現れると思いますのでお見知りおきを……。それでは前回の配信を運よく視聴された方々はご存じかと思いますが、ここにおられる普様は迷宮配信から発行された依頼を見事にクリアしました!これは今までの迷宮配信には無い、正に最新のエンターテイメントであり、このどん底底辺探索者を強くするための試練なのです!そうして試練をクリアした挑戦者には報酬が与えられます。報酬はその試練の内容によって変わりますが、今回の依頼をクリアした普様に与えられる報酬は────」
:なんだなんだ?
:あのクエストって迷宮配信から発行されたってマジ?
:そんなの初耳だぞ
:確かにあれは他の配信では見られない
:今回の報酬はなんや?
わざとらしく言葉を区切り、もったいぶる羽虫の言葉に視聴者の興味は増すばかり。その反応に気分を良くした羽虫はそうして声高々に言い放った。
「普様の強制成長です!!」
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〈お知らせ!〉
依頼が受け取り可能な領域内に入りました。
依頼の報酬が届いています。
報酬を受け取りますか?
・報酬(1)
強制成長
・報酬(2)
迷宮配信〈運営〉からの特別支援(受取済み)
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