初恋の人がおねぇになっていた
なろうラジオ大賞2第十四弾。今回は強敵「おねぇ」に挑みました。
当初は「みおねぇちゃんは ときどきへん」というタイトルで、幼児の目線から女子高生と保育士の恋物語を書こうかと思っていたのですが、雰囲気を出す為にひらがなだけで書くのが難しかったので、ストレートに挑戦しました。
お楽しみ頂けたら幸いです。
私は呆然としていた。小学生の頃憧れていた親戚のお兄さんが、
「改めてになるけど、この度はご愁傷様ねぇ」
おねぇになっていた。
「マーにぃ! 何やってんの!」
「んもう、安凪ちゃんたら、昔の名前で呼んじゃいやん。ユウって呼んで」
「はあ!?」
突然の事に頭が追いつかない。優しくて男らしくて、おねぇに憧れる素振りなんてなかったのに!
「何なのその格好!」
「あらどこか変? 四十九日に相応しく喪服にしたんだけど」
「女物でなければね! よく有ったねそのサイズのタイトスカート!」
「借り物だけどピッタリでしょ?」
「その髪は!」
「最近のウィッグって凄いのね」
「化粧までばっちりで!」
「素敵でしょ。今度教えてあげるわ」
駄目だ! 何の恥も躊躇いも無い! 本当に心までおねぇに……!?
「じゃあユウ入りまーす」
「ちょ、待っ、参列するの!? マーにぃの家族も来てるのよ!?」
「その為に来たんだから当然じゃない」
構わずマーにぃは中に入ってしまう。どよめく参列者。もうやだ泣きそう。
衝撃に頭の整理が追いつかないまま、法要は始まってしまった。
法要の後、私は控え室にマーにぃを呼び出した。
「どうしたの? お化粧のコツ聞きたいの?」
「やめて!」
不慣れな科が胸を締め付ける。何で、どうしてこんな事に……。
「声大きいわよ。落ち着いて」
「これが落ち着いていられる!?」
感情が堰を切って涙と共に溢れる。
「信じられない! 馬鹿じゃないの!? おねぇになった男が身内からどんな扱い受けるか見て来たでしょ!? 何でそんな事するのよ!」
「ちょ、ちょっと」
「本家の跡取りがおかしくなったってずっと言われてた! 叔父さんも叔母さんも辛そうだった! なのに何で、こんな……!」
分かってる。マーにぃの人生だ。私が指図する筋合いなんてない。でも言わずにいられない……!
「ごめんなさい……」
「安凪ちゃん……」
「本家の長男がおねぇになったら、おねぇだったお父さんや娘である私への批判が減るから、でしょ……?」
「……鋭いのはお父さん譲りね」
「でもこんな田舎じゃ噂はすぐ広まる! おねぇをやめたって、一度冷たくなった目は消えない! 私がマーにぃの人生を、滅茶苦茶に……!」
「平気よ。おねぇは強いんだから。お父さんがそうだったでしょ?」
にっこり笑うマーにぃは何も変わっていない。私が好きな、優しい、強いマーにぃのままだ。
「ありがとう……」
私は優お兄ちゃんの胸に顔を埋めて泣いた。父と同じ香水の匂いがした。
読了ありがとうございました。
実は最後に、
「マーにぃ、結婚しよっ」
「でもアタシ、勢い余って取っちゃったのよねぇ」
「えっ」
というオチを付けようかと思っていたのですが、文字数の関係で断念しました。優、運の良い奴よ……。
ちなみに名前を男にも女にも読める名として優と命名したら、「マサルお兄ちゃん」と呼ぶたびに字数が減るわ減るわ。やむなくマーにぃと呼ばせた結果、ヒロインは安凪となりました。字違いで安菜とかにしなかったのはせめてもの抵抗。
ともあれこれで「おねぇ」は制覇! 後は……!
ブラック企業「おねぇがやられたようだな…」
ブラウン管「フフフ…奴は四天王の中でも最弱…」
幕末「素人小説家ごときに負けるとは難テーマの面汚しよ…」
Bの意志が強すぎる! 救いは、救いは無いんですか!
頑張りますので、また次回作にもお立ち寄りください。