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僕は、もしかするとヒロインになるのかもしれない。  作者: 玄ノロク(くろのろく)


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第20話「大鷲さんの……告白⁈」

 ドリンクバーには、1組のカップルが、何やら楽しそうに、飲み物を選びながらイチャつく姿があった。


「お! リア充。いいなぁ。うちにも、あんなんしてくれる男子(だんす)ぃ、現れないかなぁ?」


 大鷲(おおわし)さんの声が聞こえたのか、カップルは、恥ずかしそうに、そそくさとその場を去っていった。

 

「ねぇ、カッくん」

「は、はい?」


 グラスを手に取った大鷲さんが、振り向き言う。


「カッくんと、(おと)ちゃんって、付き合ってんの?」

「うぇ⁉︎ つ、付き合ってない!」

「ほんと?」

「ほ、ほんと」

「そっか。付き合ってないんだ。仲良さそうだから、付き合ってるのかと思ってた」

「ぶ、部活が同じって、だけ。ただの……友だち。あ、あの。大鷲さん、トイレは、大丈夫?」

「あートイレね。うん。大丈夫。だって、トイレ行きたいっての、ウソだから」


 大鷲さんは、目を細め、何かを企んでいるような笑みを浮かべると、グラスのふちを人差し指の先でなぞった。


「え? な、なんで、そんなウソを?」

「カッくん、案外鈍感(どんかん)だね。そんなの、カッくんと、2人きりになりたかったからに、決まってんじゃん」


 どストレートな返答に、音谷(おとや)がたじろぐ。


「うちさ、カッくんが歌ったあの曲、ほんと、凄く好きなんだよね。うち、バスケやってたでしょ? あのアニメ、うちがバスケはじめるきっかけになったやつなんだよ」

「そ、そうだったんだ」

「そ。うちのパパ、あのアニメでバスケはじめたくちでさ。インターハイに出るのが夢だったんだって。でも結局、俺には才能ないって、中学卒業と同時に諦めちゃって。でもね、私が、ちょっとバスケ出来るようになったら、その夢を私に託してみたくなっちゃったみたいでさ。小さい頃から、よく観せられてたのよ、あのアニメ」

「……イヤじゃ、なかったの?」

「ぜんぜん。あのアニメ観るのすごく楽しかったし、バスケするのも楽しかった。自分で言うのも何だけど、うち、バスケ上手いし。そりゃ最初は、ヘタだったよ。けど、いっぱい練習して、だんだん出来るようになって、パパもすごく褒めてくれて、あのアニメと、なんか、自分を重ねてる部分があって……」


 それまで、楽しそうに話していた大鷲さんの顔がくもる。


「……でも、去年の新人戦で、左足をケガしちゃって、それの治りが、あんましよくなくて、医者には、無理したせいだって、競技は続けられないって……そう、言われて……もう少しで、ほんと、もう少しだったのに……」


 うつむいた大鷲さんの瞳から、ポタリと大粒の涙が落ちた。


「……お、大鷲さん」

「ご、ごめん。こんな話しするつもりじゃなかったのに」


 大鷲さんは、グスリと鼻をすすると、無理矢理作った笑顔で、不器用に笑い、涙を両手で拭った。


「でも、もう少しだけ、うちの話し、聞いてくれる?」

「う、うん」

「うちね、バスケやめてから、あの歌、聴けなくなってたんだ」

「……わかる、気がする。それなのに、ごめん」

「違うの。カッくんは、ぜんぜん悪くない。むしろ感謝なんだよ」

「感謝?」

「そう。感謝。さっき、カッくんが歌ってるの見てたらさ、カッくん、一生懸命だなぁ、なんか、キラキラしてるなぁって思ったんだよね。そしたらさ、うちも、バスケしてた時は、カッくんみたく、キラキラしてたなぁ、でも、今のうちは、ぜんぜんキラキラなんてしてないなぁ、ケガしたこと、ずっと引きずって、後ろばっか見てんなぁって思ってさ。けど、カッくん見てたら、あー、うちも、ちゃんと前向かなきゃダメだなって、そう思えて。心の奥にずっと、つかえてた何が外れた気がして、ちょっと、気持ちが楽になったんだよね」

「そ、それは、良かった」

「うん。だから、ありがと、なんだよ。それとね……カッくんと話すようになって、面と向かって、カッくんの顔見るようになって、その……ちょっと前から、タイプかもって思ってて……今日、カッくんが歌ってる姿見てたら、何か、こう、キュンってしちゃったんだよね。だからさ……音ちゃんと、付き合ってないなら……」


 頬をほんのり赤く染め、潤んだ眼で、音谷を見つめる大鷲さん。

 うぇ!? これって、アレだよね? たぶん、世の中でいうところの……告白? みたいな? 大鷲さんって、角丸のこと、す、好きだったの⁈ も、もし、そうだとしたら……どうする角丸⁈ わ、私、何て答えたらいい?


「あ、いたいた! あやちゃん、角丸くん、大丈夫?」

「へ? ほ、ほのちゃん! う、うん。大丈夫。うちが、飲み物こぼしちゃって。掃除するの、カッくんにも手伝ってもらってたから、遅くなっちゃった。ごめんね」

「なかなか戻って来ないから、どうしたのかなって、心配したよ。でも、それならよかった。って、よくないか? 私に何か手伝えることある?」

「ううん。大丈夫。もう片付いたところだから。えっと、コーラ2つだったよね? カッくんは、何にする?」

「え? ウ、ウーロン茶」

「おっけー!」


 大鷲さんは、何事もなかったかのように、ドリンクを注ぐと、4つのグラスをトレーに乗せ、いそいそと部屋へ戻って行った。


「お待たせー。遅くなってごめんね。はい、これ音ちゃんのコーラ」

「あ、ありがとう」


 大鷲さんに、少し遅れて部屋に戻ってきた美馬(みま)さんと音谷。

 音谷は、なぜか、僕と目を合わさないように、部屋に入ってくると、ソファーの端に座った。


「はい、これ、カッくんのウーロン茶ね」

「あ、ありがとう」


 飲み物を配り終えた大鷲さんが、音谷の横に、肩が触れるんじゃないかと思うくらいの距離で座った。

 何だろう、これ。ぜったいあの2人、何かあったよな? あの音谷の様子は、明らかにおかしいし、大鷲さんは、大鷲さんで、僕をチラチラと見てくるし。

 そんな大鷲さんが、ニヤリと笑う。


「ねぇねぇ、今日はさ、男子ぃもいるし、ちょっとしたゲームやらない?」

「あやちゃん、ゲームって?」

「これ!」


 大鷲さんは、割り箸を4本束ねると、天井に向かってかかげた。


「王様ゲーム!」

「「「お、王様ゲーム!?」」」


 僕と、音谷と、美馬さんの3人は、声を揃えて驚いた。


「あやちゃん、王様ゲームって、王様になった人が、指名して、好きなこと出来るっていう、ちょっと大人な、あのゲーム!?」

「そう。どう? みんなドキドキしてきたでしょ? どうする? やる? やらない?」

「やる!」


 ノリノリで、手を挙げたのは、言うまでもなく美馬さん。

 僕と音谷は、どちらともつかない苦笑いを浮かべた。


「それじゃ、はじめるよ!」


 はやっ! 大鷲さん、用意するの早すぎでしょ。

 僕たちが、何かいい断り方はないものかと、考えているうちに、大鷲特製王様ゲームがスタート。


「せーの、で引いて。いくよ? せーの! 王様だーれだ?」

「……ぼ、僕」

「まじで? 王様は、カッくん! ちなみに今回のくじは、1から3まで番号ふってあるから、指名じゃなくても、番号で呼んで何かさせてもいいよ。例えば1番が王様の肩を揉む、とかね。さ、カッくん、いや、王様、ご命令を!」

「それじゃ……」


 場に緊張が走る。


「1番と2番が……」

「「「1番と2番が?」」」

「て、手を握る」

「へ? 手を握る? それだけ?」

「……それだけ」


 大鷲さんが、拍子抜けした様子で小さくこける。


「ま、まぁ最初はね。こんなもんよね。それじゃ、1番と2番! 手を握って!」


 1番は、僕。2番は、美馬さんだった。


「はい。音谷さん。あくしゅー!」

「あ、握手」


 これは、これで、僕にとっては、思わぬご褒美となったわけで。後で音谷に礼を言っておこう。


「よーし。気を取り直して、2回戦、行ってみよう! せーの! 王様だーれ? って、うちだ!」


 ほほう。次の王様は大鷲さんか……って、なんか、この中で、1番なってはならない人物が、なってしまった気がするのは、僕だけだろうか。


「それじゃ……男子ぃが! 王様に……キスをする!」

「うぇ⁉︎ キ、キッス!」


 音谷が驚くのも無理はない。だって、男子ぃと言われたところで、男子ぃは、この中で、音谷しかいないのだから。


「わぁお! あやちゃん、大胆!」

「ムッフフ! これぞ、王様ゲームの醍醐味だよ。ほのちゃん。それじゃ、会場の男子ぃのみなさん、うちに、キスを! ……ん? カッくん? どした?」


 両手の人差し指をクルクル回しうつむく音谷。


「……は、恥ずかしい」

「うふふ。カッくん、うぶだね。それじゃ、命令を変えて、うちからしようか?」


 音谷は、全力で首を横に振ると、大きく深呼吸をし、大鷲さんに視線を合わせる。


「……ん」


 目をつむり、あごを傾ける大鷲さん。

 普段のギャルっぽさからは、想像できない乙女な一面に、音谷のみならず、僕も美馬さんも思わず見惚れた。


「……カッくん? まだ?」


 右目をうっすらと開け、そう呟いた大鷲さんが、再び目をつむる。


「ほら、角丸くん。あやちゃん、待ってるよ? こういう時はね、女の子に恥をかかせちゃダメなんだって。前に、クラスの子がそう言ってた」


 美馬さんのナイスアシスト! じゃなくて、無茶振りにワナワナと震える音谷が、僕にSOSの視線を飛ばす。

 僕は、しばらく黙って考えた後、コクっと小さく頷いた。


「うぇ⁉︎」


 目を丸くして驚いた音谷だったが、ついには観念し、目をつむりキスを待つ大鷲さんの顔に、その唇を近づけていった。

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