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僕は、もしかするとヒロインになるのかもしれない。  作者: 玄ノロク(くろのろく)


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第48話「第77回欅祭、開催!」

 か……まる……かく……る。

 

 ん? 誰かが僕を呼んでる気がする。

 

 かくまる……お……ろ!

 

 また、聞こえた気がする。

 

 うううわっ! 地震⁉︎

 僕は、体に感じる激しい揺れで、目を覚ました。

 すると、目の前には、僕の肩を全力で揺らす音谷(おとや)の姿があった。


「角丸! 良い加減起きろ!」

「んあ? あ、あれ? 音谷? なんで僕の部屋にいるの?」

「何言ってる。ここは保健室だ。昨日は、お互い渋江(しぶえ)先生のせいで、家に帰れなくて、ここに泊まっただろ。ほら、寝ぼけてないで、早く起きろ! ぼやぼやしてたら、欅祭(けやきさい)が始まってしまう」


 そうだった。僕と音谷は、学校の保健室で一夜を共にしたんだった。

 って、言い方! と自分にツッコミを入れたところで、昨日の出来事が夢ではなかったと、あらためて自覚する。

 音谷も覚えてるだろうし……なんか、ちょっと気まずい。

 そう思ってしまった僕は、音谷と目を合わせることができなかった。


「お、おはよう」

「おはよう。ほら、さっさと起きろ。行くぞ」


 音谷は、僕が被っていた掛け布団を引っぺがすと、先に保健室を出て行ってしまった。


「ちょ! 待って!」


 僕は、慌てて飛び起きると、音谷の後を追った。


「音谷、少しは待ってくれてもいいんじゃない?」

「何言ってる。こっちは散々待ったんだ。それと、呼び方に気をつけろ。まったく、あれほどいつも言ってるというのに、お前というやつは」

「ごめん。それは気をつけます。あ、ちょっと、待ってってば」


 音谷のやつ。いつもと何も変わらない感じだけど、ひょっとして、昨日のこと、覚えてないとか? 疲れてたし、眠かったし、既に寝ぼけてたって説もあるか?

 けど、そんな事、本人に聞くわけにはいかないしな。ここは、ひとまず様子見でいくしかないか。


「おい。どこへ行くつもりだ?」

「え? どこって、理科室だけど?」

「理科室? まずは、教室に集まって、朝のホームルームだろ?」

「あ、そうだった」


 自分では、平常心を保っていたつもりだったけど、結構動揺しているのかもしれない。

 そう思った僕は、深く息を吸い込み、ゆっくり吐き出すと、1歩先を歩く音谷の後を追った。


「もう、ほとんど集まってる」

「本当だ。早く席に着かないとだね」

「「わっ!」」


 急いで教室へ入った僕たちは、目に飛び込んで来た見慣れない光景に、思わず声を揃え驚いてしまった。


「す、凄い。これは、クオリティ高い」

「でしょー。私たちも頑張ったんだよ」

「ニッヒヒ」


 レトロ喫茶のような雰囲気が漂う、良い感じの部屋に様変わりした教室を見回していると、後ろから聞き覚えのある声と笑い声が聞こえた。

 この声は、きっと、美馬(みま)さんと、大鷲(おおわし)さんだな。

 ビンゴ! 振り向けば、そこには、クラス2大美少女の姿があった。


「おはよう! 諸君! 皆、この1週間、よく頑張ってくれた! 特に昨日は、遅くまで本当にお疲れさん! おかげで見ての通り、とても素晴らしいものが出来た! さぁ、泣いても笑っても今日が本番だ。張りきっていくぞ!」


 渋江先生の言葉で、全員が『おー!』っと声を上げ、一斉に欅祭本番へ向けて動き出した。

 当然、僕たちもね。


「ぼ、僕と音谷さんは、この後すぐ、理科室へ行って、試験管アイスと色の変わるゼリーを作る。出来上がったら、そのまま店番する」

「おっけー。私とあやちゃんも時間になったら、そっち行くね」


 グッと親指を立てる美馬さんに向かって、僕と音谷が頷くと、今度は、大鷲さんが、僕たちの肩に手を置き言う。


「よーし。そしたら、さっそくみんな、メイド服に着替えよっか! カッくん、うちが着替え手伝ってあげるから、こっち来て」

「うぇ!? も、もう着るの?」

「そうだよ。だって、うちらとカッくんと(おと)ちゃん、クラスと化学部掛け持ちじゃん。そのためにシフト、カツカツに組んじゃったんだから、後で着替える時間なんてないよ?」

「で、でも」

「ほらほら、早く着替えるよー」

「むふふ。それじゃ音谷さんは、私と着替えようか」


 音谷は、大鷲さんに、男子用の簡易更衣室へ連れて行かれ、僕は、美馬さんと一緒に、女子用の簡易更衣室へと移動。


「……えっと、美馬さん? なんで一緒に?」


 僕は今、なぜだかわからないが、美馬さんと更衣室の中に立っている。

 え? これって、どういうこと? まさか、美馬さん、一緒に着替えるつもりじゃないよね?

 そう思った矢先、美馬さんは、なんの躊躇なく制服を脱ぎはじめた。


「うぇ!? ちょ、ちょっと、美馬さん」

「ん? 音谷さん。どしたの? なんか、顔赤いけど、大丈夫?」

「え? あ、うん。だ、大丈夫」

「そう? ならいいんだけど。んっふふ。見て見て音谷さん。どう?」


 見れば美馬さんが、下着姿のまま、メイド服を体に当て、その格好を鏡に写し出していた。

 たしかに、美馬さんからすれば、僕は音谷に見えているわけで、そうなると女子同士なんだから、美馬さんが僕の目を気にすることなんかなくて当然……なんだけど、さすがにこれは、まずいと思うな。

 とはいえ、ここは、音谷として、なんとか乗り切らないといけない。


「にに、似合ってると、お、思う」

「あはっ! 音谷さん、ありがとう! これ、めっちゃ気合い入れて縫ったやつだからさ! 何気に自信作なんだよ! 音谷さんのも同じくらい頑張って作ったから、気に入ってくれると良いなぁ」


 美馬さんは、メイド服に着替え終えると、すぐに僕の着替えの手伝いに入る。


「音谷さん、脱いで」

「うぇ!? ぬ、脱ぐの? ここで?」

「ぷふっ。音谷さん、面白いね。脱がなきゃ着替えられないじゃん。さ、お着替えしよ?」

「……う、うん」


 僕は、意を決して、美馬さんが見守る中、制服を脱いだ。


「わぁお……音谷さんって、着痩せするタイプなんだね。スタイル、すんごく良い」


 うん。そうなんだよ。何気に音谷って、脱ぐとすごいんだ。美馬さんが言うように、着痩せするタイプ。

 って、僕は何を解説してるんだ。


「ひゃ!」

「んっふふ。ごめんね。ちょっと触りたくなっちゃって」


 思わず変な声が出てしまったのは、美馬さんが、僕の胸、いや音谷の豊満な胸を後ろから鷲掴みにしてきたからだった。

 触りたくなる気持ちはよくわかる。けど、女子同士とはいえ、いきなりは良くない。心臓に悪い。

 とはいえ、触らせてと言われても困るんだけどね。


「どう? 音谷さん。サイズとか、大丈夫そう?」


 美馬さんお手製のメイド服は、着心地抜群で、サイズもぴったり。デザインもすごく可愛い。

 そしてなにより、鏡に映るメイド姿の音谷が、とにかく可愛い。


「それじゃ、お披露目ターイム! じゃーん! どう? どう? 音谷さんのメイド姿」


 美馬さんが、僕の返事を待つ事なく、更衣室のカーテンを勢いよく開けたものだから、クラスメイトの視線が一斉に、僕へと向けられた。


「は、恥ずかしい」


 恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠し、しゃがみ込んだ僕の耳に、『すっげーかわいい!』『音谷さん、可愛い!』『こんな逸材がクラスにいたなんて!』『俺、惚れちゃうかも』などなど男女問わず様々な声が飛び込んできた。

 いやもう、本当に恥ずかしいから、やめて! みんな、これ以上見ないで!

 こんな恥ずかしい思いをしたのは、生まれて初めてだ。もうこれ、モブ陰キャの僕には、拷問でしかない。


「はい、みんなー! 注目ー!」


 ん? この声は、大鷲さんだ。

 ということは、音谷も着替え終わったということかな?

 僕は、恐る恐る顔を覆っている手の指と指の間から様子を伺うと、カーテンが開いた男子用の簡易更衣室から、大鷲さんが両手を大きく振る姿が見えた。

 そして、大鷲さんに隠れるように、メイド服に身を包んだ角丸、つまりは僕の姿も見えた。


『かわいい!』『角丸くんなの?』『え? マジで?』『女子にしか見えん』『やべ。俺の青春、こじれそう』などなど、こちらも男女問わず様々な声が飛び交った。


 え? 僕って……かわいいのかも。

 僕は、女の子といっても過言ではない自分の姿に、思わず見惚れてしまった。


「これは、やばいね。まさか、角丸くんが、こんな可愛く変身しちゃうなんて、ね? 音谷さん」

「うぇ⁉︎ あ、うん。そうだね」

「よーし、全員、着替え終わったな。うんうん。男子も女子も良く似合ってるぞ!」


 ピンポンパンポン。

 スピーカーから、お知らせを告げる合図音が流れ、生徒会長兼化学部部長である桜花(おうか)先輩による、欅祭開催宣言がはじまる。


「皆さん。おはようございます。本日は晴天に恵まれ、皆さんが創り上げた素晴らしい成果の結晶を披露して頂くに申し分ない欅祭日和となりました。昨年同様、今年も多くの方が来校されると予想されます。1人1人が、武蔵野欅高校むさしのけやきこうこうの生徒として自覚をもち、その名に恥じない行動を心がけて頂き、来校される方々を迎えて頂きたいと思います。そして、何より、皆さんがこの欅祭を存分に楽しんで頂きたい! それでは、これより第77回欅祭を開催します!」


 桜花生徒会長のスピーチが終了し、無事欅祭の開催が告げられると、教室では、渋江先生が最後の激励を飛ばす。

 

「よーし! 始まったな! お前ら、気合い入れていけよ! 全力で、可愛さアピールだ!」


 渋江先生の言葉に、再び『おー!』っとクラス全員の声が重なった。

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