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僕は、もしかするとヒロインになるのかもしれない。  作者: 玄ノロク(くろのろく)


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第18話「入れ替わりたかった本当の理由」

「おはよう、角丸(かくまる)。昨日は、大丈夫だったか?」

「う、うん。大丈夫。宝城(ほうじょう)先生が、家まで、車で送ってくれたから。前島(まえじま)くん、心配してくれて、ありがとう」

「おう。てか、ごめんな。俺が、あんなとこに呼び出したせいで」

「ほ、本当に大丈夫だから。それに、前島くんのせいじゃないし」

「なら、いいんだけどよ。それじゃ、あんま無理すなんよ」


 何の話をしていたか、僕には聞こえなかったけど、音谷(おとや)のちょっと嬉しそうな顔からすると、とりあえず変に絡まれてる感じではなさそうだ。

 って、前島のやつ、何か、こっちに向かって来てないか?


「おはよう。音谷さん! 昨日は、ありがとう。助かったよ」

「お、おはよう。わ、私は別に大したことは、してない」

「そんなことないよ。角丸を保健室まで、運んでくれただろ?」

「私は、運んでない。運んでくれたのは、前島くんでしょ?」

「あ、そっか。俺がおぶっていったっけ。でも、ほら……角丸から、助けてくれただろ?」


 前島は、音谷の方をチラ見すると、小声で言った。


「何かさ、角丸って時々……いや、何でもない。ごめんね、音谷さん」

「え? あ、うん」


 何かを言いかけた前島だったが、こちらを、ジッと見つめている音谷の視線に気づいたからなのか、そそくさと、自分の席に戻っていった。

 前島が、何を言いたかったのか、何となくわかる。

 僕も、ここ最近の音谷の言動や行動が、少し気になっているからだ。

 これは、いろいろこじらす前に、直接聞いてみるのが、いい気がする。

 そう思った僕は、すぐに音谷へRUIN(ルイン)を送った。


 ――昼休みか放課後、話せる? 聞きたいことがある――

 ――話って何? RUINじゃダメなのか?――

 ――直接会って話したい――

 ――わかった。昼休みでも放課後でも、どっちでもいい――

 ――なら、昼休み理科室で――

 ――わかった――


 4時間目の終了と同時に、理科室へ向かう。

 鍵を開け、机に隠れるように身を屈めていると、少し遅れて、音谷が入って来た。


「角丸? どこだ?」

「音谷、こっち。鍵は閉めた?」

「閉めた。で、話って何?」

「うん。えっと、その……前島のこと、なんだけど」

「うぇ!? ま、まぇじまぁくぅん? な、なな、何かな?」


 音谷よ。動揺しすぎだろ。もう、これは、何かあること確定だな。

 

「お前、前島の前だと、何か少し、おかしくないか?」

「お、おか、おかしいって、な、何が?」

「今もそうだけど、テンション、明らかにおかしいだろ?」


 図星。

 顔色が変わり、あたふたする音谷に、もはや隠し通す余裕は無い。


「そんなことはな……くも、ない」

「だよな。何でなの?」

「……」


 音谷は、しばらく沈黙した後、その口を開いた。


「……わ、私、前島くんのこと、ま、前からずっと、き、気になってた」

「それって……前島のことが、好きってこと?」

「す、好きかどうかは、正直、わからない。わ、私、人を好きになったこと、ないから。でも、前島くんを見てると、何か、ほわってするっていうか、ドキドキするっていうか……か、感情が、お、おかしくなる」

「音谷。それ、恋なんじゃない?」

「うぇ⁈ ここ、恋⁉︎ な、何でお前にわかる? まさか! 角丸、お前。こ、恋した事、あるのか?」

「まぁ。こんなんでも一応は」

「……角丸のクセに、な、生意気だな」

「生意気って、お前……」


 音谷よ。お前、僕のこと、何だと思ってるんだ?

 自分が、モブ中のモブ陰キャであることは認めるが、あの子、可愛いなとか、女子と付き合ってみたいとか、ごく一般的に、その辺の男子が思うようなことは、僕でも思うぞ。


「……わ、私が、美馬(みま)さんと入れ替わりたかったのには、ほ、本当の理由がある」

「え? 本当の理由? 音谷は、美馬さんみたいな、陽キャに憧れて、そういう風になりたかったっていうのが、理由じゃなかった?」

「もちろんそれはある。けど、本当は違う。本当は……本当の理由は……」

「……り、理由は?」

「前島くんに、近づきたかった」

「へ? 前島に?」


 音谷は、恥ずかしそうに、頷くと話しを続ける。


「前島くん、た、たぶん、美馬さんの事が、気になってると思う」

「言われてみれば、たしかに。前島のやつ、美馬さんと一緒にいる事、多いかもしれないな。でも、だからと言って、それが、気になってからだとは言い切れない気がするけど? ほら、2人が友達なら、別にそこに、特別な感情がなくても、会話くらいするでしょ?」

「それはそうだが、あれは気になってる、と思う」

「まぁ、たしかに、前島なら、あり得るか」


 音谷が力強く、うんうんと頷く。

 前島と、そんなに親しく話した事ないから、本当のところはわからないけど、ちょっとチャラい喋り方するし、クラスにいても、女子に囲まれてること多いし、彼女取っ替え引っ替えなんてウワサも聞いたことがある。

 だから、僕の勝手なイメージだけど、前島が、美馬さんを狙っていても、おかしくないと思ったのだ。


「だ、だから、美馬さんと入れ替わることが出来れば、自然に、前島くんと話たり出来るかもって、思った」

「そんなの、入れ替わらなくても、普通に、話しかければよくないか?」

「気軽に言うな! じゃあ、なんだ。角丸は、出来るのか? 例えば、美馬さんに、普通に、話しかけられるっていうのか?」

「……ごめんなさい。できません」

「そうだろ。まったく。口で言うのは簡単だ。けど、私みたいなのが、クラスの人気者で、しかもイケメンに話しかけられるわけがない」


 音谷の言う通りだ。僕は、自分の軽はずみな発言を反省した。


「で、でも、実際、入れ替わりが起きて、本来考えていたこととは、ちょっと違ってしまったけど、前島くんと会話出来るようになった。それも、2人きりで」


 そういえば、僕も、音谷になってから、美馬さんや大鷲(おおわし)さんと、話せるようになったし、この間はみんなで、お茶会もできた。なんなら、カラオケにだって誘われた。

 こんなこと、元の角丸(じぶん)だったら、ありえないことだ。


「前島くんと、2人きりになったら、彼を目の前にしたら、やっぱりドキドキして……この体が、角丸だってこと、忘れてしまって……気づいたら、前島くんに、抱きついたり、顔近づけたりしてた……それに」

「それに?」

「……悪いことも考えた」

「悪いこと?」


 音谷は、小さく頷くと、そのままうつむいた。


「……わ、私。このまま、体が入れ替わったまま、元に戻らなかったら、ま、前島くんと……その、び、BL的な、関係になっても、か、かまわないかもって、そんな事、考えてしまった。でも、この体は、角丸のものだし、それは、ダメって思った……本人の同意なしには」


 音谷、お前。最後なんて言った? もし、僕の同意があれば、本当に、前島とそういう関係になるつもりなのか?


「いや、それは、その……」

「わかってる。角丸は、女好きだってこと」


 おーい。音谷さん。それは、だいぶ語弊(ごへい)が、ございませんか? お前、時々、そういう発言するけど、ほんと誤解を生みかねないから、気をつけてくれ。


「わ、私は、角丸が、美馬さんや大鷲さんと、そういう関係になったとしても、か、かまわないからな」

「音谷、お前、自分が何言ってるか、わかってるか?」

「わかってる。だから……角丸は、どうだ?」

「ノーコメントで、お願いします」


 チッと、音谷は、悪い顔で舌打ちした。


「わかった。極力、角丸の意向にそえるよう頑張る」

「まぁ、事情はどうあれ、最近の、音谷の様子が少し変だった理由がわかったから、良かったよ。けど、ひとつ、忠告しておく」

「忠告?」

「そうだ。忠告だ。僕が、気づいていたように、前島も少し気にしてるみたいだから、うかつな言動、行動はひかえるように」

「ま、前島くんが!? ……うう、わかった」

「やばい! 音谷、もうこんな時間だ。早く弁当食べないと。休み時間が終わっちゃう」

「ほ、本当だ!」


 僕たちは、慌てて弁当を理科室の机の上に広げると、急いで昼食を済ませた。

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