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僕は、もしかするとヒロインになるのかもしれない。  作者: 玄ノロク(くろのろく)


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第31話「美馬プレゼンツ、メイドカフェ」

 保健室で、桜花(おうか)部長と大鷲(おおわし)さんがしゅんとしていた理由が、未だ分からないまま、2日が経った朝のホームルーム前の教室。

 いつもなら、僕の周りには、美馬(みま)さんと、大鷲さん、それと前島(まえじま)が、いたりいなかったりするくらいなのに、なぜか、今朝は、クラスの半数以上の生徒に囲まれていた。


 少し前のこと。

 いつもと変わらず、席に着き、ラノベを読んでいると、教室に入ってきた美馬さんが、カバンを置き、スティックタイプのバランス栄養食をもぐもぐしながら、僕のところへやって来た。


「おほやはん、おはほ!」


 うん。美馬さんは、たぶん、音谷(おとや)さん、おはよ! って言ったんだと思う。


「美馬さん、おはよう」


 にっこり微笑む美馬さん。僕の返事は合っていたようだ。

 けど、美馬さん。今度からは、食べ終わってからしゃべろうね。


(おと)ちゃん! おっはよー!」

「大鷲さん、おはよう」


 美馬さんに続き、教室に入ってきた大鷲さんも、僕のところへ直行する。

 2人が、僕の周りに集まり、3人もしくは、前島がいれば4人で、何でもない会話をする朝の数分間。ここ最近のルーティーンだ。

 これまで、横目で見ていた、というより、むしろ視界に入れないようにしていた光景。陽キャが騒いでいる目障りな時間だと思っていた朝のひとときが、今は、違って見える。

 姿は、音谷だとはいえ、美馬さんや大鷲さん、前島や他のクラスメイトとも話せて、何気なく笑い合えるこの時間が、今は素直に楽しいと思える。

 見れば、僕の姿をした音谷の周りにも、前島をはじめ、クラスの男子生徒数人が集まり、ケラケラと笑いながら、何かの会話をしている。

 ひとりでいい。その方が、気楽で自由。友だちなんて面倒くさい関係はいらないと、自ら壁を作ってきたことに、今は後悔すら感じる。少なくとも僕はね。

 音谷はどう思っているかわからないけど、あの笑顔を見る限り、僕と同じような気持ちになっているかもしれない。


「あれれ? 音谷さん。今日、メガネは? もしかして……」


 美馬さんは、僕に顔を近づけると、目を覆い隠している僕の前髪を軽く上げた。


「わっはぁー! やっぱり! 音谷さん、コンタクトにしたんだ!」

「う、うん」

「え!? マジ!? わぁ! ほんとだ! あ、でも、それってさ、この間、ボールが顔に当たっちゃったから? メガネ、壊れちゃったってことだよね?」

「う、うん」

「あちゃー。うちらのせいじゃん。音ちゃん、ごめんね」

「ううん。ぜんぜんいい。き、気にしないで。コンタクト、いつかはしてみたいなって、思ってたから」

「ほんと?」

「ほ、本当」

「なら、良かったぁ」


 大鷲さんが、脱力し、そのまま隣の席になだれ込むように座ると、彼女の両肩に、微笑んだ美馬さんが手を置いた。


「音谷さん! コンタクトにしたって、マジ⁉︎」


 机が、ガタンっと傾くほどの勢いで、すっ飛んで来たのは、前島だ。


「う、うん。ほら」


 僕が、何の気無しに、目を覆う前髪を上げると、前島が、興奮し言う。


「わぁ! やっぱり。音谷さん、メガネ外して前髪上げると、めっちゃかわいい!」


 前島の声に反応したクラスメイト、特に男子が、一斉に僕の方を振り向くと、他のクラスメイトと合わせて、わらわらと集まり、あっという間に囲まれてしまった。

 と、これが、今の状況である。


「うわー、本当だ! 音谷さん、めちゃ可愛い!」

「か、可愛い」

「「「かわいい――!」」」


 男子も女子も、集まった誰もが、可愛いの言葉を口にする。

 そんな状況を、さぞかし冷めた目で見ているだろうと、音谷に視線を移すと……ん?


「か、可愛いって、い、言われてる。ヌフフ」


 めちゃくちゃデレてる!

 音谷よ。そのにやけ顔は、かなりヤバいぞ。ほら、隣りで、男子がお前を見て、ちょっと引いてるじゃないか。今すぐ、やめて!


「いやー、音谷さん、コンタクトにして正解だよ。でも、あれだなぁ。これで、みんなに音谷さんが、可愛いって知られちゃったのは、俺的には痛いなぁ」

「何それ、前島。あんたまさかさ、ライバル増えちゃうー、なんて、自信過剰なこと考えてねぇだろうな?」

「え? あ、いや、俺はそんなこと……」

「ほのちゃんのことは、いいのかよ?」

「ばっ! 大鷲、てめぇ」


 大鷲さんが、笑いながらその場を離れると、前島も、待ちやがれ! とその後を追いかけ回した。


「ばーか。てめぇには、捕まえらんねぇーよ」

「くそ! 相変わらず逃げ足だけは、早ぇな」

「は? 逃げ足だけ? 何言ってんの? あんたが遅ぇだけだろ?」

「やろー!」


 しばらく続いた追いかけっこだったが、結局、前島は大鷲さんを捕まえることは出来ず。

 2人は、何事もなかったかのように、僕のところへ戻ってきた。


「ただいま!」

「おかえり。あやちゃん。前島くんも、お疲れ」

「お疲れ」


「お前ら! 席につけ! っ痛!」


 渋江(しぶえ)先生の登場だ。

 教壇の角に、右足の小指あたりをぶつけた先生が、額にシワを寄せる。

 ドンっと、教卓に出席簿を立てると、僕の周りに集まっていたクラスメイトが、それぞれ自分たちの席に戻っていく。


「おはよう。我、可愛い生徒諸君。今日は、この後、欅祭(けやきさい)の出し物について話し合うぞ! やりたいことは考えてきたか? 先生はちなみに……あれだ……んー、だから、あれ、あれをやってはどうかなと……まぁ、とにかく、お前らで、やりたいことを、話し合え! 以上! ホームルーム終了!」


 今日の渋江先生は、一段とキレが悪かったな。出席取るのも忘れて出ていっちゃったし。何かあったのかな?

 とはいえ、逆に絶好調であるともとれるから、なんとも言えないか。


「ねぇねぇ。2人は、何やりたいか、考えてきた?」


 渋江先生が教室を出た後、美馬さんと大鷲さんは、即僕の周りに集まると、さっそく出し物の話しをはじめた。


「うちは、お化け屋敷!」

「お化け屋敷! それもいいねぇ! 音谷さんは?」

「うぇ⁈ え、えっと私は……ま、まだ、考えてない」

「そっか。ほのちゃんは?」

「私はねぇ、やっぱメイドカフェかな? かわいいメイド服着てみたいし」

「メイドカフェ⁈ あの、ご主人様、お帰りなさいませぇーとか、萌え萌えキュン! とかするやつ?」

「それそれ」

「うへぇ。うちは、ちょっとパスかな」


 大鷲さんのあの顔、本気で嫌なんだろうな。

 でも、大鷲さん、ボーイッシュだけど、結構メイド服似合いそうな気するから、ちょっと見てみたい。

 興味本位でそんなことを考えいると、美馬さんが、僕の心の内を代弁するかのように言う。


「えー、あやちゃん、メイド服、似合うと思うのになぁ。絶対かわいいよ!」

「いや、でも。うち、そういうの恥ずかしいし。萌え萌えキュンなんて、ぜったい出来ないもん」


 大鷲さんが、恥ずかしがって、オムライスに萌え萌えキュンする姿想像したら、何か、ものすごく可愛いかもって思ってしまった。ぜひ、やってもらいたいので、美馬さん、もうひと押し、頑張って!


「音ちゃんは、どう思う?」


 おおっと! まさかのキラーパス!


「うぇ!? え、えっと、私も、凄く似合うと、思う。から、見てみたい」

「マジで? えー、どうしよ。カッくんは……どう思うかな?」


 ん? これはチャンスなんじゃないか? 音谷には悪いが、ここは、角丸くんも可愛いって思うんじゃないかとけしかければ、大鷲さんはその気になるんじゃないか?


「えっと、か、角丸くんもきっと、大鷲さんのメイド姿、可愛いって言うと思う。たぶん、み、見たいと思うと、思う」

「うん! そうだよ。あやちゃん! 角丸くんだって、そう思うと思うよ!」


 美馬さん! ナイスアシスト!


「そ、そうかなぁ」


 途端に顔がニヤける大鷲さん。あとひと押し!


「そうだ! この際、男子にもメイドさんの格好してもらおうよ!」


 うぇ⁉︎ まさかの変化球! そっちに舵を切るとは思わなかった!


「男子もメイド! ……てことは、カッくんも……いいね! ほのちゃん、そのアイデア最高だよ!」

「でしょ!」


 何か、想像と違う方向に進んでしまったけど、大鷲さんもなんだかんだ乗ってきたし、まぁいいか。

 実際メイドの格好するにしても、外見は僕でも、中身は音谷なわけだし。悪いけど、恥ずかしい思いをするのは、あいつだ。

 とは言っても、クラスの男子が、この案に賛成するかといえば、しないだろうな。

 ……いや、でも、どうだろう。他校でも女装コンテストとか、けっこう人気あったりするし、これを機に女装してみたいって、男子も少なからずいるのは間違いないと思う。

 だとすると、案外、この案が通る可能性は、否定できないかもしれない。


 1時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り、教室に戻ってきた渋江先生が、欅祭ミーティングの開始を宣言する。


「よーし。お前ら、存分に話し合え! 先生は、ここで見てるからな。学級委員長、あとは頼んだ」

「はい。先生。それでは、第49回欅祭、2年3組の出し物について、話し合いを行いたいと思います。まずは、やりたいと思う出し物を、上げて下さい」


 学級委員長の女子生徒が、挙手を促すと、先陣を切って、美馬さんが手をあげた。


「はい。美馬さん。どうぞ」

「私は、メイドカフェ、やってみたいです!」

「メイドカフェですね」


 書記の男子生徒が、黒板にメイドカフェと書き込む。


「他に、ある方?」

「はい! 私は、ミュージカルがやりたいです」

「はい。ミュージカルですね。他には?」


 当然ながら、僕も音谷も手をあげることなく、動向を静かに見守っていたわけだが、2、3個くらいだろうと思っていた、僕の予想に反して、様々な案が黒板に並んだ。


 メイドカフェ、ミュージカル、たこ焼き、射的、占いの館、普通に喫茶店などなど、大鷲さんではない別の生徒からは、お化け屋敷の提案も出た。


「では、ここからは、プレゼンテーションタイムに入りたいと思います。ここにあげて頂いた出し物について、アピールをお願い致します」


 プレゼンテーションタイム? まさか、そんなワナが仕掛けられていたとは。気軽に意見を出しただけのやつにはキツイな。

 ちなみに、この後、ほとんどの提案者が、辞退したことは、言うまでもなく、残った案は、美馬さんのメイドカフェ、演劇部の女子生徒があげたミュージカル、男子生徒が提案した、たこ焼き屋の3つだった。


「では、お三方は前へ。まずは、どなたからプレゼンされますか?」

「私から、いかせて下さい」


 トップバッターは、演劇部の女子生徒。

 教壇に立ち、深呼吸をすると、プレゼンをスタートした。


「……私からは、以上です」


 演劇部らしい、実に熱の入ったプレゼンだった。

 聞いていたクラスメイトの反応もなかなかだ。

 続く男子生徒のたこ焼き屋も、まずまずの反応。やはり、食べ物屋、それもお祭りの定番ともなれば、安定の人気ぶりだ。

 残すは、美馬さんのメイドカフェ。

 男子もメイドになるという秘策が、どちらに転ぶか。


「えー、私が提案するメイドカフェは、メイドさんに加えて、男女問わず、執事役も取り入れたものにしたいと思ってます」


 ほぉ。初耳だ。しかし、これはなかなか。女子の中にも、当然メイド服を着たくない人もいるだろうし、逆に男装したい人もいるだろう。そういった多種多様なニーズに対応することは大切だと思う。


「もちろん、キッチンや設備担当など、運営サイドにまわることもOKです」


 ふむふむ。たしかに、僕のように、表に立ちたくないと思う人もいるだろうから、そういう裏方枠があるのは助かる。


「それと……男子にも、メイドさんになってもらいます!」


 来た! ドヤ顔で放たれた美馬さん渾身の提案に、当然ながら教室がざわつく。

 プレゼンを続ける美馬さんの顔は、自信に満ち溢れいるが、吉と出るか凶と出るか。


「例えば、メイドさんなら、音谷さんのメイド姿、見てみたいと思いませんか?」

「へ?」


 一斉に、僕に集中する視線。

 その全員が、うんうんと頷いている。

 本当に? 僕の……いやそうか、音谷がめっちゃ可愛いってのは、さっきみんなにバレたわけだし、そりゃ見てみたいと思うよね。着るのは僕なんだけど、僕自身、音谷のメイド姿見てみたいと思うもんな。


「そして……前島くんをはじめ、男子のメイド服姿、見てみたいと思いませんか? きっと、可愛いと思います! どうですか? みなさん!」


 クラスの女子が、目を輝かせ、前島を見る。

 音谷よ。お前まで瞳をキラキラさせるな。


「お、俺? マジか。か、角丸、お前もだかんな」

「うぇ⁈」


 ハハ。完全にもらい事故だな。音谷、悪いがもし、メイドカフェに決まったら、よろしくな。

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