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僕は、もしかするとヒロインになるのかもしれない。  作者: 玄ノロク(くろのろく)


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第35話「意外な新入部員と謎の人物」

 今日は、朝から雨が降っている。

 午後には、止むなんて予報だったけど、部活が始まった今でも、まだシトシトと降り続いている。


「雨、やだなぁ」

「そうだね」


 放課後の理科室。

 窓から空を見上げているのは、美馬(みま)さんと大鷲(おおわし)だ。

 美馬さんは、クラスの出し物であるメイドカフェの話し合いがひと段落ついたようで、今日は、部活に参加している。

 大鷲さんは、女バスが体育館を使えない日と、雨が重なり、今日の指導係はお休みだそう。


「悪い悪い! 遅れた」

「あ、あれ? 前島(まえじま)くん、なんで?」

音谷(おとや)さん、それは、地味に傷つくなぁ。兼部とはいえ、俺も化学部の一員だぜ?」

「えっと、そうじゃなくて。なんで、こっちにこれたの? って」

「あぁ、そっちか。ごめんごめん。今日雨じゃん。雨の日って、男バスの練習、筋トレだろ?」


 だろ? とか、あたかも僕が知ってるかのように言ってるけど、男バスの練習メニューなんて知らないからな。


「だったら、こっちに顔出すべきだよな? った思ったわけよ」

 

 桜花(おうか)部長を除いた部員5人が揃うのって、もしかして初めてじゃないか? ……って、あれ? 1人多くないか?

 1、2、3、4、5、6……僕、音谷、美馬さん、大鷲さん、前島、矢神(やがみ)

 ん? んんん? 矢神?! なんで、あいつが、ここにいるんだ?


「あ、あの、矢神くん? なんで、写真部の君がここに?」

「こんにちは。音谷さん。そして、化学部の皆さん、初めまして。この度、化学部に転部させて頂きました矢神健太(やがみ けんた)と申します」

「転部? どういうこと?」

「ちょっと、思うところがありまして。写真部は辞めたんですよ」

「思うところって?」

「そ、それは……思うところは、思うところです。と、とにかく皆さん、よろしくお願いします」

「よろしくー。私は、美馬穂乃果(みま ほのか)っていいます」

「おう。よろしく。うちは、大鷲。大鷲彩(おおわし あや)

「俺は、前島司(まえじま つかさ)。よろしくな!」


 え? みんな、サラッと挨拶済ませてたけど、なんで、そんな簡単に受け入れられるの? もしかして、陽キャの間では、それが常識なの?


「あ、角丸さんと音谷さんは、既に面識がありますから、自己紹介はなさらなくて結構ですよ」


 ま、まぁそうなんだけど、その言われ方、なんかちょっと、モヤっとするな。そう思うのは、僕だけ?

 音谷の方をチラッと見てみると、音谷もけげんな顔をしていた。

 ほらね。音谷も僕と同じだ。

 と思った矢先、けげんな顔をしていた音谷の顔が、笑顔に変わった。

 急にどうした? ん? 音谷、その手にしているものは、なに?

 僕の目に映ったもの。それは、タイトルこそ確認できなかったが、間違いなく、何かのラノベだった。


「矢神くん。化学部へようこそ! 歓迎するよ」

「いやー角丸さん、ありがとうございます」


 音谷のやつめ。ラノベ1冊ごときで、尻尾を振るとは、情けない。

 と、矢神が、僕のところへ寄ってくるなり、手に何かを握らせてきた。


「これは、音谷さんに。お近づきのしるしです」


 矢神は、ささやくような小さな声でそう言うと、にっこり微笑み、僕から離れた。

 ふざけるな! 賄賂(わいろ)みたいなことしやがって! こんなもの、いるもん……な、なに!?

 握らされたものを突き返してやろうと思った僕だったが、自分が手にしているものを見て、思わず目を疑った。


「え? え? これ、本当にもらってもいいの?」

「ええ。もちろんですとも」


 僕が手にしているもの。

 それは、朝わた祝アニメ化記念イベント時に行われたビンゴ大会でしか手に入らない、激レアの限定アクスタだった。

 はい。僕の負けです。いくらでも尻尾振ります。

 もう、こんなもの握らされたら、僕だって、音谷みたいになって当然だよ。

 いや、だってね。あのイベント、チケットが抽選販売だったんだけど、案の定、倍率が凄くて、購入権当たっただけでも奇跡だったんだよね。

 ちなみに僕は、ハズレた。

 だから、そんなイベントのビンゴ大会でしか手に入らない限定品ともなれば……言わなくてもわかるよね?


「や、矢神くん。あ、ありがとう!」

「いえいえ。喜んでいただけたようで、何よりです」


 僕が、アクスタをカバンにしまっていると、美馬さんが、ぴょこんと顔を近づけてきた。


「ねぇねぇ、音谷さん。今日は、どんなお菓子作るの?」

「え? えっと……」


 さあ、困ったぞ。当然、何をつくるかなんて、考えてない。

 でも、こういう時には、必ずと言っていいほど、音谷が助け舟を出してくれる。そうだよね?


「美馬さん、ごめんね。今日は、みんないるから、欅祭(けやきさい)で、化学部が何をするか話したくて。お菓子作りはお休みだけど、その代わりに、いくつかお菓子買ってきたから、食べながら話さない?」


 キター! 毎度、毎度すみません。そしてありがとう! 助かります!


「そっか。今日は、作らないのか。でも、ぜんぜんいいよ。うわー! これ、どれも美味しいやつじゃん!」


 美馬さんは、コンビニ袋いっぱいに詰まったお菓子をテーブルに並べると、何やら指差し数えはじめた。

 おおかた、自分の取り分を考えているのだろう。


「美馬さん、遠慮なく食べてね」

「いいの!? それじゃ、いただきます! ほえへ、はにふふの?」


 美馬さん、口の中終わらせてからしゃべろうね。


「何をするかって?」


 え? 音谷。今の、美馬さんのモゴモゴ、聞き取れたの? お前って、本当すごいな。


「今年の欅祭では、部員が増えたので、化学部らしいことをしてみようと、音谷さんから提案がありました」

「化学部らしいこと?」


 美馬さんが首を傾げる気持ち、わかる。

 

「てことは、お菓子つくるの?」


 大鷲さん、そうなるよね。だって、僕たちいつも何かしらのお菓子作ってるからね。


「俺は、化学部らしいことって言われてもよくわかんねぇけど、なんか実験みたいなことやるんじゃないの?」


 前島、それな。


「では、詳しくは音谷さんから。どうぞ」


 おっと、音谷よ。いきなりの丸投げか?

 まぁ、いいだろう。


「えっと、化学部らしいというのは、化学とお菓子の融合、つまりは、サイエンススイーツ作りをしてみてはどうかと考えました」

「サイエンススイーツ?」


 美馬さんが、再び首を傾げる。

 うん、そうなるよね。でも、今から話す内容を聞いてくれたら、きっと美馬さん、喜んで賛成してくれると思うよ?


「うん。サイエンススイーツ。それはね……」


 僕は、この間、音谷に説明したように、琥珀糖(こはくとう)やべっこう飴など、具体的な話しをした。


「へぇ、いいね、それ! さすが、音谷さんだね」

「ほんとだね! なんか夏休みの自由研究みたいで、楽しそう!」


 僕の説明を聞いた美馬さんと、大鷲さんが、はしゃぐ。


「俺には、よくわかんねぇけど、なんか楽しそうだから、良いんじゃねぇ?」


 楽しければいい、前島らしい返答だ。


「ええ。実に化学部らしいと思います。僕は、音谷さんの提案に賛成ですね」


 矢神は、さすが理解が速い。お前のことだ。きっと、先回りして、何をするのか、既に考えを巡らせてるだろうな。


「賛成の声も上がったので、他に案がなければ、多数決を取りたいと思います。どうですか?」

「いいんじゃない? じゃあ、今の音谷さんの提案に、賛成の人!」


 なぜか、美馬さんが決を取る形となったが、その結果は……満場一致。6人全員が手を上げた。


「では、化学部の出し物は、サイエンススイーツに決定ということで。申請書は、僕が作って、部長、いや生徒会長に提出しておくね」

「はーい。角丸くん、よろしくね」

「ありがとう。カッくん。よろしく!」

(わり)ぃな。角丸。俺、そういうのからっきしわかんねぇから、助かるぜ」

「角丸さん。よろしくお願いします」


 美馬さんをはじめ、僕以外の全員に言葉をかけられた音谷は、恥ずかしそうに、頬をぽりぽりと掻きながら、はにかんだ。

 そんな音谷に、僕もみんなと同じように、よろしくね、と声をかけた。


「お、おう」


 ふふ。音谷のやつ、いっぱいいっぱいだな。

 でも、その気持ちわかるよ。僕もそうだけど、こういう事に不慣れで、素直に喜べないんだよな?

 音谷の心中は、音谷にしかわからないけど、きっとそうだろう。


「それじゃ、今日の部活はここまで……でいいのかな?」


 僕が歯切れの悪い締め方をすると、音谷が半笑いで言う。


「ふふふ。音谷さん、それ、渋江(しぶえ)先生の真似?」

「そ、そんなつもりはなかったんだけど、なんかそんな風になっちゃった」

「あはは。音谷さん、けっこう似てたよ」

「音ちゃん。おもろ」

「だな。俺的には、音谷さんがそういうことできるって、意外だったけどな」

「ギャップ萌え、というやつでね」


 恥ずかしい!

 全員につっこまれた僕は赤面し、床に視線を落とした。


 ガラガラ。

 そんな中、ドアが開いた。


音谷萌(おとや もえ)くん。は、いるかい?」

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