第八話
数刻後――――――
「さっき……"最強の銃"の話をしていたでしょう。 私の意見を述べても?」
そこには、佇むメビウスと――――――
「興味ないな……チンピラ風情が」
「リボルバー」
腕と胸と脚を貫かれ、虫の息で窓際にもたれ、ダラダラと口から血を垂れ流す久世の姿。死体、飛び散る肉片、そして一面の血だまり。空の弾倉、砕けたガラス片。メビウス一人に、治安警察隊は壊滅していた。
(そんな馬鹿な……隊長達が……あんな一瞬で……!!)
少し離れた場所で、ケイスケだけが無事な姿でバリケードに隠れ、ガタガタと震えている。
「単純な構造故に、小型化、大型化、多用途化―――何にでも化けるリボルバーこそ、最強だと思わない? 少なくともクソつまらないヨタ話の"グリップ"よりはねぇ……?」
「………傍受……されていたのか……」
銃撃戦のあらましはこうだ。
まず一人がバリケードから顔を上げた瞬間、メビウスに首を撃ち貫かれた。
コルトSAA――――メビウスが腰のホルスターから銃を引き抜き、轟音までわずか0.2秒。
狙撃手ヤマネコのライフル弾はメビウスの頭部を掠めたが、彼女の黒髪の結びを解いただけ。"お返し"が狙撃銃のスコープごとヤマネコの脳天を貫いた。
S&WマニューリンMR73"ジャンダルム"――――リボルバーによる狙撃、その距離180m。
負け戦を悟った久世隊長はケイスケに逃げる様に命令を出し応戦したが、散弾の連射でバリケードごと粉砕され被弾、銃も握れずに血反吐を吐いている。
S&Wガバナー――――ショットガン用散弾をリボルバーで6発→リロード→6発! 12発を約5秒。
早撃ち、狙撃、弾幕――――使用した銃のすべてがリボルバー!
メビウスは呼吸一つ乱さず、瀕死の久世にリボルバーの銃口をあてがう。
「命乞いをしなさい。私に媚び、へつらうの」
「………」
久世は少しの間沈黙していたが、やがて絞り出すように呟く。目には涙を浮かべていた。
「……娘が……いるんだ……」
「あぁ………そういえば娘がいるんだっけね……」
メビウスはその言葉を噛み締める様に呟き、銃口をゆっくりと顔から外し、ゆっくりと下げてゆく。
「気持ちは分かるわ。私にも、娘がいたから」
だが、メビウスは下げた銃口を久世の股の位置でピタリと止め、引き金に指をかける。
「アナタ達警察に殺された、世界で一番可愛い一人娘がね」
『パァンッ!!』
「あ゛ッ………があああぁああぁ!!!」
「ふふ……ほら見て? アナタの大事なトコロ、こんなグチョグチョになっちゃったねぇ……」
久世はしばらくの間絶叫していたが
「ほら……とっても苦しいでしょ?……今、楽にしてあげる」
『パァン!』
眉間に二発目を浴びて、久世は口を開けたまま一言も発さなくなった。
「くっ………あああぁぁアァッ!!!!」
その瞬間、ケイスケは泣きながらバリケードから飛び出した。逃げろと言われても逃げられず、それでいて皆殺されるまで隠れている事しかできなかった、自分の不甲斐なさと怒りをライフルに込めて――――
『ドダダダダダーーーッ!!!』
メビウスに向け、ありったけをぶち込む。
「!!」
だが、距離が近過ぎる。メビウスはギリギリでケイスケのアサルトライフルの銃身を弾き、さらにゼロ距離から銃身を蹴り上げた。放たれた弾は轟音と共に天井を破壊し、壁に弾かれた跳弾がケイスケの大腿を貫く。
「ぐああっ!」
「ふふ……まだネズミがいたんだ……」
脚を押さえ、仰向けに倒れるケイスケ。メビウスは奪ったアサルトライフルの弾倉を引き抜き投げ捨てると倒れたケイスケに馬乗りになり、満足げな笑みを浮かべて彼の頬をなでる。
「ぐうぅぅッ……!!」
ケイスケは必死に逃れようとするが、馬乗りになったメビウスはビクともしない。
「チクショウ……チクショウ、女のくせに……!!」
「………165センチ………63キロ。君の身長と体重。大体そんなトコかな」
「……!!」
「私はね、179センチ、70キロある。『女のくせに』と言うけれど………私に言わせれば、ボクが『男のくせに』なんだよ……?」
そう言って、メビウスは恍惚とした笑みを浮かべて喉元に銃を突き付ける。
「最期に聞いてあげる………言い残す事は?」
だが―――ケイスケはこの時を待っていた。コイツは気付いちゃいない。
ケイスケには久世に託された最強の銃がある。ケイスケは返事の代わりに、中指を立ててみせる。
「コイツをブチ込んでやる……」
「そう―――さよなら」
『パァン!』
その瞬間、メビウスの放った弾が即座にケイスケの喉を貫くが――――
「―――――!?」
ケイスケは血反吐を吐きながらもニヤリと笑い、"最強の銃"の銃口をメビウスの額に押し付け、最期の力を振り絞って引き金を引いた――――