森の奥に潜むもの
人々の暮らす街から遠く離れた**「森」**。
そこでは、数年前から 「怪物」 の目撃情報が相次いでいた。
夜に光る目、巨大な足跡、森の奥から響く異音。
しかし、奇妙なことに、その怪物が人を襲ったという報告は一件もない。
ただそこに 「いる」 だけ——。
それが 不気味であり、同時に恐ろしい。
政府は調査隊を編成し、何度か捜索を行ってきた。
だが、その正体は未だ掴めず、森の奥には何があるのかさえ分かっていない。
そして今回、新たな調査隊が森へと足を踏み入れる。
——そこで彼らが目にするのは、「人智を超えた存在」 だった。
これは、未知との遭遇を果たした 調査隊の記録 であり、
人類の境界を揺るがす 「始まりの物語」 である。
森に現れる「怪物」の噂は街全体に広まりつつあった。
タカシたちは再び調査隊に召集され調査隊本部に到着すると、太田隊長が待っていた。
これまでの報告によれば、森の奥深くで異常に大きな足跡や、夜間に青白く光る目を持つ生物の目撃情報が急増していた。しかし、奇妙なことに、それらの生物が人を襲ったという報告は一件もない。
調査隊本部では、対策会議が開かれていた。
「もし本当に怪物と遭遇したら、どう戦えばいいんでしょうか?」
タカシは太田隊長に不安げに尋ねる。
太田隊長は穏やかな表情で 「戦うことを考える前に、まず避けることを考えろ。相手を知ることが最も重要だ。今のところ、直接襲われたという報告はない。これは重要な事実だ」と、答えた。
目撃情報は多いが、攻撃の形跡はない。タカシはその意味を考え込んだ。
「どういう事なんでしょうか・・・・」
「まずは目撃場所へ向かって直接確認する事が重要だ」 太田隊長が答えた。
***新メンバーの加入***
タカシ、昭彦、徹は以前の海洋調査に参加していたが、他のメンバーはすでに別の任務に就いていた。そのため、森の調査には新メンバーが参加することが決まっていた。
新たに紹介されたのは如月明日香と後藤哲也の二人だった。
明日香は大学で生物学を専攻しており、剣道部に所属している。
哲也は山岳部に所属し、動植物に関する知識が豊富だった。
「はじめまして、私は如月明日香。生物学の研究をしているわ。動物の行動観察には自信があります。よろしく」 ポニーテールを揺らしながら、明日香は自己紹介をした。
「俺は後藤哲也。山岳地帯の動植物について専門的に見ている。できる限り役に立ちたい」
坊ちゃん刈りの逞しい体をした哲也が、力強く挨拶する。
***足跡の痕跡***
タカシたち調査隊6名は、怪物が目撃された地点に到着すると慎重に周辺を調べ始めた。森の中は昼間でも薄暗く、木々の間からわずかに差し込む陽光が、霧のような靄を幻想的に照らしていた。
「見ろ、これを……」
哲也がしゃがみ込み、地面を指さす。そこには、通常の野生動物とは明らかに異なる巨大な足跡が残されていた。
明日香がルーペを取り出し、跡を観察する。 「完全な野生動物のものじゃなさそうね。足の裏に規則的な跡がある……何か装具をつけている可能性があるわ」
「装具?」タカシが聞き返した。
哲也も同意するように頷く。 「もし本当に野生動物なら、餌を求めて森を荒らした痕跡があるはずだ。だが周囲の植物には、その痕跡が無い。つまり、これは単なる動物の行動じゃない……誰かが管理している可能性がある」
調査隊が、さらに森の奥に進もうとしたその時、突然、森の奥から何かの視線を感じた。
「……誰かに見られている?」タカシが手を上げ、全員を止め、慎重にライフルを構える。
隊長が「今は動くな……慎重に様子を見よう」と囁いた。
その時、ガサガサ……物音が響いた。
タカシは息をむ。 ライフルを手に、音の方向を見つめた。
茂みから姿を現したのは、一匹のキツネに似た動物だった。
だが、普通の動物ではない。その瞳は青白く光り、まるで意思を持つように、こちらを見ていた。
「脅かすなよ……」タカシは安堵の息をついた。
明日香が微笑む。
「やっぱり、簡単には正体を明かさないみたいね……」
さらに調査隊は奥へと進み伐採場に到着した。
そこには山小屋が建てられており太田隊長が「今日はここで野営を行う」と、指示を下した。
野営の準備は慎重に行われた。
山小屋の周囲には動物の侵入を防ぐ為、電気柵を設置し、
「ポータブル電源、オンにします」昭彦がポータル電源のスイッチを入れた。
小屋の中では暖炉に火をつけ、夕食の準備を行われていた。
***山小屋での休息と異変***
食事をとりながら太田隊長が、今日の調査と今後の調査について話す。
「今のところ、正体は、はっきりしないが大型動物の可能性が高い」一口スープを飲み「今夜は交代で見張りを行う。タカシ、明彦は外で俺と一緒に見張りを行う。徹、明日香、哲也は小屋の中で休め」と、指示を下した。
調査隊は山小屋を拠点にし明日、さらに奥地へと進む計画だった。
焚火の炎が揺れ、薪が爆ぜる鳴り響く静寂の森。
タカシはライフルを手に、森の奥を見つめていた。今夜は特に不気味な静けさが漂っていた。
焚火の炎が揺れ、薪が爆ぜる音が静寂の森に響く。
タカシはライフルを握りしめながら、森の奥を見つめていた。
「そろそろ交代の時間か……」昭彦が呟く。
しかし、その言葉が終わる前に――
「ドン……ドン……ドン……!」
地鳴りのような振動が大地を揺らした。
「今の……何だ?」
昭彦の眠気は一瞬で吹き飛んだ。
太田隊長が焚火を見つめたまま、低く指示を出す。
「タカシ、小屋の中の三人を起こせ。全員、警戒しろ。」
タカシはすぐに小屋へ駆け込み、
「起きろ!何かが近づいている!」
寝袋にくるまっていた徹と哲也が目をこすりながら起きる。
明日香もすぐに状況を把握し、懐中電灯を手に取った。
「どっちの方向?」
「わからない……でも、確実にこっちへ来てる。」
全員がライフルを構えながら外へ出た。
「ドォン……ドォン……!」
重々しい足音が、森の奥から近づいてくる。
*** 照明弾の光***
「照明弾を撃て!」
太田隊長の鋭い指示に、昭彦が即座にトリガーを引いた。
シュウウウウ……バンッ!
照明弾が夜空へと舞い上がる。
その瞬間、巨大な影が浮かび上がった。
「な……なんだ、あれは!?」
タカシの背中を冷たい汗が流れる。
それは、獣だった。
高さは5メートルほど。
クマのように分厚い体躯を持ちながら、ゴリラのように発達した前肢で大地を踏みしめている。
その背には――
***異民族との接触***
人間が乗っていた。
タカシはライフルを構えたまま、凍りついた。琥珀色の瞳が、鋭く射抜く。
「グゥゥゥゥ……」その唸り声は、空気を震わせ、耳の奥まで響いた。
突如――獣が前脚を幹に叩きつける。
バゴォン!!
音とともに、幹が粉砕される。裂けた木片が四方へと飛び散り、調査隊の足元へと降り注ぐ。
「こ、こいつ……!」その瞬間、獣の体が宙に浮いた。
巨大な影が、月を背に跳ぶ。
「あのサイズで……こんな跳躍が……!」 明日香が息を呑んだ。
樹上に着地すると、枝が軋み、森全体がざわめく。
そして――
琥珀色の瞳が、調査隊を見下ろしていた。
「なんてジャンプ力だ……!」
太田隊長が驚きの声を上げる。
獣の背に乗る騎乗者が片手を上げる。『止まれ』とでも言いたげに。
「……敵意はない、ってこと?」
タカシはライフルを構えたまま、相手の動きをじっと観察する。
騎乗者は、ゆっくりと手綱を引いた。
それとともに、獣は電気柵を飛び越え、調査隊の目の前に着地する。
そして、静かにその場にしゃがみ込んだ。
騎乗者が手を上げたまま、タカシたちの前に歩み寄る。
太田隊長がライフルを下ろし、両手を上げる。
「我々は敵じゃない。」
騎乗者は、沈黙のまま調査隊を見つめていた。
だが、その「見つめ方」が奇妙だった。
まるで、生物ではなく「対象物」として計測するかのような視線。
口元が、わずかに開く。
「……オ、マエ……ナゼ……モリ……ク、ル……?」
発音が不自然だった。単語の間に、微妙な「間」がある。
まるで、「この言葉は借り物だ」とでも言うように。
(こいつ……本当は、別の言語を話すのか……?)
哲也の脳裏を、一つの疑念がよぎった。
低く響く、不安定な言葉が、夜の闇に溶け込んだ。
「……言葉を話せるのか?」 タカシはライフルを構えたまま、相手の口の動きを観察した。
「この発音……人間の声帯を持ってるわ。でも、構造が違う……?」
明日香は囁くように分析する。彼女の目は、騎乗者の喉元へと向けられていた。
「この装備、ただの野生生活者じゃない。狩猟民でもないな……」
哲也が静かに言った。彼の視線は、騎乗者の腕に巻かれた革のベルトへと向けられている。
「都市生活者でも、未開部族でもない……『戦士』って感じがする。」
タカシは、言葉を失ったまま、琥珀色の瞳をじっと見つめていた。
調査隊と、森の住人との間に、静寂が流れる。
その時――
騎乗者が、わずかに手を動かした。
それを合図に、巨獣が低く唸る。
太田隊長が、無意識にライフルを握る力を強める。
(違う……こいつは「敵か味方か」を問いかけてるんじゃない……)
タカシの直感が、警鐘を鳴らしていた。
これは、交渉ではない。
「試されている……!」
騎乗者は、何も言わない。
ただ、静かに調査隊を見つめる。
その目には 「敵意」も、「警戒」もない 。
それどころか――
まるで、何かを「測っている」かのように。
(試されている……?)
タカシの背筋が凍った。
彼らは、調査隊の「能力」を見極めているのではないか――?
「明日香はごくりと喉を鳴らし、一歩だけ後ずさった。
だが、哲也は違った。彼は騎乗者の装備をじっと見つめながら、小さく息を吐く。
『……やっぱり、ただの野蛮人じゃないな。』
その言葉は、タカシの背筋をさらに冷たくした。」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
本作では、「未知の存在と人間の対峙」 をテーマに、
「森の怪物」 と呼ばれる存在が、果たして 敵なのか、味方なのか をめぐる物語を描いてみました。
私たちは普段、未知のものに対して 恐れ や 警戒心 を抱きます。
しかし、それは本当に「敵意」なのでしょうか?
あるいは、ただ単に 「お互いを知らないだけ」 なのかもしれません。
調査隊の視点を通じて、
「未知との遭遇」が持つ 恐怖と興奮、緊張と希望 を感じてもらえたら嬉しいです!
この物語は、まだ 「始まり」 にすぎません。
彼らが出会った「森の住人」とは何者なのか?
彼らの目的は?
そして、調査隊は どんな選択をするのか?
物語の続きは、また別の機会に——。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
またお会いしましょう!