海の発見とその先へ
タカシたち調隊は海を発見し、塩や海洋資源の確保のめどが立った事を喜んでいた。
タカシ達の任務は、達成され、街へと帰還する日も近くなりつつあった。
タカシたち調査隊は2週間の旅路の果てに、ついに海を発見した。数々の困難を乗り越え、大小の川を渡り、険しい山々を越えた先に広がる青い水平線は、彼らの想像を遥かに超える広大さを誇っていた。陸地での生活を続けてきた人類にとって、海の発見は未知なる可能性を秘めた歴史的な瞬間であった。波が砕ける音と潮の香りに、調査隊のメンバーたちは言葉を失った。
調査隊の報告は議会にも詳しく伝えられた。海の発見は街全体に大きな衝撃を与え、議会は即座に対応を開始した。海洋調査の専門部隊の編成が決定され、二つの重要な任務が掲げられた。一つは塩の確保、もう一つは海洋資源の調査である。塩は生活に欠かせない資源であり、食料の保存から工業用途まで、その活用範囲は広大だった。また、魚介類や海藻の採取による新たな食糧源の確保も重要視されていた。
海の発見から2週間後、タカシたち調査隊は任務を果たし拠点で帰還の準備を始めていた。
海岸線に沿って新たな前線基地の建設が始まっていた。最初の段階として、物資輸送のための施設が整備された。効率的な資材運搬を実現するため、革新的な方法が採用された。筏そのものを建材として活用し、現地で解体・再利用する方式だ。これを見たタカシは「筏ごと資材にするとは、よく考えたな」と感心した様子で呟いた。
昭彦も様子を見ながら「今の所、この方法が資源を無駄にしない最善策だろうね」と、同意する。
やがて無線通信を終えた太田隊長が、調査隊のメンバーたちに向かって告げる。
「我々の役目は、これでひとまず終わりだ。数日後には帰還命令が出る。調査の次なる段階は新たな専門部隊に託されることになった」その言葉を聞いたタカシたちは、今回の任務の完遂を実感すると同時に、帰還できる事に嬉しさがこみあげていた。
数日後、調査隊は補給船に乗り込み、街への帰途についた。河川の各拠点で給油と補給を経て、五日後には街近郊の船着き場に到着した。そこには、懐かしい景色が広がっていた。徹が周囲を見渡しながら「何か違って見えるよな……錯覚かもしれないけど」と呟いた。確かに街の風景は微妙に変化していた。
東側一帯は農地開発がさらに進められ、新たな道が作られ新しい倉庫が建築中だった。西側の森林地帯では開発が本格化し、火力発電所の建設も始まっていた。建築現場では大型クレーンが重い資材を吊り上げていた。かつて調査隊が海へ向かった道も、今はトラックが行き交っていた。
海の発見は、街の開発計画を大きく変えていった。道路網の整備は最優先事項となり、昼夜を問わず工事が進められていた。森林資源の開発も本格化し、石炭、鉄鉱石、銅の採掘が始まっていた。計画的な木材の伐採、有用植物の採取、効率的な狩猟も行われ、街の産業基盤は着実に強化されつつあった。
調査隊は市役所にある調査隊本部に戻り、報告を行った。
報告が終わり太田隊長からタカシ、昭彦、徹に対し「2週間、休暇が与えられた。ゆっくり羽を伸ばそせ」と、伝えられた。
***街の様子***
3人は、久しぶりに戻った街で休暇を楽しんでいた。
「街の中心地に居ると、ここが異世界だなんて信じられないよな」と、タカシが周りを眺めながら話す。昭彦は「でも、移転前と比べ走る車も減り、街中を歩く人も減っている」徹が「今は、街で働く人より街の外で働く人数が増えているからね」と説明する。
さらに進んで行くとタカシたちは、市場地区ノエリアに入っていた。街の移転後、パニックになっていた街も平静を取り戻しつつあるようだった。活気があり、農作物や果物、川魚、保存食などが豊富に並んでいる。
「ずいぶん食料事情が安定してきたな」昭彦が呟く。
徹も頷きながら、「この分なら、冬を越えるのもなんとかなりそうだね」と続ける。
タカシは、ふと路地の先で一人の子供が腹を押さえてしゃがみ込んでいるのを見つけた。痩せ細った体つきで空腹に耐えているのが明らかだった。
タカシたちはすぐに駆け寄り、「大丈夫か?」と声をかけた。
子供は少し驚いた表情を見せたが、「大丈夫……」と弱々しく答えた。しかし、腹の音が正直に状況を物語っていた。
昭彦が調査隊から支給されていた携帯食を取り出し子供に渡した。子供は一瞬ためらったが、すぐに感謝の表情を浮かべ、むさぼるように食べ始めた。
「家族は?」
徹が尋ねると、子供はビスケットをかじりながら答えた。「父さんと兄ちゃんは、森で働いてる。母さんは病気で……だから、あまり食べられない日もあるんだ」
タカシたちは互いに目を見合わせた。食料供給が安定しつつあるとはいえ、まだすべての家庭に行き渡っているわけではない。
「でも、もうすぐ状況はもっと良くなるよ」とタカシは微笑んだ。「海の魚も手に入るし、街の人々も、もっと豊かになるために頑張ってる」と、他に持ち合わせていた携帯食料を全て渡した。
子供は安堵したように笑い、「ありがとう!」と元気よく答えた。
その笑顔を見ながら、タカシたちは静かに決意を固めた。
(この文明を前へ進めるために、できることは、まだある筈だ。)
***新たなる使命***
休暇が終わり、タカシたちは調査本部に出かけると、新たな計画や新しい資源の報告がされていた。既存の鉄道路線を森林資源の輸送に活用する計画、海洋探索中に発見された河川敷周辺では良質な砂利や石材の採取が可能であり、海を発見した山からは豊富な石灰石が確認されていた。これにより、コンクリートの生産が実現可能となり、街の建築資材の確保と維持が期待された。
タカシは「今の資源確保が進めば、この文明はどこまで維持できるんでしょうか……?」その問いかけに、太田隊長が、悔しげな表情を浮かべながら答える。「結局、文明レベルの後退は避けて通れないだろう。このままでは近い将来、明治時代の暮らしに近づくかも知れんな、、、それを遅らせることはできるはずだ」
タカシは深く頷きながら、未来への展望を語った。「新たな資源の確保、技術の継承、未知の土地の開拓……文明レベルの崩壊を迎える前に、僕たちにできることを進めれば、きっと道は開けるはずです」その言葉には、揺るぎない決意が込められていた。
ご購読、ありがとうございました。ひとまず、一区切りとして考えている所もあります。
他の作品の続きも気になっているので、どうするか思案中です。