15 ◇渡辺の妻、恵子
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◇渡辺の妻、恵子
恵子と玄帥とは同じ大学ではあったが、学部が違っていたことから
互いの存在を知ったのは、大学近くの薬局で恵子がアルバイトをはじめて
からのことになる。
恵子が薬局でのアルバイトをする時間は授業を終えた後の2~3時間ほどであった。
大学の近くにアパートを借りて住んでいた玄帥はよく、ミニバイクで店に
乗り着けてなんやかやと、買い物に現れた。
その頃の恵子は見た目こそ少々派手ではあったが、装いや性格は
大人しめの学生だった。見た目に反して、所謂地味子だったのである。
そして、イケメンがあまり好きではなかった。
それにはちゃんとした理由があった。
恵子の兄はモテることをいいことに高校生の頃からガールフレンドを
とっかえひっかえし、挙句、家では自分と付き合っている彼女たちのことを
悪しざまに言ったりとそのような暴言を聞くたびにうんざりさせられたものだ。
そんなクズ人間が多少自惚れが強くて偉そうにしていても、男の顔立ちが
整っていて好みなら笑って許せる女子がいることも知ってしまった。
そんなふうにして、知らずにいられるなら知らずにいたかったようなことまで
知る羽目になり、内面がクズの顔だけのいいイケメンという人種が大嫌いに
なってしまったのである。
父親も外に妻以外の女がいるような家庭環境で育った恵子の中では、モテ男という
輩は自分の付き合う予定の男子の中からはDELETEされていた。
黒目がちで、くっきりとした二重瞼と形の良い鼻と唇を乗せた顔の玄帥は
誰の目にもイケメンに映るだろうと思われる顔の造形を成していた。
が、恵子は玄帥に対して店では適当に売り子として対応し、また同級生としても
抵当にあしらい、恵子がほかの女子と同じように玄帥に靡くことは決してなかった。