未知なる河を越えて
タカシたち、調査隊は海の捜索へと本格的な活動が始まった。果たして、本当に海が見つかり、塩を発見できるのか?まだ、未知数だった。
調査隊は、河川の下流域を進み海を目指していた。彼らの使命は、この未踏の地における河川の流路を完全に把握し、その先にある海までのルートを確立することだった。
そして何より、塩の確保が最優先事項だった。
人類の新たな居住地として選ばれたこの地で、
塩は生活必需品であり、産業の基盤となる重要な資源だったからだ。
1つ目の拠点の設営が行われた翌朝、調査隊は新たなるポイントを目指し出発する準備に取り掛かっていた。早朝の河川沿いは、まだ薄い霧に包まれており、遠くの木々はぼんやりとした輪郭を見せるだけだった。
工学部出身のタカシは、得意の機械操作でドローンのコントローラーを素早く立ち上げた。画面に映し出される映像を確認すると、どこまでも続く蛇行した河川と、その周りを取り囲む生い茂った草木の光景が広がっていた。時折、未知の鳥が画面を横切り、この地の豊かな生態系を垣間見せる。
「やはり海はまだまだ先のようです」とタカシは太田隊長に報告する。
その声には、わずかな不安が混じっていた。
冒険家として豊富な経験を持つ太田隊長は、作成した地図を広げ、額に深いしわを寄せながら現在地を確認した。予想以上に海の距離は遠くの様だった。その焦りを押し殺すように、深いため息をついた。
「ここからの道のりは予想以上に厳しそうだ」太田隊長は地図から目を離し、集まった隊員たちの顔を見渡した。「だが、われわれの使命は重要だ。この河川の流路を完全に把握し、その先にある海までのルートを確立することは住人の新たな一歩となる」
昭彦、徹、田村、金井、戸田が強く頷いた。調査隊総勢6名は、決意を新たに出発の準備を整える。
拠点の設営隊が手を振り「頑張ってください隊長、次の拠点設営も任せてください」と、見送る中、調査隊は未知なる道程への第一歩を踏み出した。
朝日が昇り始め、河川の水面を赤く染めていく。周囲の草木は朝風に揺られ、かすかな音を立てていた。時折聞こえる鳥の鳴き声が、この地の目覚めを告げているようだった。
***捜索活動の経緯***
調査隊の捜索活動行程は単調だが過酷なものだった。
朝日とともに目覚め、装備を確認し、新たな拠点を目指して出発する。途中で遭遇する様々な障害物を乗り越えながら、予定地点まで到達する。そこで無線で後方支援チームと連絡を取り、船で運ばれてくる物資を受け取り、新たな拠点を設営する。
しかし、自然は決して彼らに優しくなかった。
***出発から3日目の豪雨***
予期せぬ豪雨が調査隊を襲った。「こんな雨は想定外だ」と呟く昭彦の声が、激しい雨音にかき消される。テントの中で雨音を聞きながら、タカシは不安な一夜を過ごした。大切な機器類の心配と、明日への不安が胸を締め付けた。翌朝には装備の多くが泥まみれになっており、乾かすのに丸一日を費やすことになった。
「この地域の気候データが不十分だったんだ」と金井はノートに水滴を払いながら記録を取っていた。
***出発から5日目の湿地地帯***
広大な湿地帯に遭遇した。「この地形は、地図では予測できなかったな」と田村が眉をひそめる。足を踏み出すたびに泥に足を取られ、わずか1キロメートルの移動に半日もの時間を要した。
「くっ!」突然、徹が悲鳴を上げた。不安定な地面で足を捻挫してしまったのだ。すぐさま戸田が駆け寄り、応急処置を始める。「大丈夫、骨には異常がないようです。でも、今日は休ませた方がいい」
その夜、キャンプファイアーを囲みながら、戸田は徹の足首を再度確認していた。「明日からは大丈夫そうだ」その言葉に、全員がほっと胸をなでおろした。
***出発から9日目の岩壁地帯***
最も危険だったのは9日目のできごとだった。巨大な岩壁の崩落現場に遭遇し、迂回路を探すことを余儀なくされた。地質の専門家である田村と金井が、安全なルートを見つけ出すのに奔走した。
「この岩盤は風化が進んでいます。慎重に進まないと二次崩落の危険があります」と金井が警告する。チーム全員が息を潜めるように、一歩一歩、慎重に岩場を通り抜けて行った。途中、小石が落ちてくる度に、全員の心臓が高鳴った。
***11日目の河川***
11日目、予定ルート上で大きな支流と遭遇した。
幅は約30メートル。水量も多く、普通に渡ることは不可能だった。
「全員、救命具を装着し、ロープでつないで渡ろう」太田隊長の指示が飛び、準備していた浮き輪と命綱を使って慎重に川を渡っていった。冷たい水の感触に背筋が震えたが、全員が無事に渡りきることができた。
「やれやれ、これで一安心だ」と昭彦が言った時、タカシは川の流れを見つめていた。「この支流の存在は、この地域の水系がかなり複雑だということを示していますね」
***13日目の山越え***
最も体力を消耗したのは、13日目からの山越えだった。数日間、船の補給が途絶え、補給なしでの行軍は全員の体力と精神力を極限まで試すことになった。食料は限られており、一日の配給量を減らさざるを得なかった。
「もう限界です...」昭彦が弱音を吐いた時、太田隊長は全員を集めて話をした。夕暮れ時の空を背景に、その姿は一層凛々しく見えた。
「確かに厳しい状況だ。しかし、われわれの調査結果は、将来この地域の開発や環境保護に重要な意味を持つことになる。ここで得られるデータは、これから多くの人々がこの地で生活していくための基礎となる。一人一人の頑張りが、未来を作るんだ」
その言葉に、チーム全員が勇気づけられた。
夜空に輝く見知らぬ星座の下、彼らは再び歩みを進めることを決意した。
山の頂上付近から下りに入った時、太田隊長は双眼鏡を取り出し河川の先を確認した。
その瞬間、彼の表情が変わった。
「ついに、発見したぞ。海だ。海が見える。浜辺が見える」
その声に、全員が足を止めた。双眼鏡を回し合いながら、遠くに輝く水平線を確認する。疲れ切った顔に、少しずつ笑みが浮かんでいった。
*** 河川沿いでの合流 ***
山を越えたタカシたち調査隊は、長い下り道を慎重に進みながら河川沿いへと降りていった。
険しい岩場と茂る草木の中、全員の足取りは疲労と達成感が入り混じっていた。時折吹く風が、かすかに塩の香りを運んでくるように感じられた。
「隊長、ここまで降りれば、設営隊と合流できますね」
昭彦が嬉しそうに言った。その声には、長かった旅路が終わりに近づいているという安堵感が滲んでいた。
「そうだな、まずは設営隊と合流し、海の発見を伝えよう」無線で連絡し太田隊長も満足げに頷いた。
額の傷跡が夕陽に照らされ、これまでの苦労を物語っているようだった。
調査隊が河川沿いに到達すると、設営隊の面々がすでに待機していた。彼らは数日前から、この合流地点付近で調査隊の到着を待ち続けていたのだ。
「お帰りなさい! 無事で何よりです!」
設営隊のリーダー、坂井が安堵の表情を浮かべる。その目には、わずかに涙が光っていた。
「みんな、大変な道のりだったと思う。ご苦労だったな」
設営隊のメンバーが次々に労いの言葉をかけ、調査隊の面々は疲れた身体を休めた。誰もが、この瞬間をどれほど待ち望んでいたことか。
「それで……どうでしたか?」
設営隊の一人が興奮気味に尋ねると、タカシは笑顔で頷いた。その表情には、これまでの苦労が報われた満足感が溢れていた。
「ついに見つけたよ。海を発見しました!」
その瞬間、歓声が沸き起こった。これまでの緊張が一気に解け、喜びが溢れ出す。
「本当ですか!?」
「やった! ついに……!」
全員が感動に包まれる中、太田隊長が冷静に続けた。
「詳細はまだ確認中だが、確かに海岸線を視認した。我々は、2日間の休息を取った後、徒歩で海へ向かうルートの詳細な調査を進めて行く。設営隊は船を使って先遣隊を先に海岸へ送り込む準備を進めてくれ」
「了解しました!」全員が力強く応答した。
この発見が、新天地での生活に大きな希望をもたらすことを、誰もが感じていた。
こうして、調査隊は2日の休息を取った後、徒歩で海岸へ向かい、設営隊は海の調査を行うための人員の移動準備を始めることになった。休息中、タカシは 収集したデータの整理を行い、昭彦と徹は発見した生物の記録をまとめ、金井と田村は、装備品のチェックと手入れ、携帯食などの確認を行う。戸田は治療用具の確認を念入りに行っていた。太田隊長は、これまでのルートの記録をまとめていた。
数日後、新たなる拠点の設営が完了し、いよいよ海への最終接近が始まった。
*** 海へ向かう道 ***
翌朝、出発したタカシたちは河川沿いを進みながら、徐々に海へと近づいていった。
潮の香りが強くなり、肌にまとわりつくようだった。
「川の水も、だいぶ塩気を帯びてきたね」昭彦が水の一滴を舌に乗せながら言った。観察眼が水質の変化を確実に捉えていた。
「汽水域に入っている証拠だな。もうすぐだ」太田隊長が周囲の地形を確認しながら進んでいく。長年の経験が、目的地の近さを告げていた。
6時間後、運命の瞬間が訪れた。
目の前の木々が開けた瞬間、眩いばかりの光が視界を覆った。
潮風が頬を撫で、遠くには水平線が青く輝いていた。
調査隊は、その場に立ち尽くした。耳を澄ませば、波の音だけが静かに響いていた。
「ついに……来たんだ」タカシは膝から力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
隣で徹が肩を抱き、昭彦は空を見上げていた。
果てしなく続く海岸線。白く輝く砂浜。
寄せては返す波の音が、まるで調査隊の到着を祝福するかのように響いていた。
タカシは、目の前の景色を信じられないように見つめた。
これまでの苦労が走馬灯のように蘇る。やっと——たどり着いた。
「隊長……本当に、海です!」徹が思わず叫んだ。
その声には、これまでの苦難が報われた歓喜が溢れていた。
「皆、よくやった」
太田隊長の声に、全員の目に涙が光った。
ご購読、ありがとうございました。このまま、いろいろな冒険劇を考えましたが、街の発展をテーマにしている面もあるので、今回は、比較的簡単に任務を完了した話になりました。