4 ◇断罪
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翌朝遅くに起きてきた夫に、ブランチのあと、話したいことがあるので時間を
とってほしいとお願いした。
「へぇ~、珍しいね。なんだろう?
もしかして、何か高額な買い物のおねだりだったりして。
い~よ、毎日美味しくて健康に良い食事を作ってくれる
奥様のお願いは何でもOKしちゃうぞぉ~」
「食事が終わったらすぐに飲めるようにコーヒーを淹れておくわね」
「食後のコーヒー、いいね」
夫は気がついているだろうか?
今日に限り、いつもの休日の日よりは丁寧にヘアースタイルも整え、外出用の
メイクを施し、フェミニンに装っている妻のことを。
馴染の家族に対する装いではなく、家族になる前のひとりの男性として
夫に対峙しようとしている女のことを。
「で、おねだりのモノって何?」
「おねだりならよかったけれど……そうじゃなくて、あなたへの断罪?」
「怖いこと言うよね。その言葉の意味知ってて言ってんの?
ひまりちゃん、頼みますよ~」
夫はおどけて言った。
いつまで余裕でいられるのかしら……。
「10日ほど前に、たぶん女性だと思うけどDMもらった」
「へぇ~」
「あなたの知ってる人だと思う」
夫の眉がわずかに動いた。
「誰?」
「名乗らなかったから、氏名は分からない」
「何だ、誰か分からないのか。気味が悪いね。
で、なんて言ってきてるの?」
「あなたが、不倫してるって。証拠の画像付きでね。
不倫なんてしてないって、言い逃れできない証拠付き」
私の放った『言い逃れできない証拠付き』というのを聞いて
夫の顔が蒼白になる。
人間のこういう時の顔なんて、一生のうちでそうそう拝めるものじゃないけど
見たくはなかった。
「私は彼女の名前が分からないけど、あなたなら分かるでしょ?
彼女の名前。どうして彼女と不倫するようになったのか経緯を話してほしい」