異世界の朝
タカシは、街で起きた出来事について、まだ受け入れる事が出来ないでいた。会社の寮に戻り、自室で眠りに就く。そして、翌朝を迎えようとしていた。
夜が明け、工場近くにある社員寮の一室。
タカシは 重いまぶたをゆっくり開けた。
部屋の天井をぼんやりと見つめる。
——夢だったんじゃないか?
昨夜の出来事を振り返りながら、
「ここは本当に異世界なのか?」 という疑問が、頭の中を渦巻く。
ベッドから起き上がり深呼吸をした跡、窓際へ歩み寄り、カーテンを開ける。
5階の東側の窓から目の前に広がる光景に、タカシは息を呑んだ。
街が途中で途切れその先には、どこまでも広がる草原があり、
見たことのない巨大な樹木がそびえる森林地帯が遠くに見えた。
「……やっぱり、夢じゃなかったのか」
ため息をつきながら、タカシは異世界で迎えた 「最初の朝」 を実感した。
*** 社員寮・食堂(午前7時20分)***
タカシが食堂に入ると、すでに多くの工場従業員が集まり、
昨夜の出来事について小声で話し合っていた。
「やっぱり、ここはもう地球じゃないのか……?」
「二つの月……どう考えても異常だよな」
「戻れるのか? いや、そもそも、どうやって生きていくんだ……」
食堂には 不安と緊張が充満していた。
タカシがトレイを持ち朝食をテーブルに置くと、同僚の昭雄が隣に座った。
「なあ、タカシ……これは、本当なのか?」
昭雄の声には、まだ現実を受け入れられない 迷いと恐怖 が混じっていた。
タカシは、手にしたスプーンをゆっくりと置き、沈んだ表情で頷く。
「ああ……とりあえず、夢ではなさそうだ」
二人とも、それ以上言葉が出なかった。
「異世界に街ごと転移した」——そんな現実を、簡単に受け入れられるはずがなかった。
*** 街の境界へ***
工場は臨時休業の知らせがあり、
タカシは昭雄と、一つ下の後輩、徹 を誘い、
「実際に街の様子を確認しに出かけてみよう」 と提案した。
昭雄は「家に帰れるかもしれないしな」と期待を込めて話す。
徹も「先輩、僕も一緒について行きます」と返す。
少しでも希望を持とうと、三人は 自転車に乗り、郊外へ向かう ことにした。
しかし、しばらく進んだ先で、タカシたち3ん人は異様な光景を目にした。
「……なんだ、これ?」
街の途中で突然、舗装された道路が途切れ、その先が一面の草原になっていた。
道路の切れ目が別世界との境界線の様にも感じられた。
「マジかよ……」
昭雄が絶句し、
徹が 震える指で遠くを指差す。
「先輩、あれを見てください。」
彼らの視線の先にあったのは、
本来なら 高速道路の高架が見えるはずの場所——
しかし、そこにあったのは、
途中で途切れた高架の残骸だけだった。
まるで 巨大な何かに引き裂かれたかのような、不自然な断面。
「……やっぱり、本当に町が転移したんだ」徹の呟きに、タカシと昭雄は返す言葉がなかった。
*** 異変の規模***
タカシは スマートフォンの地図アプリ を開き
GPSを確認しようとしたが「圏外」 の表示が変わることはなかった。
「通信が完全に遮断されてる……」
だがダウンロードしていたアプリのオフライン地図 で、おおよその範囲を推測できた。
転移範囲(推定)は、おおよそ半径約6キロメートルの円形エリア。
市街地の一部・近郊の農村地域・工業団地が含まれている様だった。
高速道路や国道は途中で途切れており電波が完全に遮断されていた。
「……どうやって帰るんだろうな」昭雄の言葉に、タカシも徹も 何も答えられなかった。
***緊急放送***
街の周辺を見回った後、3人は会社の寮に戻る事にした。
帰りの途中で、パトカーのサイレンが鳴り響く。
「ん? なんだ?」
街のスピーカーから市役所による 緊急放送 が流れる。
「本日午後2時、市民体育館にて緊急集会を開催します」
「とりあえず、戻ろう」タカシは、昭雄・徹と共に 工場へと引き返した。
その途中、街中の住民たちが不安げな表情で集会場へ向かう姿 が目に入った。
***工場にて緊急対策会議への選出***
会社の寮に戻ると、工場で緊急の集会が開かれる事になっていた。タカシたちも向上に向かうと、すでに 多くの従業員が集まり、緊迫した空気が漂っていた。
やがて、工場長が姿を現し集まった社員たちに向かって語りかける。
「市の対策本部から、各部門の代表を選出するよう要請があった」
「この工場からは若手の代表としてタカシくん、昭雄くん、徹くん会議に参加してもらいたい」
「え……?」突然の指名に、タカシたちは戸惑った。
だが、すぐに 「自分たちにできることをしなければ」 という思いがこみ上げる。
「……分かりました」
タカシたちは 強く頷いた。
***夕暮れ時の屋上***
タカシはたち、工場の屋上から街を見渡していた。
異世界の空に、
見慣れない二つの月が静かに輝き始める。
「ここが俺たちの新しい現実なんだな……」
明日から、市の対策会議が始まる。
技術者として、町の一員として、この異世界にどう立ち向かうのか?
タカシは 夜空を見上げ、静かに決意を固めた。
ご購読、ありがとうございました。序章として話が続く予定ですが、安直過ぎるとリアリティに欠けるので、なるべくリアリティのある展開を考えています。