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僕は、もしかするとヒロインになるのかもしれない。  作者: 玄ノロク(くろのろく)


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第46話「何をどうしたら、そうなるの?」

 音谷(おとや)が寒天と水の入った鍋を火にかけたその時、ガラガラっとドアが開いたかと思うと、渋江(しぶえ)先生が息を切らしながら理科室へ飛び込んで来た。

 

「すまん! すまん! 遅くなった。まったく、あいつらときたら、楽しいのはわかるが、脱線しまくりで、作業が進まないのなんのって」

「それを言ったら先生だって、みんなに混じって、大騒ぎしてたじゃないですか」

「んぁ? そうだったか?」

「そうだよぉ」


 渋江先生に続き、美馬(みま)さんと大鷲(おおわし)さんも理科室へ入って来た。


「ごめんね。角丸(かくまる)くん、音谷さん、遅くなっちゃって」

「やっと、あっち落ち着いたから、こっち手伝うよ! あ、前島(まえじま)の班は、まだ終わってなかったから来れないかもって」

「そういえば、矢神(やがみ)くんは?」

「僕なら、ここにいますけど?」


 そう言って、向かいのテーブルから、ひょっこり顔を出したのは、間違いなく矢神だった。

 ちょっと待て。あいつ、いつからいたんだ?

 まったく気づかなかったぞ。怖!


「えっと、矢神、くん? いつから居たの?」


 僕が恐る恐る聞くと、矢神はキョトンとした顔で言う。


「え? 今、皆さんと一緒に入って来ましたけど? あー、もしかしたら、コレを置いたりしてから、テーブルに隠れて見えなかったのかもですね」


 矢神は、床に置いたリュックから、カメラを取り出すと、僕たちに向けてパシャリと1枚、シャッターを切った。


桜花(おうか)部長から頼まれているのですよ。各所の様子を写真に撮るようにと。僕は化学部を中心に、写真部はそれぞれ手分けして欅祭(けやきさい)の様子を撮り納めることになってます」


 なるほど。そういえば、この間の件で桜花部長が写真部にそんな事を要求してたな。


「で? 私たち、何すればいい?」

「えっと、それじゃ、べっこう飴が出来上がってるから、そこの袋に詰めてほしい」

「おっけー! 袋はこれで留めればいい?」


 美馬さんが、ビニール袋の横に置いてあったビニタイをぷらぷらと揺らしながら言うと、音谷がコクリと頷いた。


「だって、あやちゃん」

「よっしゃ! パパッとやっちゃおっか!」


 大鷲さんは、元気よく制服の袖をまくると、美馬さんの隣りに座り、べっこう飴を袋に詰め始めた。


「おーし! 終っわりー!」


 大鷲さん、早っ! 僕が1つ詰めてるうちに、5個は詰め終わってたぞ。


「次は? 次は?」

「えっと……これ、貼ったりとかなら」

「おっけー! それ、どこに貼ればいい?」

「そしたら、あそこの壁とあのパネルに、貼ってほしい」

「ほい、ほーい! 任せて!」


 大鷲さんは、音谷から、まだ展示しきれていなかったポスターを受け取ると、壁やパネルに貼り付けはじめた。


「あぁ、大鷲さん。それは、そこじゃなくて」

「え? 違うの?」

「うん。それはこっち」

「ならさ、カッくんが教えてよ。ね?」

「え? わ! ちょっと」


 大鷲さんは、そう言うと半ば強引に音谷の手を引き、壁際に連れて行ってしまった。


「ねぇ音谷さん。私も終わったんだけど、何したらいい?」

「え? うーんと……」


 べっこう飴の袋詰めは僕も終えてしまったし、肝心の音谷は、大鷲さんに連れていかれちゃったし……どうしよう。

 何をしたらよいかわからず、オロオロしていると、理科室のドアがガラっと勢いよく開き、1人の女子生徒が飛び込んで来た。


「美馬さん、大鷲さん、いる? あ、いた! 2人とも、すぐにクラスに戻ってくれない?」


 ん? あの子は、たしか同じクラスの子だよな。

 名前は……た、た……。


(たか)ちゃんじゃん。どしたの?」


 たか……高橋! そうそう、高橋さんだ。

 大鷲さんのヒントで思い出すことが出来たよ。ありがとう! 大鷲さん!

 とは言っても、僕が勝手にそう思っていただけで、大鷲さん本人は、僕にヒントを出した覚えなんて、微塵もないけどね。


「男子が、衣装合わせの時にふざけてたせいで、数枚破けちゃったの。だから2人にも直すの手伝ってほしくて」

「まったく、あいつら! わかった。今すぐ行く! あ、音谷さん、大丈夫かな?」

「あ、えっと……角丸くん、大丈夫だよね?」

「うん。今日はもうやる事ほとんどないから、大丈夫。今日は、大丈夫だから。また明日、ね」


 ん? 音谷、なんでそんな棒読みなの?


「ありがとう! ごめんね! それじゃ、また明日ね! あやちゃん! 行こ!」

「うん! カッくん、音ちゃん、めんご! またね!」


 慌ただしく理科室を出て行った美馬さんと大鷲さん。

 2人の姿が見えなくなったところで僕は、音谷に小声で質問を投げかけた。


「あのさ、音谷。まさかお前、あの2人を厄介払いした、なんてことはないよな?」


 って、おい。なんで爆速で目を背けた? まさか図星?


「……だって、2人がいたら、作業の手が止まる。だろ?」


 図星だった。


「……んまぁ。たしかにそれは否めないけどさ、2人も化学部の部員なんだし、もう少し手伝ってもらっても良かったんじゃない?」

「今日の作業、あと少しで終わる。やる事がほとんど無いのは事実。それに、ここの部員だって言うなら、本来ならあの2人も部活を優先にすべき。けど2人はクラスを優先した」

「だって、それは」

「わ、わかってる。美馬さんはクラス展の発案者だし、大鷲さんは、クラスのみんなを引っ張るのに必要不可欠なムードメーカー。だから……ここの準備は、私とお前だけでいい」

「……そう、か」


 わかるようでわからない。いやでも、なんとなくわかる気はする。そんな複雑な感情が頭の中を巡ったが、ここは音谷の気持ちを優先する事にした。


「よし! それじゃ、あとひと息、がんばろう!」


 音谷は小さく微笑み頷くと、琥珀糖作りに必要な色水の用意を始めた。


「えっと、僕は、何をしましょう?」

「あ、矢神くん。いたんだ」


 僕が思わず口を滑らすと、矢神は小さくため息をつき言う。


「あの、さっきもそんなこと言ってましたよね? 僕って、そんなに存在感薄いですか?」


 薄いか薄くないかでいえば、薄いと思うけど、なんていうか、お前の場合は、気配を感じないっていうのが1番しっくりくるんだよな。そう、あれだ! 忍者だ! とはいえ、本物の忍者なんて知らないけどね。


「そんなことないよ。ちゃんといるのわかってた」

「本当ですか?」

「本当」

「それなら良いんですけど。それで、僕は何をしたら良いですか?」

「えっと……会場の写真を撮ってほしいかな」

「任せてください。掲示物もお菓子も、ちゃんと写真に収めさせて頂きます!」

「うむ。良い心がけだ。写真部の連中も大丈夫だろうな?」


 いつの間にか三途の川から戻って来ていた桜花部長が生徒会長モードで矢神に迫る。


「はい! もちろんでございます!」

「それなら、いいが。誠心誠意頑張ってくれたまえ。それでは、私は、この辺りで失礼させてもらうよ。生徒会にも顔を出さなければならないからね。そうそう、これは1つ、いただいていくよ。毒味も生徒会の大事な役目だからね」


 桜花部長は、1本のべっこう飴を手に取ると、足早に理科室を後にした。

 毒味って。ほしいなら素直にそう言えばいいのに……あ、でもそうか。桜花部長は生徒会長モードの時は、甘いものは禁忌って設定だったね。

 それにしても、桜花部長、必死だったな。

 そう。僕は、見逃さなかった。桜花部長が、手にしたべっこう飴をすかさず口にくわえたことを。

 それを隠すため、必死に口元を手で覆っていた桜花部長、ちょっと可愛かったな。

 

「え――、私は、何をすればいい?」


 そうだった。この部屋には、もう1人、渋江先生が居たんだった。

 一部始終を黙って見ていた渋江先生は、そう呟くと、辺りをキョロキョロと見回した後、琥珀糖を煮詰めている鍋の前に立ち、中を覗き込んだ。


「お? これ、ちょっと煮詰まりすぎじゃないか? 大丈夫なのか? ……仕方がないな。えっと、これをこうすれば……ん? ありゃ? あぎゃーーーー!」

「ぎゃぁぁぁ!」


 ボンっという音と共に、鍋から煙が上がり、渋江先生の近くで写真を撮っていた矢神から悲鳴が上がった。


「あぁ……カメラが……」


 どうやら、今の爆発のせいで、矢神のカメラが壊れてしまったようだ。


「あの。すみません。カメラの状態を確認したいので、今日はここら辺で失礼します」


 そう言うと矢神は、理科室を出て行ってしまった。

 それにしても、いったい何をどうしたら、こんな爆発が起こるんだ?

 先生も音谷と同じ部類ってわけか。さすがは化学部顧問だ。

 渋江先生が余計な仕事を増やしたせいで……まぁ、その後も音谷がやらかしたりしたこともあり、琥珀糖作りは押しに押して、日をまたぐまでかかってしまった。


「ふぅー。なんとか完成したな」

「お疲れぃ! いろいろあったが、苦労した分、良いものが出来た感じがするな! それと、みんなの頑張ってる姿が見れて、先生は嬉しいぞ!」


 額の汗を拭う音谷と、その隣で、やたらと清々しい顔をしている渋江先生。

 まったく、2人とも。誰のせいでこうなったと思ってるんだ。

 とはいえ、音谷は、1番頑張ってくれてたし、渋江先生も、持ち前のポジティブさで、なんだかんだ僕たちのモチベを保ち続けてくれたわけだから、2人には感謝しなきゃだよな。


「それじゃ、先生。お疲れ様でした。僕、帰ります」

「あ、私も帰ります。今日はありがとうございました」


 音谷と僕が、揃って頭を下げると、渋江先生が、僕たちの肩にポンっと手をおいた。


「先生な、さっき、お前らの家に電話しておいたぞ! 今日は遅くなってしまったから、学校に泊まると。もちろん先生が責任持ってみますと言ってな! どうだ? 気が利くだろ?」

「「え?」」

「心配するな。親御さんからも、学校からも、ちゃんと許可はもらっている。だから、今日は、保健室に泊まってけ!」

「「はぁ⁉︎」」

「安心しろ。紀恵(ゆきえ)ちゃんも泊まってくれるから」


 そうか。宝城(ほうじょう)先生も泊まってくれるのか。

 って、そういう問題じゃないし、安心しろなんて言うけど、逆に不安しかないんだが?


「あの、渋江先生は?」

「私は、職員室に泊まる」

「なるほど」

「それじゃ、2人とも。くれぐれも変な気を起こさないように」

「な⁉︎」


 音谷よ。なぜ、そんなに驚く? 何かあるわけないだろ? 宝城先生もいるわけだし。


「あるわけないじゃないですか」

「な⁉︎」


 音谷よ。さっきとは別の、その驚きはなに? まさかお前、本当に変なこと想像したのか?


「ハハハ! 若いって、良いな。それじゃ2人とも、おやすみー!」


 渋江先生は、不適な笑みを浮かべると、後ろ手を振りながら理科室を出ていった。


「……行き、ますか? 保健室」


 僕が、右頬を右手の人差し指でポリポリ掻きながら呟くと、音谷は、ぎこちなく頷いた。

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