【フェーズ外】
◇◇◇ 教室には小学四年生
いつもの教室。
二人の姿は小学四年生に戻っていた。
消しゴムの蓋はバラバラ。スマホの中の手紙はビリビリ。メモ帳はズタズタになっていた。
そして……隣町の小学校では殺人鬼は現れず、南北アメリカもアイスランドも平穏無事、世界の半分も壊れていなかった。
「あっ……戻った?」
「そうね。あのパラレルワールドから帰るためには、やっぱり二人が秘密をばらさなきゃいけなかった」
「そうなんだ……それにしてもビックリだ。十九才の記憶のまま小四なんて天才少年だよ」
それぞれ細い手足を眺める。そして自分の服に描かれた謎な柄を眺めて顔を赤く染める。
これは……私のセンスじゃないわ!
でも、二人で微笑み合う。
「殺伐とした思春期だったわ。濁った水の中を泳いでいるようだった。どうしようもない青春を歩むとこだった。というより悲惨な最後を迎えるしかないと思っていた。だから、私は、眠音くん、あなたとやり直したい」
「そうなんだ。じゃあ、ただの小四から二人でやり直そうか」
「ふふふ、このことは二人だけの秘密ね。これが守られている間はこの世界は平和よ」
「また秘密……えっ? じゃあ別れたり、浮気したら――」
「――速攻で秘密を暴露して、この世界も壊すから!」
食い気味に脅す。
「そんな力。まだあるの?」
「うぅっ……わ、分かんない。もう普通の女の子かもしれない」
「……」
「……」
じっと上目遣いで眠音くんを、私の好きな人を見つめる。ここで例の三人組が見つめ合う二人を囲んでいることに気づいた。
「お前らエロい!」
「付き合ってるのか? じゃあチューしろ」
「チューしろー!」
眠音くんはニコッと、いや意地悪そうに微笑むと、さっと私の腰に手をやり抱き寄せる。
「どちらでも良いや。僕の初恋は君だ。この気持ちは永遠に変わらないから」
そのままキスされた。
呆然とする三人組を放置して、私も満面の笑顔を恋人に向ける。そして最後のセリフを口に出す。
「観測終了を宣言します」
何も起きなかった。
こうして唯の小さなカップルが一組成立した。
この世界の安定は確定した。
どちらかが心変わりするまで。
◇◇◇
ちなみに初恋が成就するのは1%だけ。
だから、この世界の安定も1%の確率だけかもしれない、というのは、この世界だけの秘密だ。
Fin